★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第35弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2024年春の注目ドラマの感想を語ります!
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演出と構成光る
「アンメット」「アンチヒーロー」
T:春ドラマが最終回を迎えました。今期の作品について総括していきましょう。大きな話題となった「アンメット」からいかがでしょうか?
Y:「アンメット ある脳外科医の日記」(関西テレビ)は登場人物たちの思いが画面から溢れ出てくるような演技、演出に目を奪われました。印象的な場面の撮影の裏側を演出家がSNSやインタビューで明かしていたのも興味深かったです。作り手が視聴者に向けて発信する情報が、さらに作品の魅力を増す好例でした。演出家の「物語の続きを描きたい」との投稿もあり、続編に大いに期待したいところです! また、配信で期間限定の見逃しに限らずに全話を公開していたため、作品が話題になるとともに視聴層を拡大できたのではないかと思います。
T:若葉竜也の演技が圧巻でした。一歩間違えると変人っぽくなってしまう医師に扮し、謎を感じさせつつも患者に真摯に、そして熱く向き合っていき、存在感のある特異なキャラクターを作り上げました。最後はとても人情味がある人物に感じました。
N:タイトルの意味は「みたされない」というもので、誰かに光をあてたら、誰かに影ができてしまって「みたされない」葛藤のことを言っているようです。そのテーマも良いと思いました。私が特に好きだったのは6話の障害者雇用の患者さんの話で、その回が、「アンメット」をよく表していたと思います。
H:個人的には2話のサッカー少年の話が良かったです。裏話として明かされていた、高架下で本当にボールを40分間蹴り続けて、疲労感を演じたシーンでは色んな感情がリアルに伝わってきました。他にも通常のドラマらしからぬ、普通なら失敗?と思うようなアドリブシーンや、セリフを噛んでしまったシーンもそのまま使われていたりと、現実とフィクションの世界をうまくミックスさせていたように思います。あいみょんの主題歌も良かった。ただ、少し思うのは、今期は記憶を巡るドラマが多かったために、若干うがった見方をしてしまった感があります。これはタイミングだったと思いますが……。
K:日曜劇場「アンチヒーロー」(TBSテレビ)は、弁護士なのに目的のためには手段を選ばない主人公(明墨)が最初は不気味でしたが、物語が進むにつれ正義とはいったい何なのだろうと考えさせられました。主人公をはじめ、仲間の名前に赤や紫など色がついていて、敵側の人物も実は味方なのではと思わせたり、野村萬斎の見るからに悪人の顔芸など、わかりやすいヒントを散りばめ考察しやすくしているのも面白い演出でした。
T:海外ドラマのようにチームを組んだ脚本家たちが、隙の無い物語を作り上げ、最後まで緊張感のあるドラマになりました。特に木村佳乃演じる検察官の描き方に、カタルシスを感じました。長セリフが多かった長谷川博己の演技も見事。ヒールでクールに思えた前半から、罪を犯してでも目的を達成しようとする熱い思いを持った人物に変わっていくあたりはとても見応えがありました。
H:個人的には今期一番良かったドラマだと思います。誰が味方で誰が敵なのか、最後の最後まで分からないストーリー構成は見事でした。結局真犯人を描かなかった判断も英断だったと思います。無理矢理伏線回収や謎の解明に走るのではなく、善悪がシーンごと変わって見えていく様をしっかりと描き、視聴者を惹きつけました。吹石一恵の出演には驚きましたが、終盤の重要な役を見事に演じていたと思います。
生きるエネルギー溢れる「季節のない街」
青春がまぶしい「からかい上手の高木さん」
K:ドラマ25「季節のない街」(テレビ東京)は『どですかでん』(黒澤明監督)を見直してから視聴しました。東日本大震災から12年を経た仮設住宅を舞台に、現代劇に書き替えたクドカンの脚本が光っています。
T:宮藤官九郎が監督を務めていることもあって、キャラクターのクセがより増幅されていて描かれて、それが面白さだけでなく、アイロニーも際立たせていました。
K:主要なキャラはそのままに、仮設住宅廃止に加担してしまう半助(池松壮亮)、自立を家族に阻まれるタツヤ(仲野大賀)など、令和の要素が新たに埋め込まれていて見応えがありました。貧困や屈託を抱えながら、いつしか街と共同体に愛着を抱くようになる情緒の描き方、生きるエネルギーが爆発したかのようなエンディングに唸りました。最後にはこの街が桃源郷のようにも見え、余韻の残る作品でした。
T:そうですね。ラストの祭りの後のような侘しさも秀逸でした。黒澤明の『どですかでん』が原作になっているものの、全体のテイストとしては最後のパーティーに代表されるようにフェデリコ・フェリーニ作品のような味わいがありました。
K:ドラマストリーム「からかい上手の高木さん」(TBSテレビ)は青春の入口にいる中学生の恋がとてつもなく初々しく、終始まぶしかったです。精神年齢が上(そしてとびきりかわいい)の女の子・高木さん(月島琉衣)に翻弄されっぱなしの男の子・西片(黒川想矢)の鼓動が聞こえてきそう。深夜ドラマにしては高すぎるクオリティで、さすが若者のカリスマ・今泉力哉監督と思いました。
T:中学生ならではの初恋やふたりの初々しいやりとりを、小豆島の美しい風景をバックに余白を持たせた映像で描いた今泉力哉の演出力が光っていて、ドラマを意識していないようなこの映像だけでも見応え十分でした。映画『怪物』で注目された黒川想矢の、ちょっととぼけたような演技も素敵でした。映画版へのプロローグだとしても、ドラマ版単体としても独自の世界観を持った見事な作品になっていました。
K:ただ、作品が良かっただけに続編となる映画の予告CMが、ドラマが完結する前から流れ、10年後の2人の姿を繰り返し見せられてやや興醒めしました。ドラマの世界観を壊さないような宣伝方法もあったのではと思いました。
フィクションのなかのリアルさ
“記憶”巡るドラマの明暗
T:ではその他に、個別に気になった作品があればお願いします。
E:金曜ドラマ「9ボーダー」(TBSテレビ)は19歳、29歳、39歳のボーダーラインに立つ3人姉妹を主人公にそれぞれが恋愛に仕事に苦悩しながらも明るく生きていく様を描いたハートウォーミングなドラマでした。舞台が下町の銭湯というのも面白い。松下洸平と川口春奈のコンビも華やかでしたが、39歳役の木南晴夏の独特なキャラクターが印象深かったです。年齢ボーダーラインという誰しもがふと自分を振り返ったり、何かに焦りがちになったりする心情が描かれていますが、不器用な主人公が悩み迷いながらも頑張る姿に応援したくなりました。家族で見ていました。
H:「366日」(フジテレビ)はHYの楽曲をモチーフに制作された作品。こちらも記憶喪失がストーリーの鍵でしたが、感想としては正直“都合よく使ったなぁ”という感じでした。所々無理矢理感がぬぐい切れなかったし、終盤にすべてを思い出したときの行動もちょっと分からなかったです。期待していただけに少しもったいないと感じてしまいました。そのなかで、坂東龍汰がとてもいい味を出していたのが収穫でしょうか。
N:ドラマ10「燕は戻ってこない」(NHK)は人工授精、代理母についてのドラマで、原作は桐野夏生の同名小説です。バレエダンサーとイラストレーターの夫婦の代理母を引き受けたリキは、ギリギリの生活をしていて、女性の貧困などにも焦点があたっています。こんなことあり得ないという設定なのに、妙にリアルなところもあります。脚本が「らんまん」の長田育恵さんですが、こんなダークな作風もできるのかと驚きました。
K:「Destiny」(テレビ朝日)は奏(石原さとみ)が父の汚名を晴らすに至るプロセスは、やや単純に感じましたが、彼女が自分の意思で幸せを掴み取ると予感させるエンディングに希望が持て視聴感が良かったです。冒頭で亡くなってしまう田中みな実が最後まで存在感を残し、不在の人間を際立たせる演出、キャラクター造形が優れていました。
H:火曜ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」(TBSテレビ)は記憶を失った女性が3人の男性で揺れるという、こちらも記憶喪失がネックになる作品。序盤の記憶を失った後の明るい主人公像は生見愛瑠のイメージそのまま、ハマり役だと思いました。ただ正直、中盤は間延びした感はあり、ミステリー要素も弱かったです。終盤にかけての展開は良かっただけに、もう少し仕掛けがあれば、ラブストーリーとしてももっと盛り上がったように感じます。
快進撃続く
朝ドラ「虎に翼」
Y:連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)はまだ放送中ですが、作品に対する高い評価が継続的に各所から聞こえています。毎回のようにハッとする言葉や丁寧な表現に感心することばかりで、とても見応えがあります。
M:物語の勢いと密度が増しています。これほどまで女性の苦悩と連帯を描いた朝ドラがあったでしょうか。主人公を核としながら、家父長制と男女差別の中で周縁化され、透明化されていた生きづらさが掬い取られています。さまざまな立場に眼差しを向け、サクセスする寅子すら相対的に描かれています。また、戦災孤児や傷痍軍人、未亡人など描かれてこなかった戦争被害者を取り上げ続けているのも印象的。市井の人たちの戦争被害を丁寧に描くことで、戦争とはなにか、憲法とは何か、人権とは何か、司法とは何か、掘り下げられているような気がします。毎回が神回です。
Y:今週(第13週)は特に、前作「ブギウギ」と物語が直接つながるという朝ドラでこれまでにない形の表現となり、ワクワクしました。
T:僕もひと言。まさか「BL」が朝ドラで描かれるとは。結構衝撃的でした。これだけに限らず、視聴者の女性観や多様性の変化を、ドラマにも巧みに取り入れているあたりが秀逸。朝ドラ史上、最高傑作になるかも。
Y:このドラマも「アンメット」同様に脚本家がSNSでの発信を行なっていて、登場人物の心情の背景など、視聴者の憶測を避け理解を助ける内容を提示している点が特徴的で注目しています。
T:7月に入るとすぐに夏ドラマがスタートします。今後もチェックしていきましょう。
(2024年6月28日開催)
※関東地区で放送された番組を主に取り上げています