★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第39弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2024年秋の注目ドラマの感想を語ります!
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登場人物たちの表現力で形作られた傑作
連続ドラマならではの醍醐味を発揮
T:2024年も年末を迎え、秋ドラマが最終回を迎えています。さっそく、総括していきましょう。
Y:日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(TBS)は戦争と原爆、戦後日本を支えた炭鉱といった重要なテーマのもとで、端島に生きた人々の力強さと、そこから続くそれぞれの人生を多面的に描く傑作でした。全9回があっという間で、願わくばもっと長く深くこの物語を見ていたかったとも思います。説明的なセリフではなく、画面に映し出される景色や印象的な会話、登場人物たちの表現力で物語が形作られる作りは非常に見応えがありました。
T:高度成長期の中で夢を持っていた1960年代と現実に追われギスギスとした現代。対照的な人たちの姿を描きながらも、一人の青年(主人公の鉄平)のひたむきな愛を描いた、美しくも哀しい究極のラブストーリーだと思いました。いろいろな疑問点が解決する最終回に至るまでの脚本・野木亜紀子のストーリーテリングの上手さと、人物描写の細やかさが光っていて、連続ドラマならではの醍醐味を感じました。
Y:時代を超えて2人の人物を絶妙に演じ分けた神木隆之介、ドキュメンタリーのように繊細に人物像を描いた杉咲花、そして被爆後を生きる女性の葛藤を演じきった土屋太鳳をはじめとした演者の力にも感嘆しました。
T:そうですね。存在感のある実力派の役者が揃い、さすが「日曜劇場」だと思いました。中でも、土屋太鳳の演技には唸らされました。美人で気が強そうで、時には意地の悪い言動をすることもありましたが、被爆の後遺症の影に怯え、恋愛に距離を置くという一面も持つ女性を、透明感のある表情と声でひたむきに演じ切りました。これまでの彼女のイメージを大きく変える、役者として大きな転機になるドラマになったと思います。
H:杉咲花はさすがでしたよね。コミカルからシリアスまで、本当に演技の幅が広い。同世代の俳優では頭一つ抜けているように感じます。
コミカルに、スリリングに、静かに
さまざまな人生模様を堪能
N:金曜ナイトドラマ「無能の鷹」(テレビ朝日)はコミカルな作品ですが、無理におおげさに演じないで、原作の雰囲気を醸し出していたのかなと思います。なにも仕事のできない鷹野ツメ子(菜々緒)が、そのことに卑屈になったりしない態度を見ていると、どこか気分が楽になりました。人は社会の役に立たないと生きている価値がない、と思いがちですが、そんなことはないのだと思えてきて、確かに深いことが描かれているなと思いました。
Y:コミカルなエピソードの中に、働くことの意味、リモートだけでなくリアルなコミュニケーションの大切さ、世代間ギャップなど、仕事上の「あるある」や実は鋭いメッセージが織り交ぜられ、これまでにないタイプのお仕事ドラマとして毎週楽しみでした。菜々緒がハマり役の主人公・鷹野のとんでもない“無能”ぶりや、それがもたらす奇跡的なエピソードはもちろん、塩野瑛久、井浦新、さとうほなみ、工藤阿須賀、高橋克実などが演じる周囲の愛すべきキャラクターたちそれぞれの人生模様も良かったです。
H:ビジネスシーンではなんとなくの雰囲気で進んでいくことも「あるある」だけど、それを「無能」な鷹野が良い角度で切り込んでいくのが痛快でした。人間はやっぱり見た目やその人の雰囲気で勝手にその人を判断してしまうけど、そうした未熟さを皮肉として描くことで視聴者に気付きを与えていましたよね。僕自身、選挙もあって色んなことを考えさせられました。コメディですがきちんと作られていました。
M:土曜ドラマ「3000万」(NHK)は毎回スリリングな展開で痺れました。登場人物が皆信用できず、薄ら怖いからこそ人間臭かったです。非正規で不安定な生活のなか、息子を想う母の切なさ、現実世界で闇バイトが頻発するなか、“トクリュウ”の人間模様と心理にも見応えがありました。弱肉強食で拝金主義な社会で、誰かが歪を受け止めているのかもしれない。人間は色々な痛みと欲を抱えて生きている。誰しも道を踏み外す。正しい方を選び取れるだろうか……。ラストも最高でした。
