★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第28弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2023年夏ドラマ注目作の感想を語ります!
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破格のスケール、役者も豪華
自然体の好演、演じ分け見事
T:夏ドラマがスタートしています。すでに数話が放送されている作品も多いですが、気になった作品を語っていきましょう。前情報が少ないことでも話題になった「VIVANT」からいかがでしょうか。
K:日曜劇場「VIVANT」(TBSテレビ)は、このクールいちばんの話題作ですね。期待を超える密度とスピード感、破格のスケールでぐいぐい引き込まれます。初回からド迫力のモンゴルロケに目を見開かされた気分。原作・演出の福澤克雄が最後に連れていってくれる目的地まで、その旅程を目いっぱい楽しみたいです。
Y:スケールの大きな映像とアクションシーンで、「スマホやタブレットではなく大きな画面で見なければ!」と感じさせる作りです。まだ序盤で謎や伏線が多く、視聴者の推理も盛り上がりつつありますが、物語の筋が見えてきてからどう面白くなっていくのかに期待しています。
I:「映画?」と思わせるロケーションにアクション。俳優陣も豪華。世界進出を見据えたドラマ作りに及び腰の日本で、この意欲作は買います。
T:映像のスケール感もさることながら、役者の豪華さも見もの。序盤は阿部寛の存在感が半端じゃなく、主演は本当に堺雅人なの?という感じ。今後、堺がどう変わっていくかが楽しみです。
S:「この素晴らしき世界」(フジテレビ)は、主演交代のハプニングを感じさせない若村麻由美の演技に見入っています。
I:自然体の好演に引き込まれますね。
S:地味だけれど地に足のついたスーパーマーケットでの仕事と、女優・若菜絹代の身代わりとしてきらびやかに変身する瞬間との対比が鮮やかです。物語は入れ替わりコメディかと思いきや、周囲の人々の不穏な動きも垣間見え、展開が読みきれません。キーマンは、やけにいい人なのがかえってあやしい絹代の夫(沢村一樹)でしょうか。
K:若村麻由美が、本物の女優、替え玉女優、普通の主婦を一人3役で演じ分けているのも見どころですが、芸能界に片足を突っ込み、ドキドキする妙子がなんともかわいらしい。市井の主婦の目を通して、芸能界の裏側を覗き見する楽しさがあります。
おかしみあるリアル
背筋寒くなるリアル
T:「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ)は、勘違いの恋愛観を持った主人公・向井くん(赤楚衛二)の男性に、親しみを覚えます。もしかしたら、実際にこのような男性が今の世の中に多いのかも、という妙なリアルさがあります。「チェリまほ(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)」のときのような、ちょっとおかしみがあり、思わず応援したくなる赤楚の演技も注目です。
I: 10年前、「君を守りたい」と言ったばかりに、向井くんは恋人(生田絵梨花)に振られます。カフェで知り合った女性(波瑠)から「そう言われたら、私なら見下されてると思う」と言われ、ようやく元恋人の真意に気づいたシーンは、小気味よかったです(笑)。波瑠の語る人生観・恋愛観にフムフムと頷きながら見ています。
N:男性が主人公のいつものラブコメディかと思ったら、毎回、向井くんが女性とのズレから何かを学んでいく様子が、今どきのジェンダー観のアップデートにつながる面もあって、面白いです。
H:恋愛の答え合わせ的な要素もあるのも面白いですね。第2話で若い女性に積極的に来られて、誠実に向き合おうとしたら、相手にはすでに彼氏ができている。主人公にとっての「え?」を終盤に相手の心の声を表現することで、主人公と相手の両方の目線の視聴者の腑に落ちる。これからの展開も楽しみです。
K:「CODE−願いの代償−」(読売テレビ)は、ドラマに登場するアプリ「CODE」が、社会問題化している闇バイトを彷彿とさせ、リアルな恐ろしさに背筋が寒くなります。恋人を殺され、思い詰めた主人公(坂口健太郎)が引き返せないような闇に落ちませんようにと、祈りながら見ています。
I:どんな願いも叶えるアプリ「CODE」に翻弄される人たちを描いたミステリー。主人公は危険なアプリと気づきつつ使い続けるけれど、「CODE」に書き込む願いが遠回りで、もっと直球で書けば?と突っ込みたくなるのは私だけでしょうか。
T:確かに「CODE」については突っ込みたくなりますね。けれど、このようなリメイクのサスペンスドラマでは、どのように独自の世界観を出すかが勝負ポイント。演出の森淳一が作り出すスタイリッシュな映像は味わいがあり、坂口の硬派な演技もなかなかいいので、今後に期待が持てます。
S:木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日)は、駆け出しの作家・三馬太郎(中村倫也)が転機を求めて亡父の実家へ移住、請われるまま地元消防団に入り、集落で起きている連続放火の謎を探っていく。移住者が地域の濃密な人間関係に巻き込まれていく過程が、中村の巻き込まれキャラと相まって、リアルに感じられました。消防団の面々も個性派揃いで、消防訓練や事故の捜索など、物語を支えるディテールもきちんと描かれていて、ドラマに向かわせる吸引力があります。この先、太郎の作家としての覚醒、そして地域と向き合う覚悟が、連続放火とどうリンクするか。都会との唯一のつながりである編集者(山本耕史)がどう動くのかに注目しています。
T:ミステリーの要素が強く、これまで映像化された池井戸作品と違う味わいがあります。主人公の作家が、どのように事件に絡んでいくのか。また、田舎の町の奇妙な人間模様が今後どのような展開を見せるのかも見ものです。
K:主人公・三馬太郎を演じる中村がハマり役。東京から移住した作家が、戸惑いながらも地域にコミットしていく様子が微笑ましいです。地元を愛する住人たちと繰り広げるローカルライフに癒やされつつ、不気味な事件が勃発する緊張感、メリハリがあって飽きさせません。
純粋な二人の恋愛模様
愛の奥深さと生々しさ
T:そのほか、個別に気になった作品があればお願いします。
H:ドラマ24「初恋、ざらり」(テレビ東京)が今クールいちばん楽しめています。主人公の軽度知的障害という難しい役どころを小野花梨が素敵に演じている。当事者が抱える不安や生きづらさが一つの恋を通してダイレクトに伝わってきます。恋愛ドラマとしてもすごく純粋な二人のこれからを応援せずにはいられません。
Y:真夜中ドラマ「湯遊ワンダーランド」(テレビ大阪)は、原作の漫画エッセイ独特の表現がうまく映像化されていると思います。個人的には「舞いあがれ!」で特徴的な編集者役が印象的だった川島潤哉が、本作でも担当編集(実在の人物)をシュールに演じているのを楽しく見ています。
T:「私と夫と夫の彼氏」(テレビ東京)は、ゲイの夫と、彼と結婚した高校教師の女性。そして彼女の教え子。今どきの多様な愛の形が展開するドラマです。頭ではダメだとわかっていても、体が相手を自然と求めてしまう。その様子がとても生々しく、愛の奥深さがリアルに描かれています。
S:「転職の魔王様」(関西テレビ)は、ドジっ子後輩と冷酷な先輩が二人三脚で難問撃破という、もはや古典的な設定。業務遂行のためならムチャ振りや暴言も厭わない転職アドバイザーの来栖(成田凌)のアメとムチのバランスが絶妙で、既視感はありながらも楽しく見ています。徐々に明らかになるであろう来栖の人となりがドラマに膨らみをもたらすことを期待しています。
N:主人公が、自信がなく、人材会社でも役に立ちたいと思い、朝早く会社に来て社員のデスクを拭いたりする場面があります。そういう自己犠牲を美談にするのは嫌だなと思っていたら、成田凌演じる「魔王様」が、自己犠牲は求めていないと言っていて、安心しました。
「未来」が追い詰める
「現実」が掻き立てる
K:「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」(日本テレビ)は、何もしなければ生徒に殺される、という未来がわかっているので、文字通り「死ぬ気で」いじめや生徒に向き合う、教師の決意と迫力が圧巻。そこまで追い詰められなければ本気で生徒を守るような教師はいない、というアンチテーゼでもあるのかも。このクラスがどう変化を遂げるのか見届けたいですね。
H:「3年A組―今から皆さんは、人質です―」の世界観が引き継がれているなかで、少しスケールダウンを感じてしまったのは否めません。第1話の入りから、そういう物語?と思ってしまいました。松岡茉優、芦田愛菜など注目の俳優陣が揃っているだけに今後に期待したいです。
Y:お笑いインスパイアドラマ「ラフな生活のススメ」(NHK)は、ストーリーに沿って複数本のお笑いネタが織り込まれる珍しい構成のドラマ。主演の小池栄子の舞台で見るようなコメディエンヌぶりが良い感じです。出演者に知らされぬままネタが披露されている回もあり、素の笑いが映し出されていて魅力的でした。毎回オムニバス形式で多様な芸人が出てくるため、ライブを見ているような満足感も味わえます。
H:金曜ドラマ「トリリオンゲーム」(TBSテレビ)は、天才的な人たらしと天才エンジニアのバディが1兆円を稼ぐという成り上がりの物語。既視感はあるものの、展開のスピーディーさもあり、見ていて飽きないですね。
I:「やさしい猫」(NHK)は、昨今、耳目を集めている入管問題を扱った社会派ドラマですが、押しつけがましくなく「現実」を見せ、見ている人の気持ちを掻き立てます。こういうドラマは本当に必要だと思います。
H:月9の「真夏のシンデレラ」は話題に上がらなかったのが答えですかね。結構期待していたんですが…。
I:私は青春群像劇としてけっこう楽しんでますよ。森七菜をはじめ、それぞれの俳優がそれぞれに魅力的に描けていると思います。
T:やはり「VIVANT」が注目を集めていますね。ほかにも、内容の濃い作品が多かったように思います。この後スタートする作品もありますが、それも含めて引き続きチェックしていきましょう。
(2023年7月28日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています