★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第9弾★
関東1都3県では緊急事態宣言が延長されるなど、長引くコロナ禍のなかで視聴者の生活に彩りを与える数々のドラマ。今回もマイベストTV賞プロジェクトメンバーの“推し”作品を中心に、冬ドラマを総括します!
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「まさか!」のラストに舌を巻く
T:冬ドラマも最終回を迎えたということで、総括をしていきましょう! 高視聴率をマークした「俺の家の話」「天国と地獄」は、ともにTBSの作品でした。そのあたりの感想からいきましょうか。
Y:金曜ドラマ「俺の家の話」(TBS系)は、介護だけでなく、物語/人生に「まさか」はないことを実感させられる驚きのラストに舌を巻きました。
H:まったく予想していなかった最後でしたよね。
N:能の世界を舞台にした作品ですが、能は死んだ後も魂をさまよわせる話も多く、鎮魂の意味合いもあると以前、取材で聞いたことがあります。『道成寺』や『隅田川』などの能の物語を、親子や兄弟の物語にうまく重ね合わせていて、さすがの宮藤官九郎脚本でしたね。
Y:「あまちゃん」(NHK連続テレビ小説、2013年)では震災を、「俺の家の話」ではコロナ禍を描いた宮藤官九郎は、ああ、現在進行形の日本社会を切り取り続けているのだなと改めて実感しました。また、重要な発言の際に思わずマスクを取ったり、マスクで涙を拭ったりといった形で、マスクという象徴を通して、この奇妙なコロナ禍の空気に人々がどう向き合っているかを映し出す描写も印象的でした。2021年の「今」の断片が詰まった物語だったと思います。
N:若手脚本家のイメージが強いクドカンが、親の老いと介護をテーマに取り組むときが来たのだなと思いながら見ていましたが、介護の話だけではないとわかってきて、そこに対してはもっと向き合ってほしい気持ちもあったけれど、終盤には、3月をもって引退してしまう長瀬智也に対してのはなむけのような作品であるように見えてきました。とくに、マスクだけを置いて、別の世にいってしまうシーンは、引退公演の最後、ステージにマイクを置いて芸能界を離れた山口百恵を彷彿とさせるものでしたね。
Y:長瀬智也は、親の介護と自分の人生の目的の再考という大きな岐路に直面する40代男性をありのままに魅力的に演じていました。それだけに、本作を最後に裏方に回るというのはあまりにももったいない。彼の演じる50代以降の人物像も見てみたかった…。
「まさか?」と勘くり入れたくなる
I:日曜劇場「天国と地獄」(TBS系)は、日曜夜9時といえば、古くは東芝日曜劇場のほっこり、近くは「半沢直樹」のスカッとした味わいが魅力の枠のはず。それなのに、えっ! 猟奇殺人? サイコパス? やめてよ〜、というのが最初の感想でした。それでも、絶対に面白くなるはずだと思って見続けたのは、脚本が森下佳子だったから。はたして意表を突いた展開に高橋一生の演技の妙も相まって、どんどん面白くなっていきました。だけど…元に戻った後の綾瀬はるかの性格が、高橋一生と入れ替わる前とは微妙に違っているとか、証拠隠しの問題がいつの間にかスルーされているとか、それまでの謎がうやむやのまま。失礼ながら作りが雑で、モヤモヤ感が残るラストとなりました。ひょっとしてストーリーが全部入りきらなくて端折ったのかな?とも感じました。
H:確かに入れ替わりの二人の演技は見事でしたよね。ただ、やはり少し書ききれていない感があったのも正直な感想。同僚や恋人が二人の入れ替わりをすぐに納得してしまうあたりとか、ホントかよ!とツッコミを入れたくなっちゃう(笑)。ゴリ押しでなんとか形になったけど、ストーリーが単純なだけに、もう少し丁寧に描いてもよかったのかな?
勇気と希望をくれた女
T:他はどうでしょうか。
S:「その女、ジルバ」(フジテレビ系)は、ひょんなことから熟女バーで働くことになった40歳の新(池脇千鶴)をめぐる物語。くじらママ(草笛光子)率いる先輩たちを縦軸、新と同い年の独身女性の友情を横軸にして、先の見えない不安な独り身に「女はシジューから!」と、希望と勇気を与えてくれました。縦軸の延長には身一つでブラジルから帰国して店を開いたジルバの苦難、戦争孤児だったくじらママの癒えない傷、マスター(品川徹)の叶わない思いが渦巻き、胸を打つ。新を軸にして、過酷な戦後を生きてきた先輩への敬意と、震災で大変だった新の郷里・福島への郷愁が交錯する物語にしみじみとさせられました。何より、草笛光子の変わらぬ美貌は、人生は何歳になっても楽しいというテーマに説得力を与えていたと思います。
Y:私も「その女、ジルバ」推しです。物語序盤で感じた勢いは衰えず、回を重ねるごとに人間としての魅力がますますにじみ出る主人公・新と登場人物たちに魅了された、あっという間の10話。回想や歴史を語るシーンの独特の表現にも目を奪われました。ブラジル移民について作家であるチーママ(中尾ミエ)の流暢な語りとともに映し出される実際の写真の数々、くじらママが自身の過去を吐露するシーンの一人芝居の舞台のような迫力、そして最終回での新によるブラジルからの手紙の真摯な朗読から、歴史の重みが伝わってきました。また、コロナ禍が店の存続危機につながる一方、すみれ(江口のりこ)が産む子どもが希望の象徴となり、新が震災を経た故郷に一度帰った後に自身の人生の光を改めて見出すという結末に、不安定な状況下でも前を見て生きていく清々しさが表れていたと思います。
学園のかたち、家族のかたち
N:よるドラ「ここは今から倫理です。」(NHK)は、毎回悩みや問題を抱えた生徒たちが登場するが、それに対し、倫理の教師・高柳(山田裕貴)が一緒になって悩み、なんとか良い方向に向かわせる姿がよかった。教師というだけで、簡単に答えを見つけて、一方的にその正解をアドバイスするのがこれまでの学校ドラマのセオリーだった気がするけれど、そうではない姿が描かれていた。しかし、高柳が見つけるものは、どっちもどっちではない。善とは何か、悪とは何かという線引きがしっかりあるなかで、なぜ生徒たちは悪のほうに行きたがってしまうのか、それを止めるにはどうすべきか、といった“テーマ性”が軸にあったことが、このドラマを信頼できるポイントだったのだと思う。
S:高校の倫理教師が主人公で、地味な教科がドラマの舞台になるのかという興味から見始めたけれど、結果として大ハマり。天真爛漫な役どころの多かった山田裕貴が、打って変わって、静かな語り口に倫理教師の秘めた情熱をにじませる。山田扮する高柳は、知識と対話で悩みを解決しようという自分の理想にこだわるあまり、触れ合いを求める生徒を拒絶してしまい、自己嫌悪に陥る。授業で知識を得て生徒は成長していくし、教師も生徒に教えられる。その繰り返しで互いを高めあう循環の過程が、とても心地よかった。最終回の生徒たちの表情が頼もしいのは、知性と実践を身につけた証なのかもしれない。
H:土曜ナイトドラマ「モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~」(テレビ朝日系)は前回の座談会でも秀作と評したが、それは間違っていなかったと思う。コロナで家族のあり方が問われた1年。いろんな不満や不安が家族のなかにもそれぞれあって、それをぶつけ合うことができない序盤から、モコミを中心にトラブルが発生する。そんななか、家族が向き合って本音をぶつけていくことで、本当の家族になっていく姿が丁寧に描かれていた。小芝風花がピュアな役どころを見事に演じていたが、脇を固めた家族役の俳優陣も見事。とくに母親役の富田靖子は素晴らしかったと思う。
脇役と猫と肉食魚
T:そのほか、個人的に挙げたい作品があればお願いします。
I:ドラマ24 「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」(テレビ東京系)は、名脇役俳優が「本人役」で登場し、虚実ないまぜのストーリーが展開する異色のドラマのシーズン3。第1シリーズはシェアハウス、第2シリーズは無人島と、少しずつスケールを広げていき、今シリーズの舞台は架空の撮影所「バイプレウッド」。ストーリーは複層的になり、出演者の人数も飛躍的に増えた。主役はおらず、大勢が出演するスタイルだが、「群像劇」とも違い、各話きちんと一人ひとりの脇役を光らせていたのがすごい。映画版の壮大な宣伝でもあったが、鼻につくことなく楽しめた。ひとつ気になったのは、女優が少ないこと。名脇役は男性のほうが多いのか?と思ってしまった。
T:ドラマパラビ「おじさまと猫」(テレビ東京系)も好きでした。最近は、犬や猫などのペットは「家族」と言われることが多いが、まさにこのドラマに登場する猫は家族と呼ぶにふさわしい存在。妻を亡くし、ステージにも立てなくなるほど絶望感を抱いていた世界的ピアニスト。そんな彼が1匹の猫を飼い、会話を交わしていくことによって心に安らぎを覚え、徐々に心を開き仕事にも打ち込めるようになっていく。その様子が繊細に、そしてユーモラスに描かれていく。ただし、ぬいぐるみの猫がけっしてかわいくないところがミソ。見た目ではなく、その存在だけで癒されていくところが見ていてもとても心地良い。ペット好きの人はもちろん、ペットに関心がない人にもぜひ見てほしいドラマでした。
N:土曜ドラマ9「ナイルパーチの女子会」(BSテレ東)は柚木麻子原作のドラマ。地上波ではないので、見ている人は少ないかもしれないけれど、毎回、次週が気になって仕方なかった。今期でいちばんドラマらしいドラマだったと思います。主人公は商社勤務で、仕事もできて美人の女友だちのいない女性。彼女はある主婦ブログのファンだった。あるとき偶然、彼女はその主婦ブロガーにばったり出会い、友情を築いていくが、主婦ブロガーが実家に帰っている間に電話を忘れ、連絡ができなかったことで、主人公は疑心暗鬼になり、ストーカーのようになってしまう。タイトルにある「ナイルパーチ」は、日本でも白身魚として食されている、じつは狂暴な肉食魚。外来種で、生態系を破壊してしまう。主人公の激しい性格が、そんなナイルパーチに重ねられているけれど、じつは女性たちも、自分からコミュニティを壊そうとしているわけではなく、つねに周囲から「女同士の友情は薄い」「女性同士は競争し、いがみあうもの」とけしかけられていた。そうした痛みと、その先にある女性同士の理解が描かれていることが、現在のテーマとしてしっくりきました。
いつになくバラエティ豊かな冬
T:連続ドラマW「コールドケース3 ~真実の扉~」(WOWOW)についても一言。オリジナルは未解決凶悪犯罪を扱う捜査チームの活躍を描いたアメリカの人気ドラマだが、単なるリメイクではなく、日本版ならではのオリジナルストーリーも展開される。そして、シーズン3ということもあり、吉田羊をはじめ、永山絢斗、滝藤賢一、光石研、三浦友和ら、捜査員に扮する役者たちのやりとりが何とも絶妙。しかも、今シーズンは自分の感情をあらわにするシーンも多く、ストーリーの面白さだけではなく、演技も見応え十分の仕上がり。そして、意識的に加工した過去の場面の映像やバックに流れる当時のヒット曲など、凝った演出も大きな見どころになっていた。また、犯人のキャラクターも毎回ユニークで、とくに第6話のレイプ魔は意外性があり秀逸だった。
H:もう一つ挙げたいのは、オシドラサタデー「書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~」(テレビ朝日系)。ひょんなことからゴールデンドラマの脚本家となった主人公の奮闘がコミカルに描かれた作品。終盤、いよいよ放送に間に合わなくなり、ベテラン脚本家がテコ入れに登場。ささっと上げてしまうけど、主役がそれを拒否し主人公が書いた台本を選ぶシーンは最終回の感動へと続いた。「モコミ」から続く土曜日のこの放送枠が、今期の癒しでした。
I:3月下旬まで緊急事態宣言が解除されなかった地域に住んでいると、楽しいことも制限されがち。それでも腐らず過ごせたのは、バラエティに富んだ今期の連ドラのおかげだと思う。
Y:私が挙げた「俺の家の話」と「その女、ジルバ」は、コロナ禍と人生の交差を物語のなかで描いた2作品。ドラマが放送時の社会情勢や空気感を切り取ることの意義が、一定の時間が経った後、見返したときに改めて感じられるのではと考えている。どちらの作品も困難な状況下で、一つの命が失われ、生まれ、それでも続く人生と日常が描かれたという観点でも、対照的ではあるものの、根底では共通の重要なテーマを示したドラマだったと思います。
T:各人の好みがはっきりと出たように、今期はバラエティに富んだ作品が多かったように思います。4月スタートのドラマにも、引き続き注目していきましょう。
以上(2021年3月27日開催)
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