オリジナルコンテンツ

【座談会】2021年春ドラマまとめ編

★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第11弾★

緊急事態宣言も解除となった6月下旬。
春ドラマも、たくさんの話題作が誕生しました。
マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、注目作を総括します!

「大豆田とわ子」の不思議

T:春ドラマが最終回を迎えましたので、総括していきましょう。まずは日に日に評価を上げていった「大豆田とわ子と三人の元夫」(フジテレビ系)からで、どうでしょうか。
N:始まった当初は、とわ子(松たか子)と3人の元夫(岡田将生・角田晃広・松田龍平)のエピソードだけで進むのかと思いきや、とわ子の幼なじみの死があり、それをどう乗り越えて生きていくのかなどにも迫っていました。見ている最中は、「これってどういうことなの?」の連続でしたが、終わって初めて、いろんなテーマが見えてくるような作品でした。ちょっと難しいところはありましたが、昨今、単純でわかりやすいものが多すぎなので、そこがよかったです。
S:登場人物はみな変わり者ばかり。セリフに織り込まれるタイトルコールに、伊藤沙莉のぐいぐい来るナレーションが相まって、大人のおとぎ話を楽しませてもらった。気の利いた会話の陰に、今はいない母や親友が、とわ子の心には生きていることも描かれていて、しみじみしたり。ラストは、カメラ目線で「ありがとう!」と締めるとわ子が素敵すぎて、泣きそうでした。
I:主人公はタイトルどおり大豆田とわ子と3人の元夫で、4人それぞれに起承転結のあるエピソードは起こるけれど、じゃあ全体のストーリーは?と聞かれると、起承転結がなくて、とても説明しにくい。少なくともストーリーを楽しむドラマじゃない。キラリと光るセリフに時々ハッとするけれど、セリフだけが魅力的だったわけでもない。伊藤沙莉の小気味よいテンポのナレーション、冒頭の「次回予告」ならぬ「今回予告」、毎回違うエンディングなどなど、いろいろ実験的な要素が入り交じって、不思議な魅力のあるしゃれたドラマになったと思います。
H:本当におしゃれなドラマでしたよね。音楽を含めた演出もだけれど、やっぱり坂元裕二脚本のセリフが本当に良かった。いちばん印象的だったのは、「女が好きな理由を話す時は、その恋を終わらせると決めた時」っていうセリフ。見ていて、唸ってしまいましたね(笑)。ほかにも、各キャラクターが人として重ねてきた厚みがセリフからにじみ出るシーンを各所に散りばめるなど、最高でした。
Y:演出で言えば、独特のナレーションや淡々と進む物語のバランス、サンプリングやコラボレーションを織り交ぜた音楽など、「ドラマの表現にはまだまだ見たことのない可能性の幅が広がっている」ことを実感できました。

「コントが始まる」よ、ありがとう

T:次の注目作品は、「コントが始まる」(日本テレビ系)でしょうか。
S:沁みました。売れない芸人が叶わぬ夢に決着をつける、というテーマなのに、ドラマの色調は決して暗くならない。それは、まっすぐな生き方と、彼らを支える大人たちのやさしさの両方が描かれていたからじゃないかな、と思います。本当は支える側に回らなくてはいけないところですが、くたびれた大人を励ましてくれてありがとうと、マクベスの3人(菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀)に言いたいです。
I:自分のやっていることに自信がなく、頑張ってるけれど、報われない。そんな人たちに勇気を与えたドラマだったような気がします。最後に菅田将暉と有村架純がくっつかなかったのがよかった。
T:昭和の青春ドラマのような生真面目なテーマが心地良い。メイン3人の巧みな演技が、エンタメとしても見られる作品に昇華させた。特に仲野太賀は、改めて役者だと思った。
H:惜しかったのは、最後までコントがいわゆるお笑いとしては笑えなかったところ。最後のコント「引越し」で笑えたら、もっとエンディングで感動できたと思う。

「いい人」たちの希望と愛

T:他の局の注目作はいかがでしょうか。
Y:金曜ナイトドラマ「あの時キスしておけば」(テレビ朝日系)は「大切な人が急にいなくなったら」「失って気づくこととは何か」「何気ない日常の日々をどう過ごすか」といった普遍的なテーマのメッセージが物語全体に散りばめられていた。姿は男性なのに麻生久美子にしか見えない、という井浦新の名演が作品の魅力を最大限に底上げしていた。沢山の個性的なキャラクターが出てくるけれど、癖はあるもののみな根底は愛情あふれる「いい人」で、作品全体が温かく魅力あふれるものになっていた。
I:人気漫画家(麻生久美子)の魂がオジサン(井浦新)に乗り移って……こういう荒唐無稽な設定って基本的に苦手なのですが、井浦新が上手だったこともあってだんだん面白くなり……最終回は胸が熱くなりました。
T:NHKも粒揃いでしたね。
N:土曜ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」(NHK)は全5回と短いドラマでしたが、その中にいろんなものを描き切っていました。特に元アナウンサーで大学の広報の仕事をしている主人公・神崎(松坂桃李)がタイトルの通り、最初はことなかれ主義で好感度しか気にしていなかったのに、大学の恩師や、かつての同級生のポスドク(博士研究員)女性と出会い、彼女たちが戦っているのを見て、少しだけ変わりそうで変わらなくて、でも確実に変わっていく姿に希望を見ました。日本にある問題と重なることも多かった。
T:ドラマで現実を風刺するのは、なかなか難しい。さりげなく描くのはさらに難度が高い。それを、娯楽色を交えながら最後まで絶妙なバランスで描いたのは、脚本の渡辺あやの手腕が大きいと思う。
N:ドラマ10「半径5メートル」(NHK)にも触れたい。毎回、新米の女性週刊誌記者(芳根京子)が、先輩の「オバハンライター」などに気づきを得ながら成長していく姿が描かれていました。中でも、就職氷河期世代を描いた回が印象に残りました。この世代のことを取り上げる作品はなかなかなかったし、この世代の持つ、それぞれのジレンマ、ある者は怒りの声をあげないといられないし、ある者は、自分のせいだと思ってしまったしといったことが、よく描けていたのではないでしょうか。
I:出版社の「あるある」あり、取材に絡んで事件あり。週刊誌のネタとして取り上げる題材は毎回けっこう深くて、それを通して主人公の編集者が成長していくのだけれど、「ここまで急に成長するかっ!」と思いながら、面白く見ました。ベテラン記者を演じる(永作博美)が、すごくいい味を出していたと思います。
T:TBS作品はどうでしょうか。
H:あえて日曜劇場「ドラゴン桜」ではなく金曜ドラマ「リコカツ」(TBS系)を。序盤から予想していた展開になっていったなかで、それでも引きつけるものがあった。家族の在り方とか、男女の在り方の多様化がテーマとしてあったと思うけれど、結局はお互いの想いがそれぞれを形作っていくのだと、至極まっとうに描いていたと思う。コミカルに誇張されたキャラクターたちではあったけれど、それもいい具合に作用したのではないか。佐野史郎さんの降板から、平田満さんが代役を務めていたが、それも見事だったと思う。
S:デフォルメが強めなのも、恋敵がありきたりなのもご愛嬌。離婚から始まる関係の変化を、夫婦それぞれの立場から10話たっぷり使って描いていた。愛情って、見損なったり見直したりしながら深めていくものなのかしらね。

次週が、続編が、映画が見たい?!

T:では、ほかに挙げたい作品があれば。
S:「特捜9 season4」(テレビ朝日系)は、「相棒」がお休み中の代替番組と思っていたが、最近、そのおもしろさに気づいた。浅輪刑事(井ノ原快彦)をはじめとする9係メンバーの個性がしっかり物語に根付いていて、1時間の謎解きに広がりが出たように思う。前シリーズの大黒柱、渡瀬恒彦が去った後もチームは成長している。コンテンツを育てるテレ朝刑事ドラマの底力を見た気がします。
Y:では、テレビ東京の作品を2本。ドラマ25「ソロ活女子のススメ」(テレビ東京系)はソロリムジン、フルコース、遊園地、バーベキュー、寿司……毎回興味のある行動を自分のペースで、一人で楽しむ主人公を見て、自分も主体的に行動の幅を広げてみたいなと感じさせられた。数々のソロ活を経た主人公は、最終回には会社のみんなと焼肉に行くことに。両極端にはならず、ソロ活もみんなでの行動も自分で選んで実行する、という方向性が表現されたことも興味深かった。もうひとつのドラマプレミア23「珈琲いかがでしょう」(テレビ東京系)はドラマ後半、主人公青山の過去が段階的に描かれ、前半のほのぼのとした雰囲気から一転して暴力シーンや暗い場面が続いたが、移動珈琲屋を続けている経緯が理解でき、より物語に深みが出たように感じた。ぜひ続編で、青山の珈琲に出会い救われる人々の人生のエピソードをさらにいろいろ見てみたい。
T:私からは「イチケイのカラス」(フジテレビ系)を。同じフジの「HERO」もどきかと思ったが、さにあらず。アニメを効果的に使い、毎回芸人を登場させるなど演出面での細かい工夫がなされ、裁判官、書記官たちにも親しみが感じられた。現実にはこんな裁判官がいるかどうかは分からないですけれど。
I:「三権分立」なんて建前でしかない日本を、痛烈に風刺していましたね。
H:キャスティングも見事だった。映画化も決まったようですし、それだけ手応えを感じたということでしょう。
T:こんなところでしょうか。
Y:最後にひとつ。「大豆田とわ子と三人の元夫」では、各話最後の大豆田とわ子の「また来週!」の台詞も印象的だった。「地上波の連続ドラマであること」が作りの芯にあるという潔さを感じた。一方で、このドラマのファン層がどのくらい火曜日9時にリアルタイム視聴できたのか?とも思う。作品ごとの視聴指標をどう見るべきか、引き続き考えていく必要があるのではないでしょうか。
T:やはり今回の注目は「大豆田」だったということでしょうね。東京オリンピック・パラリンピックの影響もあるのでしょうが、すでに7月期ドラマがスタートしている枠もある。引き続き、ウォッチしていきましょう。

以上(2021年6月25日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています