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【座談会】2024年夏ドラマまとめ編

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第37弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2024年夏の注目ドラマの感想を語ります!

「はて?」を問い続けた「虎に翼」
気づきと力を与える物語の強さ

T:ようやく暑さも落ち着いてきましたね。さて、9月も終わり夏ドラマが最終回を迎えました。総括をしていきましょう。まずは、9月末に最終回を迎えた朝ドラからいきましょうか。
Y:連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)は現代も続く数多くの「はて?」に改めて目を向けるきっかけをくれた素晴らしい作品でした。登場人物一人一人の人生をより深く見てみたかったと欲張ってしまうくらい、最終回を迎えたのが惜しい気持ちです。中身の詰まった物語を毎日楽しめたことをありがたく思っています。
M:全130話、総1950分の1分1分すべてが素晴らしく各回心が揺さぶられました。最終回の終わり2分のエンドロールでこれまでのすべての登場人物を愛おしく感じ、物語からのメッセージを受け取って、もう一度始めから見直したくなる、そんなドラマは初めてでした。日本が抱える社会課題に正面から鋭く切り込み、憲法とは、主権とは、戦争とは、差別とは、家族とは、愛とは、人の営みとは、さまざまな問いを投げかけてくれました。さらに現実の問題としてある、共同親権、夫婦別姓、黒い雨裁判、袴田巌さんの冤罪判決、労働基準法や憲法の変更議論など、たくさんのことがドラマの内容とシンクロしていました。視聴者に深い気付きと力を与える物語の力よ。まさに極上のエンターテインメントでした。
T:日本初の女性弁護士をモデルに、「女のくせに生意気な」「女らしいふるまいを」という偏見や差別、不平等に立ち向かっていく女性の姿を正面から描いたドラマでした。しかし、この主人公だけでなく、性的マイノリティーや障害者、高齢者、被爆者、海外出身人など社会の中で生きづらさを感じている人たちの、声なき声に寄り添った描写は見事でした。しかも、それが笑いあり、涙あり、そして家族愛ありという朝ドラのフォーマットの中で描かれていて、脚本力、演出力、演技力が光る、近年まれに見る傑作ドラマになりました。
N:各分野の専門家の考証の元で、脚本家の吉田恵里香さんが、どんどん成長していった様子が伺えました。社会的な問題を扱ったり、フェミニズムをテーマにしたりするドラマは今までにもありましたが、朝ドラでここまでさまざまなことを詰め込んで、しかも人々に愛される作品は初めてだと思いますし、ほかのドラマも続いてほしいです。
Y:最終回前に放送された特番での伊藤沙莉と米津玄師の対談、女子部の皆さんの座談会、そしてタイトルバックのフルバージョンもとても良かったです。

社会への痛烈な風刺「新宿野戦病院」
信頼や愛情にあふれた「西園寺さん」

N:「新宿野戦病院」(フジテレビ)は危ういところはありましたが、最終的に、コロナのようなパンデミックの世の中が再びくることを描いていて、ありえない世の中ではないなと思いました。実際、比較的初期にコロナに感染していた宮藤官九郎ならではのドラマだと思いましたし、個人的には「不適切にもほどがある!』よりも、むしろ伝えたいことがストレートに出ているのではないかと思いました。
K:コロナ禍の出来事がもうパロディに仕立てられるなど、クドカンらしい社会批判がちりばめられているのはさすがでした。
Y:命を平等に扱うヨウコ先生(小池栄子)の言動、行動が一貫して力強く印象的でした。トー横キッズ、ホストクラブ、キャバクラ、路上生活者、在留外国人などの様子を通し、2020年台の新宿・歌舞伎町の空気感、街の風景が映し出され、後々貴重な記録になる気もします。そして物語の最後にはコロナの反省が生かされないまま新たなウイルスに対応する社会の様子が描かれました。変われない世の中に対する痛烈な風刺になっているように見え、宮藤官九郎の脚本の奥深さを実感しました。
T:クドカン初のフジテレビドラマ&医療ドラマであり、演出はフジのトレンディドラマの旗手、河毛俊作。歌舞伎町のライブ感を巧妙に再現し、今風の話題・問題を数多く盛り込みながらも、笑いやリズムなど多くの人を楽しませるエンタメ性もたっぷり。このコンビ、なかなか素敵だと思いました。昭和風の耽美的なエンドクレジット、そしてサザンオールスターズの主題歌『恋のブギウギナイト』も良かったです。
K:仲野太賀はじめ、「虎に翼」キャストとのかぶりが話題でしたが、偶然とは思えないほど次々と登場。朝ドラで活躍した俳優が、民放ドラマで全く異なるキャラを演じるのは役者の振り幅を楽しめる面もありつつ、放送中の「虎に翼」でのイメージを打ち消すのが少々難しくもありました。
N:火曜ドラマ「西園寺さんは家事をしない」(TBS)は家事を性別役割分業として、当たり前に女性がするものと考えない、という最初のテーマがあり、その中で、「偽家族」をどうしていくか、つまりステップファミリーになるという過程を描いていくということが興味深かったです。最終話、西園寺さんの母親(高畑淳子)が出てきて、別の男性と家を出て行ったことの心境を語っていたシーンがあったことで、グッとドラマの深みが出ていた気がします。
Y:嫌な人が出てこない、平和な世界の愛にあふれる物語でした。疲れた仕事後に見るにはこういうドラマがあってもいいよな、と改めて思いました。西園寺さん(松本若菜)のファッション、特にアクセサリーが素敵で、そこも毎回見どころでした。センセーショナルな内容のドラマが注目されがちな中、ゆっくり見て幸せな気持ちになれる作品の良さにも目を向けたいところです。
K:偽家族、仮彼氏、家事をしない女性など、新しい役割や人間関係が提示され目が離せませんでした。恋愛より家族的な繋がりを重視するなど、社会通念にとらわれず身近な人間への信頼や愛情が描かれていて共感を覚えました。ヒロイン西園寺さんの楽観的で突き抜けた明るさに癒やされ、バリキャリ女子の素敵さが凝縮されたファンタジーとしても楽しめました。松本若菜、これから注目を集めそうです。 そして楠見くん(松村北斗)の娘・ルカちゃんを演じた、たった4歳の倉田瑛茉ちゃんの文句なしの可愛さと演技に拍手です。
H:同じく家族がテーマの「海のはじまり」(フジテレビ)は全体を通して丁寧に紡がれた作品でした。画作りから音楽、演出の細部にまでこだわりが見えた。学生時代の恋人に中絶したと思っていた自らの子どもがいて、その元恋人の死をきっかけに子どもと向き合っていくストーリーは終始暗さや重さが感じられて、なかなか月曜日の放送にはしんどかったです……。けれど、視聴スタイルがさまざまに変化している中で、枠に捉われない作品としては良かったのだと思います。脚本の生方美久さんはやはり美しいセリフを書きますね。ただ、この作品では若干詩的になりすぎていた感もあるし、ストーリーの消化不良感も拭えなかったと思うので、次回作にさらなる期待をしたいです。
K:生と死をめぐるシリアスなテーマで、見ていて辛くなることもしばしば。それでも見続けたのは、主人公・夏をはじめ登場人物が不器用ながら一生懸命で、その行方を見届けたかったから。けれど亡くなった人が最後まで物語の主導権を持ち、生きている人たちの人生を左右することに割り切れなさが残りました。愛ある人々が手を携えて新たな関係を作り出してほしかったし、夏と弥生さんは新しい家族として生きてもよかったと思います。

キャスティングの妙が光る作品群
丁寧な作りにも注目

T:その他、個別に取り上げたい作品があればお願いします。
B:金曜ドラマ「笑うマトリョーシカ」(TBS)を挙げたいです。櫻井翔という役者は、「ザ・クイズショウ」「家族ゲーム」など、綺麗な仮面の裏に隠された狂気を持つキャラクターの演技に秀でていますが、「綺麗だがミステリアスな政治家」の謎に迫る本作との相性は抜群だったと思います。特に最終話で怪物のような本性を曝け出すシーンは、息を呑む怪演でした。黒幕などなく、やりたい政策もなく、みくびられた復讐のためだけに権力を集め、最終的に総理大臣にまでなってしまう自分に恐怖を感じる最後には、哀愁も感じさせられました。また、主人公によって裏の顔が暴かれても、結局有権者は本質を理解しようとせずにカリスマを信奉し、憲法改正まで達成するラストの展開も、政治ドラマとして踏み込んでいて考えさせられました。
K:ドラマ24「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」(テレビ東京)は街をテーマにした群像ドラマ。ザラッとしたドキュメンタリーのような映像と、MOROHAのラップがカッコよかったです。錦糸町は巨大な繁華街でありながら、これまであまり語られてこなかったかも。掃除屋3人の日常を主軸に多くの人間模様が描かれ、客先のスタートアップ企業、フィリピンパブ、いじめやセクハラなど、地域や時代を映すエピソードにも興味をひかれました。キャストも車椅子の裕(柄本時生)、プロバスケ選手を目指していた大助(賀来賢人)などそれぞれ魅力的。他にも300年生きている駄菓子屋のおっちゃん(星田英利)や、悪を裁く孤高のルポライター(岡田将生)など、都市伝説的なサブキャラが街に奥行を与え見応えがありました。
M:土曜ドラマ「Shrink〜精神科医ヨワイ〜」(NHK)はわずか3話のドラマでしたが、精神障害をドラマの軸に据え、視聴者にもわかりやすく病気の症状や治療方法を解説してくれました。当事者のみならず、周囲にも支援を啓発するような内容だったと思います。中村倫也のまなざしと声が優しく、「新宿ひだまりクリニック」のような温かい精神医療の存在を描く一方、派手な広告で薬だけを処方するような医療者もいるといった精神医療の課題も描かれていました。人間らしいケアやきちんとした支援が受けられる、そういった“安心して絶望できる”社会 に思いを巡らせることができるドラマでした。
T:ドラマNEXT「ひだまりが聴こえる」(テレビ東京)は、最初は流行のBLドラマかと思いきや、ふたりの大学生の心のふれ合いや成長を丁寧に綴った見事な青春ドラマでした。特に障害をステレオタイプで描くのではなく、難聴にも個人差があり、そのことで悩んでいる人たちの心理を繊細に描写していたあたりは好感が持てました。主演ふたりの少しぎこちない演技も、逆に青春期ならではの不器用な生き方を表現していたと思います。また、BLドラマの要素は少なく、ぜひ多くの若者に見てもらいたい普遍的な青春ドラマです。
H:土ドラ「嗤う淑女」(東海テレビ)はある種のカリスマ性を持った女性が周りの人たちを意のままに操りながら人を破滅へと追い込んでいく物語。最終回ついに年貢の納め時かと思いきや、ラストは「そんなことあるかー」と言いたくなるようなオチだったのですが(笑)。主人公・美智留の不気味さを内田理央がうまく表現していたのが印象的でした。
B:もう1作品。「あの子の子ども」(関西テレビ)は高校生が妊娠をする、そして出産を希望するというだけでさまざまな障壁があり、でもその障壁だと思っているものも、実は親や学校など、それぞれの立場による善意や責任が故のものだったりする、というメッセージがとても胸に刺さりました。作中でも言及されている通り、決断に正解なんてなく、いかに正解にしていくかが大事という結論も胸を打ちましたが、とはいえ生命の誕生に対して、「理想と現実」に向き合わなければならない社会自体がどうなのだろうと考えさせられました。役者陣の演技も、映像自体も高クオリティで、より物語に説得力がありました。
T:放送開始から好評だった「虎に翼」、話題作の「新宿野戦病院」「西園寺さんは家事をしない」に評価が集まった印象ですね。10月に入り、すでに新しい朝ドラ「おむすび」がスタートしていますし、秋ドラマも次々とスタート予定です。引き続きチェックしていきましょう。

(2024年9月27日開催)
※主に関東地区で放送された番組を主に取り上げています
※記事内容に一部誤りがございましたので、修正いたしました(2024.10.3)