K:折しも毎日のように闇バイトのニュースが流れていたころに放送され、ヒリヒリするほどリアルで、社会課題への切り込みが見事でした。“かけ子“と呼ばれる任務の具体的な描写、誰にも組織の中核が見えない苛立ちなど、踏み込んだ犯罪組織の描き方に制作陣のリサーチ力の高さが伺えます。そして犯罪の深みにどんどんハマってしまう主婦(安達祐実)が、もし引き返せるとしたらと問われ「先にスーパーに行けばよかった」と呟く台詞などから、日常のすぐそばに犯罪があることを思い知らされました。余韻を残すエンディングもよく考えられていて、この終わり方しかないと納得です。
H:終始テンポよく、期待を裏切らなかったですよね。1話の迫力は本当に見事だったし、スピーディーな展開に釘付けになって、それが最終回まで続いていった。新しい取り組みとして複数の脚本家での共同脚本という形をとったのも功を奏したように思います。こうした新しいチャレンジがドラマ界の新風になる予感です。
M:ドラマ10「宙わたる教室」(NHK)は定時制高校に通う年齢もバックグラウンドも異なる生徒たちが、アカデミックの世界で挫折した研究者の教員・藤竹(窪田正孝)と出会って「夢」に目覚める。彼らの「夢」と後半明かされる藤竹の「夢」が交差し、生徒らが学ぶ喜びを取り戻し、友情を築いて、学校という場で輝き出す物語に深く感動しました。ディスクレシアや、起立性調節障害、ヤングケアラーや高度成長期の職業病などの社会課題にも光を当てつつ、丹念な人物描写が素晴らしく、秀逸なドラマでした。
T:物語の面白さはもちろんですが、役者の演技も大いに楽しめました。イッセー尾形と伊藤蒼といった演技力に定評がある俳優たちはその味を遺憾なく発揮していましたし、主役の窪田正孝の「静」の演技も見事でした。一方で素晴らしい「動」の演技を見せた小林虎之介は、目を輝かせながら生き生きと生徒役を演じていました。彼らの光る演技を見て、視聴者も前向きな気持ちになったはずです。
その他、気になった作品があれば個別にお願いします。
現代社会への見事な切り込み
オリジナル作品も快作多数
K:「モンスター」(関西テレビ)は趣里演じる天才弁護士・亮子がとても魅力的でした。昨年の朝ドラ「ブギウギ」とはまたまったくの別人になりきっていて、演技の振り幅の大きさに脱帽です。毎回取り上げられる案件は、高額医療、闇バイト、シニアの就業など旬の社会テーマで興味を掻き立てられるものばかり。亮子の考える弁護シナリオに意表を突かれ、毎回どんでん返しがあって見応え充分でした。同僚弁護士を演じるジェシーが、不本意ながら主人公に巻き込まれ、少しずつ共感を深めていく様子は楽しく、親しみが持てました。すべての糸が繋がったようなラストは爽快で、亮子の正義感や倫理観が炸裂する演説に聞き惚れてしまいました。
N:「若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私」(日本テレビ)は「虎に翼」が終わったタイミングで、フェミニズム的なテーマに取り組んだ作品として注目が高かったように思います。主人公の涼(堀田真由)が理不尽な性差別には率直に抗う人物で、また恋愛をするのが当たり前と思われていることに対しても疑問を持っていましたが、最後までそれが貫かれていたのがよかったです。
B:水ドラ25「ベイビーわるきゅーれエブリデイ!」(テレビ東京) は殺し屋コンビの日常を描いた人気アクション映画シリーズのスピンオフドラマですが、スピンオフの枠を超えた、正当な続編として言い切れるほどのクオリティでした。主演の2人の自然体な演技とキレキレの殺陣のギャップが素晴らしかったですが、特に髙石あかりの演技力が圧倒的で、最終章の「ジョブローテーション編」での涙ながらに追い込まれていく演技には感動すら覚えました。2025年の朝ドラの主演を務めることが発表されましたが、それも納得の大活躍だったと思います。
T:ドラマフィル「スメルズ ライク グリーン スピリット」(毎日放送)は今期一番、いや今年一番の青春ドラマでした。舞台は地方都市で、時は性の多様性が現代ほど開放的になっていない1990年代。他人とは違った自分の性の指向に気づき、悩み、そして前向きになっていく男子高校生の姿が、コミカルな描写を交えながら実にカラッと描かれていました。ぜひ同じ世代の若い人に見てもらいたい作品です。
M:土ドラ9「放課後カルテ」(日本テレビ)は子どもが起こす小さな事件をきっかけに、子どもの抱える葛藤が解きほぐされる。不器用な学校医の松下洸平を軸に、自傷や引きこもり、場面緘黙症、人間関係のトラブルや、教員の過労など学校を取り巻く今日的なテーマを掬い上げ、教員やクラスメイト、親も含めて一緒に悩む姿を描き寄り添いを感じました。子どもたちの言葉にもリアリティがあり、派手さはないけれど心に沁みるドラマでした。一緒に見ていた小4女子もハマり、さながら“小学生日記”!
H:ドラマイズム「その着せ替え人形は恋をする」(毎日放送)は人気漫画の実写化ということで炎上からスタート。やはり実写化の難しさを感じさせる作品でした。後半はかなり停滞感も感じられました。実写化する際に作品やキャラクターの本質をどう作り直すのか、作り直していいのか、という議論は今後も続いていくように感じました。ただ、主演の永瀬莉子と野村康太の2人には惹きつけられました。今後の活躍に期待したいですね。
K:金曜ドラマ「ライオンの隠れ家」(TBS)は自閉症の弟・坂東龍汰のずば抜けた演技力に驚き、彼を支える兄・柳楽優弥は、静かだけれど強い愛情に溢れ、新たな兄弟像に魅せられました。ライオン少年が彼らに心を許して家族になっていくプロセスも感動的でした。そしてひたすら弟のために生きてきたケアラーの兄が、自分の道を切り拓こうとする結末は、家族の自立を描き、希望を感じさせてくれたのもよかったです。
T:「全領域異常解決室」(フジテレビ)は正直言って放送が開始されたときには、あまり注目していませんでした。しかし、中盤以降、物語は意外な方向へ。というか、「神」がいっぱい登場する荒唐無稽とも言える展開になっていき、それによって娯楽性が一挙に高まっていきました。破天荒な設定とも言えますが、馴染みの神話が随所に織り込まれ、癖になりそうな世界観を持ったドラマになっていました。
Y:連続ドラマW「ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」(WOWOW)は衣装やセット、CG含め、漫画の中の世界が確かに存在している、と見入ってしまうような作りに感心するばかりでした。個性的すぎるキャラクターたちのキャスティングが絶妙で、登場人物本人ではないかというようなクオリティで見応えがありました。毎週新作の映画が見られるような贅沢さで、有料放送のコンテンツの強さを改めて認識できたと思います。映画とテレビドラマの組み合わせの成功事例になりそうで、今後の作品展開も楽しみです。
K:最後に、1年間の放送を終えた大河ドラマ「光る君へ」(NHK)は、平安の世を堪能させてもらいました。史実かどうかより、こんなこともあり得るかもと想像力が刺激され、ファンタジーとして楽しみました。最終回でまひろ(吉高由里子)が死を間近にした道長(柄本佑)に、物語を語り聞かせ命を永らえさせようとするエピソードが圧巻。日本最古の長編小説である『源氏物語」を題材に、物語というものがいかに人を喜ばせ、生きる勇気を与え、人生に深みをもたらすものであるか、全編を通じて感じ入りました。
T:今期は豊作で楽しいクールでしたね。1年間ありがとうございました。2024年もさまざまなドラマが放送されました。思わぬ発見や出会いもあり、充実した年だったのではないでしょうか。すぐに1月からの新ドラマもスタートします。今後も楽しんでいきましょう!
(2024年12月24日開催)
※主に関東地区で放送された番組を主に取り上げています