オリジナルコンテンツ

【座談会】2023年夏ドラマまとめ編

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第29弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2023年夏の注目ドラマを総括します!

張り巡らされた伏線と
祭りのような複線編成

T:各夏ドラマが最終回を迎えました。総括していきましょう。やっぱり大きな話題になった日曜劇場「VIVANT」(TBSテレビ)からでしょうか。
K:リアルタイム視聴のみならず、謎解きが気になって繰り返し見てしまう稀有なドラマでしたね。伏線が張り巡らされ情報量が多いので、何度見ても新たな発見がありました。破格のスケールから伝わる制作陣の熱量、特別番組や前後の番組を絡め日曜夜がVIVANT祭り状態となって盛り上がり、楽しかったです。
N:自衛隊の別班は、いわゆるスパイものなのだと思いますが、日本にもこんなふうに、裏で暗躍してものごとを解決してくれたらいいなという理想みたいなものは感じつつも、毎回、次が楽しみになる仕掛けがあり、最終回まで楽しく見ました。
T:当初は存在感が薄く、前回座談会でも「主演は本当に堺雅人なの?」と言いましたが、4回目くらいからキャラクターが急変し、面目躍如の演技を披露。この堺をはじめ、阿部寛、役所広司など主役クラスの役者たちの迫力ある演技を最後まで楽しむことができました。裏切り者は誰かという、犯人捜しも見ものでした。
I:確かにキャスト、砂漠ロケ、アクションと、豪華さには目を見張り、最後まで釘づけでした。ですが、「なるべく犠牲者を少なくテロを起こす方針」と矛盾した言動とか、ところどころストーリーに無理筋も……。いちばん違和感があったのは、日本人の精神性をやけに礼賛する台詞が何度か出てきたこと。海外での番組販売を考えても、あれはいただけなかったです。私から見て光っていた登場人物は、口をきかないドラムと、警察官・チンギスでした。
K:番組外ではSNS考察班もヒートアップして、「考察ドラマ」というジャンルが今後も活気づきそうです。放送中からグッズ販売を仕掛けるなど話題づくりも抜け目なく、テレビドラマにできることがまだまだあるなと思いました。
N:視聴者の盛り上がりをさらに高めようと特別番組を編成するなどしていましたが、近年ここまでみんなが見ている番組もなかったので、いい流れを作っていたなと思いました。
Y:そうですね。番組展開の工夫は興味深かったです。ドラマの前の枠で出演者を集めた生放送を実施し、リアルタイム視聴に繋げる編成の工夫は地上波ならでは。最終回前には過去エピソードをまとめて配信し、見逃していた層を取り込むこともできたのでは。どのような視聴の拡大があったのか、データなどを見てみたいです。また東京にとどまらず、地方のショッピングモールなどで出演者が出席するイベントを開催するなど、視聴者参加型の場を用意したことも、ファンを増やす施策として面白いものでした。

現実世界が重なる娯楽作
新時代のラブストーリー

T:木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日)は、先が読めない物語の面白さもさることながら、 “おじさん消防団員”を演じた生瀬勝久、橋本じゅん、岡部たかしらの渋い演技がドラマに厚みを増していました。
S:ゆるさと緊迫感が交互に押し寄せる独特の雰囲気を毎回楽しんでいました。ただ、物語を貫くカルトの謎をナレーションベースの説明であっさり片付けてしまうところがなんとも残念。単純な善悪二元論でもないと思いますが。
K:「この素晴らしき世界」(フジテレビ)は、芸能事務所・テレビ業界という特異な世界を、市井の主婦の真っ当な正義が揺り動かしていく。二役を演じ切った若村麻由美は見事でしたし、登場人物それぞれの人生が丁寧に描かれ、コメディ要素も楽しく見応えがありました。そしてドラマの進行に寄り添うように、現実世界でリアルに起きている問題とシンクロしていくのが感動ものでした。ラストで示された着地点は、フィクションとはいえ示唆的で深みがありました。
T:大女優と普通の主婦の二役を見事に演じ分けた若村麻由美にまずは拍手。そして、スラップスティック・コメディ的な笑いをちりばめ、良質の娯楽作品に仕上げた脚本も見事でした。この脚本、プロデューサーが別名で執筆したとのことで、業界のスキャンダルやネット詐欺、性同一性障害など今日的な話題を盛り込んだあたりも興味深かったです。
I:水曜ドラマ「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ)は、最初は波瑠演じるミステリアスな女性や、藤原さくら演じる妹が「悟った女性」ふうに描かれていましたが、物語が進むにつれて、「みんな悩んでいる」ドラマだということがわかり、楽しめました。
N:主人公の向井くん(赤楚衛二)が、毎回、女の子にふられるラブ・コメディでしたが、「男とはこうすべき」とか、「この年齢になったらこうなっているもの」と言った思い込みを、周囲の人たちが教えてくれるような話で、最終的には、ふわふわして自分の意思のなかった向井くんが、本当に自分が求めていることは何かに気づいていく様子を、うまく描いていました。
H:新しいラブストーリーという感じでしたね。多くのラブストーリーで恋愛の成就や結婚などのゴールが設定されていますが、このドラマでは主人公が新しい価値観を学んでいくなかで自分も成長していく過程そのものが描かれていました。世代で意見が分かれそうなドラマだけれど、それこそが、このドラマの狙いのような気もしました。

若い俳優台頭の可能性
映像資産活用の可能性

T:話題作という点ではこのぐらいでしょうか。その他、個別にあればお願いします。
K:「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」(日本テレビ)の女性教師(松岡茉優)が「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(同、2019年)で菅田将暉が演じた男性教師と異なるのは、家族や親友、周りの大人たちに支えられながら、教師としての意志を貫いたこと。教室では孤軍奮闘していても、信頼できる仲間がいることに、見ていて救いがありました。二つの事件の犯人探しに向け、最後まで緊張感を途切れさせずに見せる演出はさすが。生徒役では、加藤清史郎が圧巻の存在感。このクラスから、今後活躍する役者が育っていくであろうと思うと楽しみです。
I:「真夏のシンデレラ」(フジテレビ)に「陳腐な展開だなぁ」と思ったのは、けっして作品のせいではなく、私が年をとったからでしょう。森七菜や間宮祥太朗ほか、熱演は感じました。それにしても、いろいろな男女の組み合わせが出てきましたが、ここぞという会話のバックは必ず「海」。つくづく感じたのは、どんな台詞でも海を背景にすれば、それなりの場面になるものだ、ということです。
H:TVerでの再生数も多かったようですし、ティーンなどの世代には受け入れられた印象ですよね。一方で、キャラクター設定やストーリー展開で不思議に思う場面も多かったのも事実で……。その賛否が話題にもなっていましたが、見る人によって受け取り方が大きく違った作品なのかな。
Y:お笑いインスパイアドラマ「ラフな生活のススメ」(NHK) は、ドラマとお笑いネタを織り交ぜた構成で、毎回出演者も多く盛りだくさんの内容でした。このフォーマットでシリーズ化できるのでは?と期待したくなります。数々の芸人のネタを楽しめたうえ、懐かしの「爆笑オンエアバトル」の映像が使われたのは、当時の視聴者として嬉しかったです。過去のアセット(資産)の利用方法にあらためて可能性を感じました。放送局が持つ多様な過去作品を生かす方策を、今後も取り入れてほしいです。
S:「科捜研の女 Season23」(テレビ朝日)は、たとえ10話に満たなくても、シリーズ継続はファンとしてはうれしい限り。前シリーズはサイバー寄りでスタイリッシュに走りすぎた感がありましたが、今回は俗っぽさもほどよくブレンドされ、科学的検証のシーンも増えて、これぞ科捜研の王道、といった感じです。
T:私も2本ほど。火曜ACTION!「僕たちの校内放送」(フジテレビ)は、校内放送に情熱を捧げる高校生たちの物語。4話という短い放送で深くは描けませんでしたが、ラジオの魅力や何かに夢中になることの楽しさは十分に伝わりました。そして、青春期ならではの涙と笑いも清々しく描かれていて、この夏の“拾いもの”のドラマでした。もう1本はドラマシャワー「4月の東京は…」(毎日放送)を。思春期ならではの憧れや好奇心、抑圧、性欲をテーマにしていて、これまでの日本のBLドラマとは一線を画す作品。1970年代から80年代のATGなどが製作した日本映画を見ているかのような重苦しさがあり、そこにリアリティがあって共感できました。
H:個人的にはドラマ24「初恋、ざらり」(テレビ東京)が今クールいちばん良かったです。序盤のうぶで微笑ましい展開から中盤・終盤に向かって、現実として二人が付き合っていくことの難しさをリアルに描いていて心が苦しくなりました。二人の最後がああいう形で良かったなぁと素直に思えましたね。小野花梨の演技は群を抜いていたと思いますし、音楽も良かった。大満足です。
I:「CODE−願いの代償−」(読売テレビ)にも触れたい。最終回で謎のアプリ「CODE」の正体が明かされて、かなりスッキリしました。実際に今、AI(人工知能)の問題が浮上しているだけに、現実味も感じました。ただ、登場人物の言動に「何やってんのよ!」と突っ込むところが多かったです。主役級には、多少なりとも感情移入したいものですが、それができない展開になっていたのが残念でした。
H:土曜ナイトドラマ「ハレーションラブ」(テレビ朝日)にも触れさせてください。15年前の事件の真相を巡るストーリーは登場人物すべてが怪しく思えて、「VIVANT」ではないですが犯人考察も行われました。30分枠で描くには難しいストーリーかなと思いましたが、丁寧にまとめていたと思います。ただ、暴力的なキャラが多いのは、ちょっと苦笑いでした。

感動あり痛快あり
朝ドラらしさ満開

T:連続テレビ小説「らんまん」(NHK)も半年の放送が終わりました。いかがでしたか?
K:最終週になって、祖母役の松坂慶子、ナレーションの宮﨑あおいがサプライズ出演したのがよかったです。主人公の人生から時間軸をずらし他者の視線を入れたことで、生きざまが輝いて見えました。槙野万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)の人生にしみじみと感じ入り、朝ドラらしい視聴感が味わえました。偉業を成し遂げた主人公が、家族や周囲の人々に感謝を表現するラストも感動的で、半年間見続けて良かったです。
S:史実とフィクションを巧みに織り交ぜながら、豊かな物語が紡がれていたと思います。万太郎と寿恵子夫妻はもちろん、周囲の人たちの背景や思いもきちんと描かれていて、半年間飽きることがありませんでした。幕末から明治にかけての脱亜入欧な雰囲気が追体験できましたし、寿恵子が愛読する「八犬伝」の冒険譚のように、舞踏会の練習や料亭の経営に乗り出す展開も痛快でした。万太郎と寿恵子が互いをいたわり合う最終回に目頭が熱くなりました。
T:こんなところでしょうか。「VIVANT」に話題が集中した夏ドラマですが、思わぬ秀作にも出会えました。すでに秋ドラマもスタートしています。新しい朝ドラ「ブギウギ」もさっそく盛り上がっているようなので、作品が出揃ったところでまた注目作品について語りましょう。

(2023年10月2日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています