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【座談会】春ドラマ〜緊急企画・コロナ禍の中での再放送ドラマ〜

放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第5弾

新型コロナウイルス感染拡大の影響で
春ドラマの延期が相次ぎ、再放送や特別編ドラマに注目が集まりました。
今回は緊急企画として、ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーがオンラインで「コロナ禍の中での再放送ドラマ」を中心に語りました。

新作ドラマが作れない!
再放送の意味

T:新型コロナウイルスの影響で放送業界では各種撮影もストップ。新ドラマも軒並み延期となってしまいました。前代未聞の状況ですが、一方で再放送ドラマに注目も集まっています。今回は緊急企画として、すでにスタートした新ドラマと合わせて再放送のドラマについても語っていきたいと思います。まずは再放送が多く行われたことについては、どうでしょうか。
O:新作が作れない今、過去の名作放送は大歓迎。コロナ自粛が続く日々に楽しみを提供してくれたと思う。名作の活用は新たな視聴習慣を生み出せる可能性も含んでいると感じましたね。
S:バラエティは総集編で新味がないし、ニュースは気持ちが暗くなる。ほんと、ドラマに救われていることを実感します。
Y:自粛期間には動画配信にも注目が集まっているが、週に1回決まった時間に番組を放送する方式は視聴者にとっても一定の合理性があるなと改めて実感しました。普段より長く家にいる人が多い今、過去の名作ドラマやアニメを改めて放送で楽しむとともに、放送・編成の意義や配信との違いを再考するよい機会になるかもしれませんよね。
H:僕は正直、この自粛期間でテレビを見る時間がめっきり減ってしまった。Netflixなどの動画配信で、今まで躊躇していたドラマの一気見や映画を視聴することに時間をとられてしまっている。
K:コロナ禍を機に、“新しいテレビの編成方式”を考える時なのかなと思います。新作ドラマに出演予定の俳優の旧(人気)作を再放送するといったものがそもそもの始まりだったような気もしますが、再放送ドラマのチョイスにも変化があるような気がしていて、今のご時世にきちんとつながる作品が選ばれ始めているとも思います。
K:あと、テレビ東京が「ドラマ24」のリクエストに応えるというのがなんだかラジオっぽくて、また、いかにもテレビ東京らしくていいなと。こうした、これまでのテレビにはあまりなかった動きが広がると、おもしろいですよね。

コロナ禍にフィットした
「JIN-仁-」

T:具体的な作品についてはどうですか?
O:「JIN-仁-レジェンド」(TBS系)で描かれた時代を超えた病との闘いの物語は、新型コロナに怯える社会の空気にピタリとはまったと思う。居住まい美しい武家の人々の生き方を見ていると、こちらの背筋も伸びる気持ちになった。
H:テーマ的にはやはりドンピシャだったと思う。視聴者も「薬」や「治療法」について試行錯誤していく様には、今の私たちの現状を投影して感情移入できたと思う。
T:放送から10年ほど経った現代も色褪せない名作ドラマ。今回見て意外だったのが、映像の明るさ。最近のドラマはしっとりとした映画のような映像が多いが、くっきりとした明るい映像も良かった。
N:「テセウスの船」(TBS系)を見ていた時に、「JIN」に似ていると感じることが多かった。タイムスリップという設定もそうだけど、映像の作られ方が似ているように感じた。今回の「JIN」の再放送は、考えられた流れがあったと感じましたね。
S:「野ブタ。をプロデュース特別版」(日本テレビ系)は、大好きだったドラマが15年を経て再び世に出たことがうれしい。野ブタも修二も彰も色あせてなかった。悩める高校生たちを励まし寄り添う、すっとんきょうな大人たちも変わらずステキだった。「特別版」を謳いながら当時の印象と違和感がないのは、物語の核を大切にしながら再編集してくれているからだと思う。未見の人、15年前に生まれてなかった子はぜひ見てほしい。
I:放送当時見損ねていたけど、作品の面白さだけじゃなくて、「あの俳優……こんなだった」という発見が楽しいですよね。2、3年前ぐらいよりも、これぐらい前のドラマの再放送を編成してくれるほうが、若い人の話題が呼べそうな気がしますよね。
H:案の定、反応したのはSNSによって若い世代だったように思います。当時見ていた人は、その懐かしさを、見たことない人には新しい発見として受け入れられた。それを実現させるだけのパワーがこのドラマ、俳優陣にあったということだと思う。
S:この期間どハマりしたのが「アシガール」(NHK)。初回放送は2017年秋だが、当時なぜスルーしたんだ、と猛省しました(笑)。足軽に身をやつした女子高生(黒島結菜)が、一目ぼれした若君様(伊藤健太郎)のために駆け回る。荒唐無稽なタイムスリップと、いちずな恋心をコミカルに描いていて楽しい。本編前後のあらすじ&見どころ紹介は「赤ペン瀧川」のテロップ芸が炸裂していて毎回爆笑している。
H:この再放送で注目が集まり「月刊ドラマ」には脚本が掲載されるなど、評価は高いですよね。「JIN」にも通じますが、タイムスリップものが受け入れられるのは、「不便さ」を描いているからだと思う。私たちが体験している自粛期間もやはり様々な「不便さ」があって、過去の時代ではそれを知恵や工夫で何とかする、もしくは我慢して乗り越える、といった姿が今の私たちとダブるんですよね。
N:再放送ドラマでは昼に放送している「スーパーサラリーマン左江内氏」(日本テレビ系)も楽しめる。設定もわかりやすくて笑えるコメディだから、こんな時期に合っているように思えます。

「映像研」「光源氏」
「エール」「らーめん」

T:数は少ないですが、新ドラマもスタートしています。そちらについてはどうですか。
K:新作として放送されているものの中で一番ハマったのは「映像研には手を出すな!」(TBS系)。テレビ部門の月間賞にアニメ版が入り高い評価を得たけど、アニメ版はアニメーションとしての面白さや見どころをうんちくや解説を交えて描いていたのに対し、ドラマ版はドタバタコメディテイスト満載の“学園もの”で軽快なセリフ回しや主要登場人物3人(浅草、金森、水崎)のキャスティングが抜群に良かった。ドラマを通じて「友情・努力・勝利」といった某週刊少年誌の三要素を懐かしく感じさせ、忘れかけていた何かを思い出させてくれるのも良い。
Y:原作・アニメの愛すべきキャラクターは実写でも健在で、VFXやアニメも駆使した構成を十分に楽しめる作品に仕上がっており毎週楽しみに視聴できた。欲を言えば、もう少し早い時間帯の放送で小学校高学年~高校生くらいのクリエイティブに関心がある層に見てもらえると、新たな興味を生み出すきっかけになりそう。
O:「いいね!光源氏くん」(NHK)は千葉雄大演じる光源氏の浮世離れ具合が、まったりとさせていい感じだった。伊藤沙莉とのボケツッコミもクセになる面白さ。平安貴族の装束がコスプレ感覚で街に馴染み、ありえない設定を無理なく楽しめている。
S:私も推してます。千葉雄大が光源氏に扮したら見るしかない(笑)。基本ヒモ体質で、抹茶ラテにハマり、感動するとすぐ歌を詠んじゃう。現代から見た平安貴族のしょうもなさと、急に居候されたOL(伊藤沙莉)の思いやりとも恋心ともつかない戸惑いに、うなずきながら見ている。
T:放送の中断が発表された朝ドラ「エール」(NHK)についてはどうでしょうか。
S:久々に男性が主人公ですよね。この主人公は度が過ぎるヘタレだし、筋運びは突飛だし、セリフも画作りもガヤガヤしていて落ち着きがない。でもなぜか欠かさず見ている。物語うんぬん以前に、朝、普通に朝ドラが見られることが正常バイアスが働いている証。これが朝ドラのパワーとも言えますよね。
T:ストーリーは特に面白さは感じられないが、役者の演技は見応えがある。特に薬師丸ひろ子、菊池桃子のふたりの母親、RADWIMPSの野田洋次郎、そして志村けんからは目が離せない。
Y:あとは、今回から平日5日分になった朝ドラ編成も、在宅が続く中で平日/週末の生活リズムをつかむのにちょうどいい気がしており、放送回数変更のタイミングとして結果的に良かったかも。
S:「らーめん才遊記」(テレビ東京)は、天才的な料理センスを持つゆとり(黒島結菜)の鼻っ柱を折るラーメン職人の達美(鈴木京香)の底意地の悪さがむしろ爽快。もう一つの主役、ラーメンがどれもおいしそうで、外食も自由にできない昨今、もはやあこがれの眼差しで見ている。
I:日経らしいビジネス感覚は最低限に抑えられていて、グルメ番組みたいに楽しめている。ただ、夜遅く放送されると、やたらにラーメンが食べたくなりますよね(笑)。

浮き世を忘れさせた
正統派時代劇

N:「きょうの猫村さん」(テレビ東京)。よく息子を連れていく小児科に、漫画が置いてあるので気になっていた。ドラマで初めて内容を知ったが、猫村さんの世界観に触れることで、視聴者は癒しを得ることができると思える作品。
K:「浦安鉄筋家族」(テレビ東京)は、今どきのコンプライアンスをそっちのけして突き進む潔さ、割り切り、爆発力に共感する。「コロナで自粛生活を迫られているなか、せめてドラマの中くらい楽しい思いでいさせてほしい」。そんなストレス解消にもつながるドラマといっていいかも。
H:ただ、原作が強烈なだけに映像化の限界も感じた部分はありますね。原作のどの部分に面白さを感じているかで、ドラマの評価も分かれそう。個人的にはもうちょっといけたんじゃないかと思います(笑)。
T:私の今季いち推しは「FAKE MOTION -卓球の王将-」(日本テレビ系)。マンガが原作かと思いきやオリジナルの物語。それほど、コミック原作にありそうな感じのド直球のスポ根ドラマ。それに「翔んで埼玉」風のコミカルな味付けがされていて、これがなかなかいい。登場する男優たちも個性派揃い。
S:気がめいるからか「いま」を感じる題材は避けていて、代わりにふだん見ない正統派時代劇を見始めた。「雲霧仁左衛門3」(NHK)は、盗賊一味と火盗改の捕物に裏でうごめく悪代官、という三つ巴のバトルを、陰影の深い端正な映像でつづる。さすが、安定の松竹制作。盗賊の頭・中井貴一の静かな佇まいが物語を引き締めている。
I:私も今いちばんの楽しみは「雲霧仁左衛門3」ですね。
K:徐々に注目を集めているのが、テレビ朝日系「M 愛すべき人がいて」。90年代の音楽を直に楽しんでいた世代からするとツッこみどころ満載で、前クールの「テセウスの船」に続いて大映ドラマの本領がしっかり発揮されているなと(笑)。もはや物語がどうのこうのではなく、“いかにも”で“トリッキー”にデフォルメされた業界人を演じる役者たちの一挙手一投足に注目している。
H:田中みな実が演じる役も相当ですよね(笑)。
K:撮影が進まず3話目でストップしているが、1話と2・3話をリミックスバージョン(←このネーミングもavexのオマージュっぽくて笑える)として再放送し、1話には副音声に伊集院光、古市憲寿がオーディオコメンタリーを加えて、ドラマの復習や当時の時代背景を教示するといった初回放送にはない特別感を持たせていた。4話に向けて、ある意味こうした引っぱり方は、話題性の拡散や視聴者の拡大をねらう戦略として、または反応を伺いながらドラマにテコ入れをしていく(コンテンツ力を高める)やり方として、今後アリなのかもしれない。
T:個人的に視聴したドラマを3つほど。「女ともだち」(BSテレ東)は柴門ふみ原作とあって、昭和感たっぷり。2人の主人公の生き方には今の時代では少し違和感を覚えるが、他の“おんな友だち”の描き方は共感が持てる。さらに、謎の青年役の須賀健太がいい味を出している。「ピーナッツバターサンドウィッチ」(テレビ神奈川ほか)は毎日放送制作で、関東地方ではUHF系の局での放送という異色ドラマ。婚活に奮闘する4人の20代女性の姿が、ドロドロに生々しく描かれていく。しかしその様子を、婚活をサポートする謎の組織“ピーナッツバターサンドウィッチーズ”が冷静に分析するという作りがなかなか面白い。「異世界居酒屋「のぶ」」(WOWOW)は、中世のヨーロッパの街に出現する日本の居酒屋。そこで、枝豆や唐揚げに驚嘆する中世の騎士たち。その違和感がこのドラマの大きな仕掛けになっているが、それがなかなか面白い。何と言っても登場する料理が本当に美味しそう。コロナ禍の中だけに、余計に居酒屋に行きたくなる。
I:「美食探偵 明智五郎」(日本テレビ系)は、中村倫也の色気と 小芝風花のコミカルさ、富田生望の存在感と、登場人物の魅力で楽しめてます。

リモート状態下の
チャレンジ

T:こんなところでしょうかね。最後に取り上げるとすると、「今だから、新作ドラマ作ってみました」(NHK)は、NHKらしくない早業。“テレワーク”でドラマを作るという発想がすばらしい。しかも、こんなやり方でも、見応えのあるドラマが作られることを証明してみせた。
S:個人的には、リモート特有の分割画面や割れ気味の音声に邪魔されて、物語の世界に入れなかった。今後、見る側は表現の変化にも順応していかないといけないのかなぁ。
H:コロナ前とコロナ後で、表現だけでなく視聴者のマインドも大きく変化したように感じます。そんな中でリモートドラマや再放送にも光が当たりだした。ここから生まれる新しいドラマに期待をしたいですね。
K:再放送については、NHKで5月10日に放送された「あたらしいテレビ」の中でも「増える再放送・再編集」というテーマがあって、その中でテレビ東京プロデューサーの佐久間宣行さんが「戸田恵梨香が出演していた『スカーレット』(の放送直後に「野ブタ~」を再放送したのは、タイミングをよく考えてのことだったように思う」とおっしゃっていて、その時の流れを汲んで機転をきかせることや時代の空気を読んで何を再放送するかが編成マンには求められるという話ですが、それはどんなときも同じですよね。
I:個人的には再放送をするなら、うんと昔の、何十年も前のドラマが見たいなあと思うけど、権利の処理の難しさもさることながら、ハイビジョンの前のドラマの画質そのままじゃゴールデンタイムには難しいだろうなぁ、とも感じて。再放送にはいくつかハードルはあるけど、乗り越えた時のパワーを今回の再放送ドラマが示したと思いますね。
T:こんなところでしょうか。次の座談会のときには落ち着いているといいのですが。また、本来であれば7月期に予定されていたドラマについても影響があると思う、今後のドラマの動向に注目しながら皆さん健康に過ごしましょう。#StayHome

以上(2020年5月18日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています