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【座談会】2023年春ドラマを語る!

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第26弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2023年春ドラマ注目作の感想を語ります!

単発時の緊張感がそのまま
スキのない展開がやみつき

T:春ドラマが出揃いました。今期の注目作など語っていきましょう。まずはスペシャルドラマから連続ドラマになった「教場」からいかがでしょうか。
S:「風間公親 教場0」(フジテレビ)は、過去2回のスペシャルドラマで描かれた警察学校の鬼教官・風間公親のエピソードゼロに期待が高まります。現場に出たての新米刑事の指導役として、表に立つことはないのにドラマへ緊張を与え続ける風間の裏回し的な存在感が増しています。刑事と指導係、それに容疑者との心理戦を、毎回ハラハラしながら楽しんでいます。
T:連ドラになっても、スペシャルドラマのときの緊張感が保たれていて見応えがあります。指導される刑事が入れ替わりで登場するのもなかなかいい設定で、とくに1人目の赤楚衛二の演技は見事でした。事件の謎解きを楽しむというよりも、風間と新米刑事のやり取りに注目してほしいドラマです。
H:風間道場に来る新人は期待をされているけれど、それぞれに何かを抱えている。風間教官と接することで否が応でもその問題に自分自身で向き合うことになる。そこにこのドラマの面白さがあります。一方で、扱う事件の真相が必ずしも納得できるものでないことも否めません。視聴者によって見方が変わるバランスが難しいドラマと感じました。個人的には楽しめています。ゲスト俳優でいうと第2話に登場した宮澤エマはとても良かったです。
S:見終わってふと思ったのですが、捜査中の刑事を、指導役の刑事が後ろで黙って見ているのは、ずいぶんシュールな状況ですよね。でも、そんなコントすれすれの設定が、ドラマの緊迫した雰囲気をより強めているのかもしれません。スペシャルⅡのラストで描かれた風間の負傷がどのように明かされるのかも注目したいです。
T:同じ刑事ものでは、日曜劇場「ラストマンー全盲の捜査官ー」(TBSテレビ)が、今期で一番楽しめそうなドラマです。主人公はあまりにもスーパーマンで「あっぱれ」と言うしかないですが、新鮮味があり愛すべきヒーロー像になっています。スキのない展開が、やみつきになりそうな気配です。
H:見応えありますよね。バディ2人の掛け合いも面白い。伏線も多いので、これからの展開にも期待が高まります。

夫婦のリアルで攻める
古い価値基準が見える

N:「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ)は、テレビドラマなのに映画のような色味と、夫婦の会話のリアルさで驚きました。このドラマの中の岩田剛典演じる主人公の上司がいい役だなと思いましたし、もしかしたら「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ、2014年)の斎藤工のような人気が出るのでは?と思って見ていたら、演出が同じ西谷弘氏と知って、納得してしまいました。
K:パートナーへの満たされない想いを抱えるみち(奈緒)と誠(岩田剛典)は、互いの秘密を打ち明けたことで接近していく。現実逃避的なみちの夫(永山瑛太)と、バリキャリで多忙すぎる誠の妻(田中みな実)は現実にいそうなキャラクターで、夫婦の機微が繊細に描かれています。30代夫婦のセックスレスを真正面から捉え、話題作となりそうな予感。
T:夫婦のセックスレスをリアルに描き、結構攻めている感じがします。特に岩田剛典演じる主人公の上司が、現代の30代男性を象徴的に描かれていて共感が持てます。先が読めない展開ですが、不倫がメインの話にはなってほしくないです。
H:確かに攻めの姿勢を感じるドラマですよね。ここからの展開は2組の夫婦関係が破滅に向かっていくような流れを感じますが、個人的には誰が最初に爆発するのかワクワクしています(笑)。
I:「わたしのお嫁くん」(フジテレビ)は、予告で「家事は女の仕事って誰が決めました?」というフレーズを見て、ずいぶん古い印象がありました。見始めたらそれなりに楽しめそうではあるのですが、やはりデフォルトとしている男女の役割分業に古さを感じさせる台詞がそこここに出てくるのが残念です。
H:感情移入できるポイントが少ないんですよね。家事なんて男女問わず面倒くさい。けど、みんなしょうがなくやってるでしょ、っていうところがないので。そして「逃げるは恥だが役に立つ」(TBSテレビ、2016年)がチラついてしまうのも事実。両親役はまったく同じだし、家事の代わりにお金を払う、メリットをプレゼンするなど共通点があまりにも多い。そのあたりは気になります。
Y:「unknown」(テレビ朝日)は、コメディ的なシーンの印象が強い一方、全編としてはサスペンス要素が強まるようなので、冒頭数話の現時点ではどのようなバランスで見ていけばよいかがまだ見定められない段階です。吸血鬼の両親を演じる吉田鋼太郎と麻生久美子のコミカルなシーン、「おっさんずラブ」(テレビ朝日、2018年)を思い出す田中圭と吉田の絡みなどは面白く見ました。ただ「警察官が手錠で遊んでいいのか?」など細かい表現が気になりもしています。
I:「あなたがしてくれなくても」や「unknown」もそうですが、「わたしのお嫁くん」も含めると今期は夫婦(カップル)モノが多いような気がしています。火曜ドラマ「王様に捧ぐ薬指」(TBSテレビ)も、設定に既視感が強いのですが、若い人にはいいのかもしれません。
H:記者発表であえて結婚報告として話題作りをしているのも、ドラマ内で夫婦の生活を動画投稿していくのもイマドキな感じで楽しんでいます。2人の関係が世の中にバレて…という展開まで読めますけど、主演2人(山田涼介、橋本環奈)は並んでいると絵になるのでなんか見てしまいます(笑)。ハッピーエンドな感じもするので、視聴者としては引き続き楽しみたいです。

極限状態での人間ドラマ
本人に見える芸人ドラマ

T:ほかのTBS作品はどうでしょうか?
N:金曜ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」(TBSテレビ)は、朝の通勤電車が突然、未来にワープして、水も食料もないところで乗客がサバイブするというオリジナルドラマ。乗客たちが究極の状態にあるからということもあるのでしょうが、すぐに諍いを始めるので、見ていて少ししんどいところがあります。欧米のゾンビドラマなどを参考にしているのだとは思いますが、究極の状態においての人間ドラマが少々デフォルメされすぎる気がします。オリジナルでこうしたシチュエーションを描くことの意欲は感じているのですが。
I:私は楳図かずおの漫画『漂流教室』を思い出しました。でも、少しテイストが違い、一人ひとりの背景を丁寧に掘り起こして、いい人間ドラマになっていきそうな予感があります。
T:そのほか、個人的に挙げたい作品があればお願いします。
K:「だが、情熱はある」(日本テレビ)は、オードリー・若林正恭、南海キャンディーズ・山里亮太、それぞれを演じる髙橋海人(King&Prince)、森本慎太郎(SixTONES)が、だんだん本人に見えてくるのが不思議。若林の相方の春日俊彰(戸塚純貴)がこれまた実にいい味を出しています。「何者でもなかった」頃の彼らが、「芸人」とはなんぞや?と問いかけながら、みっともなくもがき苦しみ葛藤するさまは、リアルで心が痛いです。とはいえ、成功を収めメジャーになるとわかっているので、ある意味、安心して見てもいられます。
S:オシドラサタデー「帰ってきたぞよ!コタローは1人暮らし」(テレビ朝日)は、前作から好きだったので、続編は嬉しい限りです。幼稚園児だったコタローが小学生に。心身が成長するに従い、気づきや傷つきも増えていく。日常のささいな事柄からも、コタローが抱えるネグレクトのトラウマが蘇る。ゆるふわファンタジーな設定ながら、見る側にシビアに突き刺さります。健気なコタローを支えるアパートの住人たちも前作から変わらず、物語に温もりを添えています。コタローを子ども扱いせず、対等に扱う狩野(横山裕)のやさしさが際立っています。
Y:始まったばかりの「日曜の夜ぐらいは…」(朝日放送テレビ) は、初回は主人公たちの日常にある深い“辛さ”がグッとのしかかる感じでした。そんな中での出会いが明るい兆しにつながりますように、と願いながら、今後の展開に期待したいと思います。岡田惠和脚本の印象的な言葉が紡がれていくことが楽しみです。3人の中心人物が出会うのがラジオ番組のリスナーイベントという設定も興味深く、音声メディアのコミュニティが人と人を繋いでいく様子が物語にマッチしていると感じました。
H:金曜ナイトドラマ「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日)が、今のところ今期のナンバーワンです。原作漫画もアニメも見てはいませんが非常に面白い。コメディ要素も強いのですが、ドラマ内でのラジオ番組部分とその番組内で話すストーリー部分をうまく組み立てて挑戦的な作りをしています。小芝風花の演技もハマっていて、膨大な量のセリフを畳みかけるところは見応え十分です。

「短編」可能性と充足感
「食もの」夜中に空腹感

T:BSやCS作品も多数ありましたね。
Y:「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」(NHK BSプレミアム) は、数ある藤子・F・不二雄のSF(すこし・ふしぎ)な短編を、原作の雰囲気を生かしながら映像化しており、各話が魅力的な作品になっていると思います。昨年放送の「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」に続き、15分で小説やマンガの名作短編を映像で表現するというフォーマットに可能性を感じます。海外向けの配信などにも向いているのではないでしょうか。
K:プレミアムドラマ「グレースの履歴」(NHK BSプレミアム)は、映像が非常に美しく、毎回引き込まれて見ています。亡くなった妻(尾野真千子)が愛車のカーナビに残した履歴を辿り、夫(滝藤賢一)が、その車に乗り東京から四国まで旅をするロードムービー。日本の美しい風景にホンダの赤いオープンカーが宝石のように輝き、原作・脚本・演出を手掛ける源孝志の作り出す世界観が素晴らしいです。大切な人の想いを受け止め、過去と向き合い、旅で出会う人たちと心を通わせていく。行く先々で出会う人たちも豪華なキャストで見応え充分。上質で抒情性に溢れた、まさに大人のドラマ。視聴者をどこまで連れて行ってくれるのか楽しみです。
T:連続ドラマW「フィクサー」(WOWOW)は、重厚感のある政治ショーで、WOWOW以外ではなかなか見られないドラマ。井上由美子の脚本は細部も丁寧に描いていて、緊張感が半端ないです。それにベテラン俳優たちの演技合戦と緻密な映像が加わり、最初からフルコースディナーといった感じ。3シーズンもあるので、この先がどうなっていくかとても楽しみです。
H:非常に楽しみですが、最初から3シーズンもあると知ってしまうと、全部出てから一気見しようかな、と思ってしまいました(笑)。
K:今クールはグルメドラマが多く、「食」を中心に人と人の繋がりを描く作品が目立っていますね。「僕らの食卓」(BS-TBS)は、他人と食事をするのが苦手な主人公が、ある兄弟と出会い食卓を囲むように。ドラマプレミア23「かしましめし」(テレビ東京)は、美大同窓生の男女3人が再会、一緒にごはんを食べるのが楽しくなり同居してしまう。どちらも「家族」ではない、単なる友だちとも違う、ひとひねりある関係が「ごはん」を通じ距離を縮めていくのが今っぽい。登場する家庭料理は美味しそうで、すぐ作れそうなものばかり。深夜の飯テロ系です。
S:朝ドラの連続テレビ小説「らんまん」(NHK)にも触れておきたい。植物学者の牧野富太郎をモデルとしながら、坂本龍馬やジョン万次郎が登場。主人公の紆余曲折をたどる一方で、高知のとある町から見た幕末〜明治期の日本の移り変わりを多面的に見せてくれます。万太郎、姉の綾、お目付役の竹雄。理想と現実の間で三者三様に揺れる気持ちを丁寧に追っていて、朝からついつい見入ってしまいます。シーンごとの構図が絵画のように端正に収まっているのが印象的です。厳しい役のイメージがなかった松坂慶子が、造り酒屋の大おかみを威厳たっぷりに演じていたのは発見でした。
T:話題作あり、秀作ありで充実している今クール。最終回を迎えたときにこの評価がどう変わっているのか、楽しみです。

(2023年4月28日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています