★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第27弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2023年春ドラマ注目作の感想を語ります!
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納得ずくめの緊張感
納得いかずモヤモヤ
T:春ドラマの放送が終了したので、総括していきましょう。終盤に向けて話題にのぼる作品が多かったように思います。
S:「風間公親―教場0―」(フジテレビ)は、毎回ドキドキしながら見ていました。毎回の事件に加え、部下を殉職に追い込んだ犯人の追跡もあって、ヤマ場がいくつもありましたが、印象に残っているのは、風間(木村拓哉)の指導のもと、現場を踏んでたくましくなった若手刑事たちでした。突き放しても彼らを見捨てず、個々の長所を見抜く。風間公親がブレずに存在していたことが、このドラマの最大の魅力だったと思います。
K:風間道場の新米刑事として、次々と主役級の俳優が送り込まれてくるので、間延びする回がありませんでした。特番を連ドラ化するにあたり、最後まで飽きずに見てもらえるよう、よく練られていたと思います。エンディング映像に次週予告を盛り込む演出も、期待感を盛り上げてくれました。
T:犯人に共感できる部分もあり、刑事の活躍や事件の謎解きを楽しむだけのドラマとは一線を画していました。映像、音楽、作品全体の空気感など、独自の世界観を持っているドラマで、最後まで緊張感を持って見ることができました。
H:スペシャルドラマの雰囲気そのままに連続ドラマとして成り立たせたのはさすがと感じました。終始緊張感のある作品で楽しめましたね。一方で、決定的な物的証拠なしに犯行を自供させる方法は無理があるのでは?と感じる部分があったのも確か。主題が新米刑事の教育と成長にあるとしても、もう少し考えられていてもよかった気がします。
K:「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ)は、2組の夫婦が離婚し、結末はみち(奈緒)の完全自立か、新しいパートナーとの再出発か、どちらだろうと思って見ていたら、そのどちらでもなかったという驚き。セックスレスや不倫がテーマではなく、夫婦という男女の結びつきの不可思議さや個別性が描かれていました。意外にも考えさせられるドラマでした。
N:初回から、映画のような落ち着いたトーンの映像や演技が個人的には好みでした。主人公夫婦の結末にもびっくりしましたが、意外と、田中みな実演じる編集者と岩田剛典演じる夫が離婚後に「戦友」になるというオチも、悪くないのではないかと思いました。
K:バリキャリ編集者を演じた田中みな実の生き方がカッコよく、このドラマでグッと株が上がったと思います。
I:現実にセックスレスに悩む人の共感が強いドラマだったと思います。ただ、私は最終回に納得いかなかったな。みちが夫(永山瑛太)とよりを戻した心理がもう少し丁寧に描かれていれば納得できたと思うのですが。
H:視聴者の多くが最終回に納得できない気持ちは分かるんですよね。あの終わり方だと結局、子どもは?レスは?という初回からの疑問が解決しないまま残ってしまう。奈緒が演じる主人公に共感する人は多かっただけに、結局なんだったの?で終わってしまうのはもったいなかった。読み取れていないだけだったらすみません(笑)。
リアルへ工夫された脚本
リアル視聴が元気くれた
T:日曜劇場「ラストマン-全盲の捜査官-」(TBSテレビ)は、最後まで福山雅治演じるFBI捜査官のスーパーマンぶりが存分に楽しめた、良質の刑事ドラマでした。ただ、ラストは意外な展開で、思わず涙していました。細かいところまで工夫された黒岩勉の脚本が見事でした。
I:私も泣きました。でも、「両親が同じなのに、福山雅治と大泉洋が兄弟。似てないにもほどがあるよね」とツッコミも入れました(笑)。
Y:「日曜の夜ぐらいは…」(朝日放送テレビ)は、辛さを抱えて生きる3人が宝くじに高額当せんしてカフェの開店を目指す、という物語序盤は「何か落とし穴がありませんように…」と若干ハラハラしましたが、描き出される主人公たちの芯の強さには「この人たちなら大丈夫だ」と思わせる力があり、夢の実現に向けた展開が毎週末の楽しみになりました。
K:知り合いですらなかった女性たちが、カフェを開店する夢に向かって突き進む展開をワクワクしながら見ました。それぞれが抱えるシリアスな現実を、手を携えて乗り越えようとするピュアさに心打たれます。そして母や祖母も巻き込み、友情と家族が混然一体となっていく共同体のありように、理想的な生き方のヒントが見えてきました。
Y:最終回は、カフェが無事オープンした後もさまざまな事情を抱えながら日常が続く描写のなかで、「辛さに資格も順列もない」「すべての戦士たちに休息を、せめて日曜の夜ぐらいは」と印象的なセリフが並びました。特に「日曜の夜に深呼吸を」という最後のメッセージが響き、このドラマをリアルタイムで見るべきメッセージにも思えました。
K:日曜日の夜、翌日からの仕事をひかえてブルーになりがちな視聴者に、このファンタジーが元気をくれる。リアルタイムで視聴したくなるタイトルが心憎いです。
実在人物の再現お見事
ありえなくても面白い
T:他のドラマについてもお願いします。
N:「だが、情熱はある」(日本テレビ)は、実在する人物のドラマ化。過度にドラマチックにしすぎたら嘘くさくなりそうだし、なかなか難しいと思いますが、このドラマは、うまくいっていたように思います。実在の人物をどこまでリアルに演じるかは、作品によって良し悪しがあるとは思いますが、若林正恭役の髙橋海人と山里亮太役の森本慎太郎がそれぞれ漫才をしているときの演技は、間も完璧で、魅了されました。
I:金曜ドラマ「ペンディング・トレイン」(TBSテレビ)は、ありえない設定のなかで登場人物一人ひとりに丁寧に迫って、人間のコアな部分を上手に描いていたと思います。とても面白かったのですが、最終回、結局どうなったのかよくわからずに、ちょっと消化不良でした。
S:オシドラサタデー「帰ってきたぞよ!コタローは1人暮らし」(テレビ朝日)は、前作のファンタジー色は薄れ、コタローの変化を真正面から描いていました。終盤、隠されていた母の死を知り、現実を受け止めるコタロー。小学1年生にはあまりに過酷な運命を支えたのは、愛すべきアパートの住人たちでした。悲喜こもごもを見てきたゆえ、父親よりも隣人との暮らしを選ぶラストにグッときました。コタローを演じた川原瑛都くんの成長とリンクしていたのも、物語に深みを与えていたと思います。
Y:「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」(NHK BSプレミアム) は、各回とも原作を生かしつつ、作品によってはインターネットやスマホなど現代の要素を取り入れながら、工夫された作りを面白く見ました。いずれの回も最終シーンを原作マンガの最後のコマを再現する形となっており、カットが並んで映し出されることで、映像とマンガがうまくリンクしている点も良かったです。
演技に魅せられた
余韻に癒やされた
H:個人的には金曜ナイトドラマ「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日)が今期いちばん楽しめました。最終回に災害時のラジオを描いたのも、ラジオと主人公鼓田ミナレ両方の存在意義をあらためて感じられるストーリー展開でした。主演の小芝風花は膨大な量のセリフを常に畳みかけるようなテンポの速い言い回しでイメージを作り上げていて、圧巻の演技でした。今期の主演女優賞は彼女で決まりと言ってもいいのでは?
S:ドラマ10「育休刑事」(NHK)は、赤ちゃんの蓮くんかわいさに見ていました。子育てに奮闘する春風(金子大地)は育児休暇中の刑事だが、上司(鶴見辰吾)や同僚が、なにかと理由をつけて、現場に引っ張り出してくる。そんな状況に困りながらも、毎回切れ味鋭い推理で解決する春風にほれぼれします。基本はゆるふわコメディですが、最終話ではパニックドラマのお約束、時限爆弾コード切りが出現。手に汗握る緊迫感でした。
T:「全ラ飯」(関西テレビ)は、関西ローカルでの放送のため、動画配信(FOD)で視聴しました。全裸で食事する男性とその同級生の恋愛を描いたBLものですが、世界各国の名物料理を調理する二人の姿がとても微笑ましかったです。また、地方都市の素朴な雰囲気もいい味を出していました。ぜひ全国で放送してほしい。
I:「わたしのお嫁くん」(フジテレビ)は、キャストの熱演もあって、けっこう楽しめるラブコメでした。ただ、「稼ぐのがダンナで、嫁は家事をする人だとみんなが思っている」という前提に、どうしても違和感がありました。原作通りなのかもしれないけれど、もう少し今っぽい価値観に寄せたほうがよかったのでは。
H:スタートはとても良かったんですけれどね。回を追うごとにトーンダウンしてしまった感じがします。
S:ドラマプレミア23「かしましめし」(テレビ東京)は、派手な展開こそないけれど、しみじみと余韻に浸れる名ドラマでした。互いを思いやるエピソードが温かく丁寧で、美大の同級生3人の暮らしぶりに癒やされました。彼らがともにする「おうちごはん」は本当においしそうで、誰かとごはんを食べたくなってしまいます。
I:このクールは、すごく好きだったのに、最終回で「えっ、なにそれ?」となってしまったドラマが複数ありました。「あなたがしてくれなくても」しかり、「ペンディング・トレイン」しかり…。
H:最終回に物語をどう締めるのかがどれだけ重要なのかを思い知らされましたよね。たとえそれがハッピーエンドじゃなくても、視聴者が納得できる最後を提示してもらいたいと思いました。
T:今期は話題作あり、秀作あり、消化不良あり、という感じでしたね。7月に入るとすぐに夏ドラマがスタートします。引き続き、チェックしていきましょう。
(2023年6月30日開催)
※主に関東地区で放送された番組を取り上げています