★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第31弾★
ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、2023年秋の注目ドラマを総括します!
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打ち込む女性が魅力的
打ち込む選手が本格的
T:2023年も残りわずかとなりました。秋ドラマも続々と最終回を迎えています。さっそく総括していきましょう。
N:日曜ドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ)は、気軽な気持ちで見始めましたが、主人公の田中さん(木南晴夏)が好きなベリーダンスに打ち込み自分の居場所を見つける姿、そんな田中さんに憧れて前を向く後輩の朱里(生見愛瑠)、初めは偏見の多かった笙野(毎熊克哉)が知らず知らずのうちに田中さんに惹かれ変わっていく姿が、なにげないけれど、胸を打ちます。
H:今期ナンバーワンだと思います。キャラクターの芯の部分がきちんと描かれていて、全員が魅力的なキャラクターになっていました。生見愛瑠は「日曜の夜ぐらいは…」に続き、作品に恵まれていますよね。今後が楽しみです。
T:最初はタイトルのような少しエッチなドラマかと思いきや、コミュ力不足ながらも好きなことを突き詰め、たくましく生きていく魅力的な女性の物語でした。昭和的価値観の男性を演じた毎熊克哉の演技も良かったです。
K:日曜劇場「下剋上球児」(TBSテレビ)は、野球の素養のあるキャストを時間をかけて集めただけあって、グラウンドでの練習や試合シーンは、本物の高校野球部を見ているようでした。ワールド・ベースボール・クラシックや大谷翔平選手、阪神タイガースの38年ぶり日本一など、野球の話題に事欠かなかった2023年。盛り上がった野球熱を満たしてくれたドラマでした。
T:実話のドラマ化なので結末はわかっていたものの、やはりスポーツならではの盛り上がり方には感動しました。ただし、監督の不正問題は不要だったと思います。そのぶん、生徒たちのそれぞれの物語を厚く描いてほしかったです。
K:同感です。南雲先生(鈴木亮平)の教員免許詐称のエピソードはテーマが重くて消化不良ぎみ。一方、野球オタクの女性教師(黒木華)の存在感は物語を推進する重要な役回りで、強く印象に残りました。
S:火曜ドラマ「マイ・セカンド・アオハル」(TBSテレビ)は、案の定、年の差ラブコメディに終始してしまいました。“学び直し”という旬のトピックが舞台装置にとどまってしまったのが残念です。海辺のシェアハウスの物語は秋ではなく夏に見たいなあ、とも思ったりして……。
I:途中からストーリーがどんどん凡庸になっていきましたよね。ただ、広瀬アリスは魅力的な演技だったと思います。
K:夜ドラ「ミワさんなりすます」(NHK)は、映画オタクの主人公・ミワ(松本穂香)は不器用だけれど一途。家政婦になりすましてしまうほどの推しへの熱い思いに引き込まれました。朝ドラが視聴者にとっての一日の活力源だとすると、夜ドラには癒やしや自己肯定感が欲しい。そういう意味では無名のファンとスターが繰り広げる物語には夢があり、「自分らしく生きていればいいこともある」と思えて、一日の締めくくりにぴったりでした。堤真一の大物俳優ぶりと、意外に真面目な私生活にも好感が持てました。
I:私はオープニングの影絵がとても好きでした。雰囲気にぴったりで、ユーモアもありました。
奇妙な疑似家族の愛
勝手放題な家族の愛
T:木曜ドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」(テレビ朝日)は、奇妙な人間関係のドラマでしたが、それぞれが自分の生き方を貫く姿に勇気をもらえました。そして、菅野美穂はやっぱり演技が上手いと、唸りました。便利屋を演じた木戸大聖のイケメンぶりも印象的でした。
K:ゆりあ(菅野美穂)に次々と襲いかかる不測の事態。アラフィフ主婦の一大事をギチギチに詰め込みながら散漫にならなかったのは、主人公が現実を受け入れ、あるがままの姿で最善を尽くそうとする姿勢が首尾一貫していたから。敵と思った人が味方になり、互いを支え合う疑似家族が成立していくさまに、家族のあり方を考えさせる深さがありました。若い恋人の父親役・宮藤官九郎の妙に胡散臭いのに家族愛を感じさせる演技、さすがでした。
I:「いちばんすきな花」(フジテレビ)は、月9がトリプル主演なら、こちらはクアトロ主演。「silent」(2022年)の生方美久が脚本でしたが、全然違うテイストでした。ちょっぴり理屈っぽいセリフが続いた感はありましたが、イヤと感じさせなかったのは演技と演出の力だと思います。
H:シーンごとはとても良かったしセリフも個人的には良かったと思いました。ただ、なんとなくノリ切れないというのが最後まで続いてしまった印象ですね……。
N:水曜ドラマ「コタツがない家」(日本テレビ)は、今まで描かれていなかった家族のドラマを作ろうとしていることが伝わってきました。個人的には、中盤の家を出て行った自由な母親と娘の話が好きで、最後まで中だるみすることなく見ることができました。
S:初めのうちは、自分勝手を貫きまくる深堀家の面々に楽しいドラマが生み出せるのか、という不安や疑問だらけでしたが、ワガママやぶつかり合いも信頼しきっている家族だからゆえ、というのが見えてきて、最終回近くには深堀家が愛おしく思えるようになりました。行動やセリフに登場人物の性格や心情をさりげなく忍ばせる金子茂樹の脚本、そのセリフを肉体化して家族を体現した小池栄子をはじめとするキャスト、ともに秀逸でした。
N:ただ、最終回まで見ると、しょうがない男性たちを、あきれながらも支える万里江という図式で、けっこう女性が心理的にも金銭的にもケアする家庭の話だったなと思ってしまう部分もありました。
I:「たとえあなたを忘れても」(朝日放送テレビ)は、解離性健忘症を患う主人公(萩原利久)と、それを支えるピアノ講師(堀田真由)の物語。ラストシーンは、再び記憶を失いながらも気持ちは平安になっているという状況が、言葉がないのに伝わってきてよかったです。ただ、何度か出てくる廃墟の中でピアノを弾くシーン。長年調律されていないとは思えない音に違和感を覚えてしかたがなかったです(笑)。
H:同じ感想ですね。記憶をめぐる物語は今までも多くの作品で描かれていて、それぞれに何となくツッコミどころもあって。今作は着地点をどうするかに注目していましたが、希望が描かれたラストシーンはとても綺麗でした。
時空超えた辻褄合わせ
同時進行からの大団円
T:そのほか、個別に感想があればお願いします。
Y:「時をかけるな、恋人たち」(関西テレビ) は、前半の1話完結型のエピソードも、後半の主人公たちの恋を取り巻く展開も、どちらも魅力的で最後まで楽しめました。時空を超えた“辻褄合わせ”にはなるほどと感心し、最後に明らかになった事実をもってもう一度見返したくなる面白さがありました。各回のサブタイトルがさまざまな映画ロゴのオマージュというような遊び心もよかったです。
H:金曜ドラマ「フェルマーの料理」(TBSテレビ)は、数学に挫折した高校生が料理人として才能を開花させ、成長していく。全体的には楽しめましたけれど、時系列を前後させて進む構成がちょっとマイナスだったかもしれません。最終回も少し美談にまとめすぎな感じもあり、ストーリーだけじゃなく心情も含めて、もっと世界観に引き込んでほしかったです。
I:大沢たかお、中谷美紀、二宮和也という豪華トリプル主演の月9「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」(フジテレビ)は、サスペンスとコメディで緩急をつけながら、3つの場面を同時進行させるという工夫がありました。バラバラだった場面がすべて繋がって迎えたラストは聖夜にふさわしく、心が温まりました。
K:土曜ドラマ9「たそがれ優作」(BSテレ東)はバツイチ50代俳優、優作(北村有起哉)の日常はいつもちょっと情けない。勘違いや力みすぎて空振り、最後は馴染みのママのバー「とまり木」でたそがれる。華やかな芸能界にいる主人公が、どこにでもいそうなおじさんなのが良かった。シーズン2でまた会いたいです。
Y:「月とケーキ」(フジテレビ)は、登場人物の揺れる気持ちが静かに描かれ、余韻の残るドラマです。ミニ枠で毎週数分のエピソードが続いていく形で、本編に続くCM部分を含め、スポンサーの会員制リゾートホテルのよい雰囲気も伝わります。1社提供ミニ番組のフォーマットとして効果的だと思いました。今後もいろんなパターンを見てみたいです。
中年が立ち向かう現実
女子大学生を覆う現実
T:ドラマ24「きのう何食べた? season2」(テレビ東京)は、健康、老いる親、不倫など40代~50代が抱える普遍的な問題を生真面目に描きながらも、笑いをちりばめて楽しく見られる完成度の高いドラマでした。サブカップルの山本耕史と磯村勇斗の演技も愉快でした。
Y:朝ドラにも触れておきたいです。連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)は、物語の重要な節目と音楽がリンクし、「ラッパと娘」をはじめとした圧巻の歌唱の迫力が画面越しに伝わります。ステージの客席にいる気分になるような贅沢な回も複数あり、リアルタイムで見られてよかったです。物語の後半、主人公の戦後の活躍がどのように描かれるのか引き続き楽しみにしています。弟役の黒崎煌代の演技が素晴らしかったので、今後の活躍に期待が膨らみます。
T:大河ドラマも最終回を迎えました。「どうする家康」(NHK)は、序盤は不自然なCG映像や主人公・家康(松本潤)のオーバーな演技が気になりましたが、後半は臨場感ある合戦シーンやリアルな老けメイクで大河らしくなってきました。茶々(北川景子)と豊臣秀頼(作間龍斗)の最期も迫力があった。ただし、物語や人物像は定説とはかなり異なっており、最後まで違和感が残りました。
N:ドラマプレミア23「SHUT UP」(テレビ東京)は、12月開始で、まだ最終回を迎えていないのですが、女子大学生4人が、その中のひとりに望まぬ妊娠をさせた男に復讐を企てるサスペンスです。今、大学生が奨学金を返せなくて“パパ活”などをせざるをえなくなるなど、貧困にあるということが話題になっていますが、そのあたりの社会問題ともつながっている作品で注目しています。
T:こんなところでしょうか。すぐに2024年新春ドラマがスタートします。新しい大河にも注目が集まるなか、どんなドラマに出会えるのか楽しみです。2023年もありがとうございました。よい年をお迎えください。
(2023年12月23日)
※関東地区で放送された番組を取り上げています