★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第36弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2024年夏の注目ドラマを語ります!
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令和の人情とカタルシスに期待
「新宿野戦病院」
T:連日酷暑が続いていますが、そんな時には家でドラマを。ということで、夏ドラマがスタートしています。注目作品など、語っていきましょう。
Y:「新宿野戦病院」(フジテレビ)は宮藤官九郎らしく現代を切り取っているドラマだなと面白く見ています。「池袋ウエストゲートパーク」(2000年、TBSテレビ)を今見ると、当時の空気感や街の感じ、ドラマとしての表現などを改めて認識でき興味深いのですが、この作品も同じように、2020年代半ばを絶妙に映し出した作品になるかもと期待しています。
K:同感です。「池袋ウエストゲートパーク」を彷彿とさせるクドカンの街モノ群像劇。小池栄子、仲野太賀、岡部たかしなど、勢いのある役者が揃い個性的なキャラを演じています。
T:クドカンのドラマは脇役が秀逸。今回も平岩紙、岡部たかし、塚地武雅がいい味を出していますが、私が注目しているのは泌尿科医・性病科の医師を演じている馬場徹。これまでは日曜劇場などでのちょっと悪ぶった役が多かったのですが、ここではイケメンを売りにしたコミカルな役柄で絶妙な味を出しています。
K:歌舞伎町の救急病院を舞台に、トー横キッズ、ホスト、パパ活など旬のテーマがてんこ盛り。医師も警察もやたら人間臭く、笑わせながらも結構社会風刺を効かせていますね。3話まではまだドタバタ感が強いですが、この先宮藤官九郎らしい令和の人情とカタルシスを描いてくれるはずと期待しています。
H:色んな小ネタも多いので、その辺がどうハマってくるかですね。橋本愛の役どころも1話だとつかみどころが無かった。今後の展開が気になります。
Y:小池栄子の英語の発音が気になるとの指摘もあるようですが、海外生活が長い=ネイティブの発音、という印象自体が偏った見方なのかもしれません。このようなさまざまな観点を考える意味でも、興味深いきっかけを提示しているようにも思えます。
H:視聴者としては、聞きにくい英語を使うキャラクターになんでこだわったのかは気になりますけどね。アメリカ帰りだけどバリバリ岡山弁オンリーでも良かったのでは?という気持ちはわからなくもない(笑)。塚地が演じるナースがいちいち翻訳しているので、その辺に伏線があるのかもしれないけど……。
テイスト異なる家族の物語
「海のはじまり」「西園寺さん」
K:「海のはじまり」(フジテレビ)は「サイレント」チームが主役を目黒蓮に据えて、本気度の窺える話題のドラマ。初回から物語の核心に触れ、元彼女の死から始まるショッキングなストーリー展開もサイレント流です。主人公が現在の彼女・有村架純とともに、過去をどのように未来繋げていこうとするのか、繊細な心情を描く生方美久の手腕に期待して見ています。泉谷星奈ちゃんの、子役ながら天才的な演技を見るのも楽しみです。
H:一語が持つ多数の意味を場面ごとに使い分け、日本語の美しさを表現するのは相変わらずですね。ただ、正直いかんせんテーマが重い。月曜9時だとちょっと落ち込みませんか? キャストが引き込む演技を見せているからこそ、ちょっとしんどい場面も……。
Y:まず、娘を亡くした母親役の大竹しのぶの表現力が突出している点に見応えがあります。祭壇にこぼした水を謝りながら拭くシーンが印象的でした。一方個人的な印象ですが、急に自分の娘がいることがわかった主人公が、状況を短い時間で受け入れた理由が伝わらないことをはじめ、見ていて疑問が残るのも確かです。現時点では、人の生活や感情を描くというよりも、ストーリーありきで登場人物が動いているように見える気がします。
H:そこですよね。ストーリーを動かすために、「中絶」をキャラクターの1つの要素として軽く描きすぎているようにも見えました。それが現代ということも言えるのかもしれませんが、個人的にあまり好きではありません。
Y:難しいテーマを描く作品だからこそ、今後の展開では感情が伝わる表現やセリフが見たいなと思います。その点、人の感情を細やかに描いた前クールの「アンメット」は素晴らしい作品でした。
N:火曜ドラマ「西園寺さんは家事をしない」(TBSテレビ)は家事アプリ制作会社の社員で38歳、一人暮らしを満喫中で家事を一切やりたくない西園寺さん(松本若菜)と、シリコンバレー帰りの天才エンジニアの楠見(松村北斗)が「偽家族」になるという設定が斬新で引き込まれました。冷静で愛想がなくて理屈っぽいけれど、人間的なところもあるという役を松村北斗がやっていますが、映画『夜明けのすべて』を彷彿させるところもあり、適役のように思います。この先、どのようにキャラクターの良さが見えてくるか、「家事」ということに関しての考えが見えてくるのかも楽しみです。
K:「海のはじまり」同様にこちらも父と娘ものですが、コミック原作の人物設定にエッジが効いていて、コメディタッチなのでテイストはまったく異なります。松村北斗が4歳の娘のシングルファーザー役で、仕事より子育て優先、とにかく娘に優しい男性。一方バリキャリで熱血漢、家事はしないと決めている主人公の女性。真逆の二人がどう心を通わせていくのか注目しています。松村北斗の父性全開の演技が新鮮で、娘ルカ役の倉田瑛茉のとてつもない可愛さに引き込まれます。
Y:バリバリ働き一軒家を買い、家事をしないことを徹底する西園寺さんのキャラクターは、現代における「こうありたい姿」の一つを映し出している感じですが、そこがどう変化していくのか、あるいはどの部分が変わらないのか、に注目しています。ただ、第1話クライマックスで、カットによってイヤリングが違うというミスがあったのが残念。見ていてすぐにわかるレベルだったので、丁寧な編集が大事だなと思いました。新サービス導入直前にシステムが出来上がっていないなど、仕事の描き方がちょっと大雑把な印象は気になるところではありますが、ストーリーの面白さがそのような違和感を上回ることを期待します。
アップデートされる
“BLドラマ”“GLドラマ”
T:ドラマNEXT「ひだまりが聴こえる」(テレビ東京)は今期一番オススメのドラマです。難聴になったことで人と距離を置いている大学生と、そんな彼に普通の友人として接しようとする同級生。ふたりが心を通わせていく様子が、清々しく描かれていきます。「切なくも儚いヒューマンラブストーリー」と公式HPに紹介されているのでBLドラマだと思いますが、そういう枠にはまらない青春期ならではの若者の心情を繊細に描いた作品です。共にドラマ「下剋上球児」(2023年、TBSテレビ)で注目された、主演ふたりの瑞々しい演技にも注目しています。
N: BLドラマはたくさんあるのに、女性同士の恋愛ドラマは「作りたい女と食べたい女」(NHK)くらいしか思い浮かびませんでした。そんななかで作られたドラマ特区「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる」(毎日放送)のようなドラマが、後に続いてくれたらいいなと思います。百戦錬磨のレズビアンの先輩が、ノンケ(と勝手に思い込んでいる)後輩から好意をもたれても、それが恋愛の「好き」だとは思えなくて生まれるすれ違いにキュンキュンしたり、じれったく思ったり、笑えたりと、毎回あっという間です。
T:BLドラマに対して、女性同士の恋愛を描いているのが“GLドラマ”だとか。確かに「おっさんずラブ」タッチの底抜けに明るく、カラッとしたコメディとして結構楽しめます。おじさん世代としてはかつての成人映画のイメージもあるGLですが、ドラマの見方をアップデートする必要がありそうです。その他、個別にあればお願いします。
バラエティ豊かな
評価を得るのは…?
B:金曜ドラマ「笑うマトリョーシカ」(TBSテレビ)は政治家の清家一郎(櫻井翔)を裏で操る黒幕を追っていくミステリー作品です。少しずつ真相が明かされていく展開に目が離せませんが、なによりも役者陣が素晴らしいと思います。特に、清家一郎というキャラクターは、櫻井翔自身の持っている、優秀さ・愛想の良さ・ミステリアスさのオーラと上手くマッチしており、物語の説得力にかなり貢献しているように感じています。今後の展開に期待です。
H:土曜ナイトドラマ「顔に泥を塗る」(テレビ朝日)はメイクを中心に自分に正直に生きることを描いた作品。主人公(髙橋ひかる)の恋人はモラハラ彼氏。濃いメイクを嫌い、それを彼女に押し付ける。自分を殺して生きる主人公がメイクを楽しむ人物との出会いで少しずつ価値観に変化が……という展開。スタート時は楽しみだったのですが、弁護士の彼氏に給仕する弱い女性という主人公の描き方が、ちょっと時代遅れに感じました。もう時代はその先にいっている。盛り返しに期待です。
T:ドラマ24「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」(テレビ東京)はまだ始まったばかりですが、総勢50人以上の人生模様を描く群像劇になるとか。掃除屋3人の物語からスタートしていますが、いずれもひと癖ありそうな人物で、今後の展開がとても楽しみです。錦糸町の下町の風景が昭和的な感じがして、色彩を抑えた映像とともに何とも味わいのある絵作りになっています。名匠・廣木隆一の演出が光るドラマです。
B:「ビリオン×スクール」(フジテレビ)の「変わった教師が問題のあるクラス・生徒を変えていく」という設定はよくありますが、昨今のダークなテイストと違い本作は、コメディ要素やアクション要素など、一昔前の学園モノにあった要素も上手くアップデートして盛り込んでおり、それぞれの要素の緩急によって、見ていて飽きさせません。山田涼介演じる教師の、クールだけど不器用なキャラクターも好感を持てます。
M:「家族だから愛したんじゃなくて愛したのが家族だった」(NHK)は昨年1月NHKBSで放送された作品が地上波で再放送が開始しました。すでにギャラクシー賞でも評価されただけあり殊勝な作品です。ティーンエイジャーの七実を中心に、ダウン症の弟、死亡した父、病気の後遺症で下半身不随の母との家族群像劇。リアリズム、ファンタジー、コメディなどあらゆるエッセンスが溶け合って物語が転がっていく。河合優実が演じる「七実」がとびきり魅力的で心を奪われますが、脇を固める俳優も素晴らしく物語がとても豊か。社会課題を安易に回収しないのも見応えがあり、映像もひとクセあって楽しいです。地上波放送で広く見られるべき作品に思います。
T:オシドラサタデー「青島くんはいじわる」(テレビ朝日)は年下のいじわるなツンデレ男子(渡辺翔太)に振り回される30代のOL(中村アン)。友人の結婚式での偽装恋人から始まったふたりの“協定恋愛”がコミカルに描かれていきます。Snow Man渡辺翔太の年下S男子ぶりが結構ハマッていて、王道のオフィスラブコメとして気楽に楽しめます。
H:「GO HOME~警視庁身元不明人相談室」(日本テレビ)は個人が特定できない遺体を遺族の元へと返すという身元不明人相談室を描いた作品。死を受け入れられず、頑なに本人と認めない家族など、さまざまな人間模様がみられます。科捜研の若手研究員を演じる柳美稀は注目している俳優なので、フォーカス回に期待しています。
T:今回もさまざまなジャンルのドラマがありますね。クドカンや生方美久といった脚本家作品に注目が集まりましたが、最終回を迎えるころに評価がどう変化しているのか楽しみですね。
(2024年7月19日開催)
※関東地区で放送された番組を主に取り上げています