★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第41弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、冬の注目ドラマの感想を語ります!
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社会課題を上質なエンタメに昇華
「サラダボウル」「御上先生」
T:2025年も4月に入り新年度を迎えました。3月で冬ドラマが終了しましたので、振り返っていきましょう。朝ドラも終了したNHKからでいかがでしょうか。
Y:ドラマ10「東京サラダボウル」(NHK)は、主演2人の創り出す絶妙な空気感が全編を通して印象的で、深刻な社会問題や事件を映し出す題材に引き込まれました。主人公の髪の色だけでなく、照明や背景まで緑色がポイントとなっており、独特の映像表現が作品を特徴づけていたと思います。また、後半登場した三上博史の迫力ある存在感を改めて感じました。続編にも期待したいです。
K:東京の在日外国人をとりまく課題が国際捜査の警察官を通じて浮かび上がり、発見や刺激を受けました。オーバーステイ、技能修習生等々、ニュースでしか知らなかったテーマがそれぞれの人生に寄り添う物語となっていて、一話ごとが見応えのある上質なエンターテインメントになっていました。主人公・鴻田麻里(奈緒)は熱くアクティブなキャラが魅力的でした。有木野(松田龍平)が麻里に心を開くプロセスが繊細に描かれ、このバディの物語をまた見たいと感じました。同じく続編に期待します。
T:連続テレビ小説「おむすび」(NHK)を見て、「ドラマは脚本が命」ということを再認識しました。脚本の根本ノンジは、「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」「監察医 朝顔」、最近では「無能の鷹」のような原作がある作品では脚色の上手さも見せていました。しかし、オリジナルものの今回は、エピソードに面白さがなく、物語の構成でも盛り上がりに欠けていました。また、“ギャル”要素が最後まで多く、主人公の生き方に共感を覚えられなかったことも、視聴率の低さに繋がったのではと思います。
H:途中にあった主演の不在やドラマ内の時間が一気に飛んでしまう部分など、人気俳優を起用しているということで致し方ないとも思えましたが、やはり朝ドラという毎朝の放送では視聴者が離れてしまうきっかけにはなってしまった部分もあったかと思いますね。
T:TBSはいかがでしょうか? 今期も話題作が多かったように思いますが。
M:日曜劇場「御上先生」(TBS)が描いたのは、低迷する経済に活路を見いだせず硬直化した日本。格差拡大の一方で自己責任論は根強いなか、社会意識や政治への関心も低いまま。そんな現代日本のありとあらゆる社会課題を物語に織り込み、真っ向から切り込んだ極めて挑戦的で優れた作品だったと思います。
K:超進学校の生徒たちは、聡明で高い能力・ポテンシャルを持つがゆえに、教師に与えられたヒントから目覚ましい成長を遂げるので、見ていて爽快感とカタルシスが得られる新しい学園ドラマでした。感情を抑えた演技で、かつてない教師像を演じた松坂桃李にも引き込まれました。自分の頭で考え続けろと御上先生は生徒たちに言い続けます。そして導き出されたのは人として真っ当な選択で、その積み重ねに未来の希望があると感じさせられ、視聴者にも強いメッセージが残りました。教育とは何かという難題に真正面から向き合った素晴らしいドラマだったと思います。
H:今期の中では、最も刺激的な作品だったと思います。御上先生は常に「考えろ」と言い続け、生徒は反抗しながらも自ら答えを出していく。答えを受け取った先生はそれを許容する。教育、報道、司法、様々な視点で、これからの若い世代に「託したよ」という制作者の想いが伝わってきました。それは大人たちの諦めにも感じるのだけれど、「寄り添うべきは弱者」というセリフはドラマの背景にある停滞している日本社会や“上級国民”に対する反省を促すメッセージに感じました。
M:「パーソナル イズ ポリティカル」というキーワードを軸に、教育行政、教科書検定、生理の貧困、ヤングケアラー、未成年の自殺、職場での性暴力、ジャーナリズム、政治の癒着、戦争などなど……各回これでもかというほどイシューが投げ込まれましたが、クールで理知的な御上のもと、生徒たちが自ら気づき問題解決を経て成長していく。また同時に御上や生徒たちの人間関係が深まっていくところにも、物語の面白さや感動がありました。中学生の娘も回を追うごとに引き込まれて、思うところがあったようです。社会課題をエンターテインメントとして見事に昇華したドラマとして「虎に翼」は記憶に新しいですが、その後継といいたくなる素晴らしい作品でした。
H:驚かされたのは堀田真由の演技。勝手な思い込みで男性だと思っていた犯人が、女性という衝撃の演出はもちろん、面会を通じて変化していく心情を見事に演じていました。最終回、母親(常盤貴子)とのやりとりは心が震えました。
K:生徒役の奥平大兼、蒔田彩珠、髙石あかり、窪塚愛流なども演技・存在感が抜群で、若き才能に出会えたのも学園ドラマならではの楽しさでした。
Y:金曜ドラマ「クジャクのダンス、誰が見た?」(TBS)は最終回まで真相が読めない展開で、どうなるのだろうと毎週続きが気になっていました。広瀬すずの真っ直ぐな目線が、父親を信じ続け真実を追い求める主人公にぴったりでした。松山ケンイチの「虎に翼」を思い出すような甘いもの好きのキャラクターもよかったです。
日曜の夜にゆっくり浸る「ホットスポット」
現代人に寄り添う優しい味わい「晩餐ブルース」
T:「ホットスポット」も注目を集めていましたね。
Y:日曜ドラマ「ホットスポット」(日本テレビ)は日曜の夜にゆっくり楽しく見られる緩い内容でありつつ、実は作り込まれたドラマで見応えがありました。すべてのことが伏線、というわけではなく、視聴者の深読みしすぎる傾向を逆手に取っているような面もあるバカリズムの脚本がさすがでした。主人公たちの会話劇の秀逸さはもちろんのこと、最終回でのタイムリーパーの山本耕史の無駄遣いなど、面白い仕掛けも楽しめました。
K:細部の描写はリアルなのに物語のプロットが斬新で、そのギャップを楽しめたドラマでした。 特異な能力があるゆえに自尊心と生きづらさがないまぜになってしまう髙橋さん(宇宙人)が、地元に根を張り地に足のついた同級生女子たちの他愛ないおしゃべりに取り込まれていきます。個性をナチュラルに受け入れ共生し、年月を重ねる逞しい女性たちの前に、宇宙人はなすすべもない。その構図になんともいえないおかしみがありました。 大物キャストを脇役で登場させる思わせぶりな演出や、違和感を散りばめあたかも伏線のように見せて視聴者を煙に巻くという、バカリズムの策略にしてやられた感も含めて楽しめました。
T:「119エマージェンシーコール」(フジテレビ)は119通報に対応する指令管制員の仕事ぶりがドキュメンタリータッチで描かれていて、毎回、緊張感を持って見ていました。野沢雅子、山寺宏一といった大物声優が、通報者として出演する楽しみもありました。今クールでは“拾いもの”のドラマでした。
H:そうですね。見ていて楽しかったです。ただ、実際の現場はこうはいかんだろ、ということも多々あって、フィクションとのバランスは難しかったかなぁ。
N:水ドラ25「晩餐ブルース」(テレビ東京)の一話で、主人公が仕事で疲れて、ゴミだらけの部屋で横になったまま携帯を見ているときに、涙が知らず知らずに流れている場面を見て、胸を掴まれました。現代人の感じる、自分でも気づけない疲弊感に対しての解像度が非常に高く、毎週、このドラマを強く求めている自分がいました。派手さはないドラマだけれど、こんなに言及数の多いドラマになったのが凄いと思いました。
T:登場人物に共感できるという点では今期一番のドラマでした。ドラマディレクターにレストランの元料理人、コンビニ店長という3人の同級生が抱える問題を、具体的な台詞を使わずに、その辛さや心の動きをごく自然に表現。その脚本の素晴らしさと、明度を抑えた映像、そして3人の役者の繊細な演技が相まって、静かな感動を呼ぶ作品になっていました。毎回登場する料理も、心まで温まりそうな優しい味わいを感じました。
M:「働くこと」「よき労働者たれ」という価値観が優先され、同調圧力が高く、社会的成功への圧力のある社会。生活が蔑ろにされ人間らしさを失い、自分をすり減らしていた男性が、自分をみつめ、大切なことに気づき、回復していく物語だったと思います。男性目線で、ここまで職場の傷づきを丁寧に描いた作品は画期的に感じました。加えて、ボーイズラブなしで3人の男友だちが、男性同士のケアを描いた点もエポックメイキングに感じました。調理や食事風景の“飯テロ”はもちろん魅力的でしたが、時より挿入される、光や植物、川など、主人公が五感を取り戻すようなシーンも印象的で、こういうのわかるなぁ、と。自分を大切にしようというメッセージは、同世代の視聴者に深く共感されたのではと思います。
T:その他個別にあればお願いします。
N:ドラマL「トーキョーカムフラージュアワー」(朝日放送テレビ)は芸人のヒコロヒーが脚本を担当したドラマ。でも、そんなことを意識せずに見ることができました。恋愛ドラマは今もたくさんあるけれど、ドロドロの不倫ものとか、胸キュンに振り切ったものとか以外は、意外と少ないイメージでした。このドラマは、現代の東京に(ほかの地域にもいるとは思いますが)いそうな、リアルな今の感覚で書かれているような作品になっていて、一度見始めてからは、最後まで見てしまいました。
M:ドラマチューズ!「マイ・ワンナイト・ルール」(テレビ東京)は「33歳、性欲がとまらない」というタイトル通り、自分の性欲を認め、自分なりのワンナイトルールを決めていく女性の物語。まさに「女性の性欲」がテーマのドラマで、これまでないことにされていた女性の性欲やいわゆる女性の性の自己決定権をテーマに据えた、野心的なドラマだったと思います。難しい役どころを、足立梨花が軽妙なバランスで演じていて、性衝動を抑えるために激辛料理を食べたり、抑えきれずに鼻血を流したりするコミカルな面がある一方で、仕事にも人にも誠実で、でも下衆な男にはちゃんと「NO」が言え、モヤモヤしたら自分の感情をきちんと言語化し掘り下げていく、理性的で“小賢しい”アラサー女性の人物像も好感が持てました。
T:ドラマ25「風のふく島」(テレビ東京)はすべて福島県が舞台の物語なのに、監督や役者、ロケ地、そしてテイストが毎回違うところが興味深く、いずれも実話を元にした心温まるエピソードが秀逸でした。第7話の本田響矢、第9話の青木柚など、若手実力派俳優の演技も見もの。さらに本人と役者のツーショットのエンドロールも、同じテレビ東京の「絶メシロード」と一緒でほっこりとしました。
Y:2月に全3回で放送された土曜ドラマ「リラの花咲くけものみち」(NHK)も良かったです。元引きこもりの少女が獣医師を目指し、一歩を踏み出す過程が丁寧に描かれていました。山田杏奈の透明感が北海道の美しい風景に映えるとともに、馬や牛の出産などがドキュメンタリーのように映し出され、命の尊さが伝わりました。連ドラ以外でも単発や数回シリーズで見応えのある作品がいろいろ放送されているので、できるだけ見逃さないようにしたいものです。
T:名作、秀作の多いクールだったのではないでしょうか。続々と新ドラマもスタートしています。引き続き、チェックしていきましょう。
(2025年4月4日開催)
※主に関東地区で放送された番組を取り上げています