★放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第14弾★
緊急事態宣言下で長く続いた首都圏飲食店への時短営業要請が解除となった10月。
徐々に日常生活が戻りつつあるなか、2021年の秋ドラマも出揃いました。
マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、秋の注目ドラマを語ります。
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ありがちを超える!
ありがちを超えろ!
T:年末に向け、秋ドラマが出揃いました。皆さんの注目作品を語っていきましょう。
N:まず「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(日本テレビ系)を挙げたい。日テレのラブコメにあまり期待していなかったのですが、夏ドラマの「ハコヅメ」といい、見てみると予想を裏切り(?)いいものが多くなっている印象です。本作は、弱視のヒロインの物語ですが、良い漫画原作をとってきて、しっかりそのテーマを崩さずにドラマ化していて、今期、一番楽しみにしています。
I:私も今クールで最も楽しみかもしれない。弱視の高校生(杉咲花)にヤンキー(杉野遥亮)が恋をして……というストーリーで、コメディ的な要素もありながら、目の不自由な人の世界を自然に紹介する啓蒙的な要素もある。昔ありがちだった「健気な障がい者」ではなく、「強気な障がい者」を描いているところにも好感が持てます。
H:好きな人にまっすぐなヤンキーは、ラブコメとの相性がいいですよね(笑)。「障がい者」でもある主人公を、先入観を持たずにただ好きな女性として接するまっすぐさに、本当のバリアフリーとは何かを、見る側も考えさせられます。解説として盲目のお笑い芸人・濱田祐太郎が出てくるのもいい演出です。
T:「アバランチ」(フジテレビ系)は、綿密に作り込まれたクライムサスペンスの世界観が見事で、「ドクターX」とは違ったカタルシスを感じさせます。 主演の綾野剛はまさにハマリ役。
I:私も好きですね。設定やストーリーには既視感ありまくりだけれど、勧善懲悪ものはやっぱりスカッとさせてくれる。綾野剛は、ドラマによって素敵に見えたり見えなかったりする俳優。でも、今回は素敵さがマックスのケースです。
Y:オリジナル脚本で、放送とあわせてYouTubeに映像を公開するなど、メディア展開の工夫が見られる点も面白いです。特別な捜査機関で属性が多様なメンバーがチームを編成している、という構成自体は珍しいものではないけれど、この作品らしさがどのような部分で出てくるのか、継続して見ていきたいです。
謎をちりばめ…
人生をちりばめ…
N:金曜ドラマ「最愛」(TBSテレビ系)は、ネット上では「Nのために」を思い出すと言われていますが、それもそのはず。「Nのために」スタッフが作っているんですよね。サスペンスでもありますが、タイトルが「最愛」で、主題歌が宇多田ヒカルというだけあって、ラブストーリーでもあるんだなと第3話まで見て実感しました。
Y:「最愛」もオリジナル脚本のサスペンスで、事件・恋愛・家族・ビジネスなどさまざまな要素が絡み合いながら謎が多く散りばめられたストーリーは、海外販売やリメイクなども見据えた作りになっているようにも見えますね。登場人物によるナレーションが毎回交代し、視点を変えて見られる点も興味深いです。序盤数話の時点で今後の展開が気になるポイントがいくつもあり、「続きが見たい!」という視聴者をどのくらい掴んでいくか、注目したいと思います。
H:吉高由里子の演技も話題になっていますよね。
N:ドラマ24「スナック キズツキ」(テレビ東京系)は、原田知世がママを演じる、アルコールを出さないスナックの話。そこに来る人は、みんな傷ついているんだけれど、実は人にちょっと迷惑もかけたりしていて、一話一話が連鎖しているのも面白いです。人に迷惑かけている人が出てくるということで、ああ、誰でもそうやって迷惑かけたり、かけられたりしながら生きてるんだなと実感して、なぜかホッとするところがあります。
Y:各回多様な登場人物が少しずつ接点を持ち、それぞれがスナック「キズツキ」を訪れる。ありそうでなさそうな設定だけれど、ひとの人生って案外こんな風に交差しているのかも?と思わせるような物語の構成を面白く見ています。原田知世の醸し出す独特の雰囲気と弾き語りを毎回味わえるのも楽しみです。
判で押した?ツッコミ
判では押せない?続編
T:キー局ドラマでその他の注目作はどうでしょうか。
S:「SUPER RICH」(フジテレビ系)は、街を闊歩する江口のりこを見ているだけで爽快な気分になります。オープニング、エンディングがなくスタッフのクレジットも終わり数秒、という斬新な構成ながら、物語の核にはオーソドックスな情と信念が据えてあって、毎回グッときています。義理人情に厚い姐御肌の社長を筆頭に、どん底集団がどんな逆転劇を見せてくれるか。ドライな価値観を持つ若手社員はどう成長していくのか。毎週が楽しみです。
I:火曜ドラマ「婚姻届に判を捺しただけですが」(TBSテレビ系)は、兄嫁に寄せる恋心を隠すために偽装結婚を望む男性・柊(坂口健太郎)と、偽装結婚を受け入れる代わりにお金を貸してもらった女性・明葉(清野菜名)が繰り広げるラブコメ。悪くはないんだけれど、ディテールが時々雑。「柊が何台もの目覚まし時計が鳴っても起きられず、明葉が迷惑している」という問題の解決策が「明葉が柊を声で起こす」なんて、全然解決になってないじゃない!と思わず突っ込みたくなる。
H:坂口健太郎は朝ドラ「おかえりモネ」でのヒロインの相手役(菅波先生)でトレンド入りするなど、人気が高い。朝ドラが最終回を迎え、菅波ロスの流れで視聴している層もいそうですね。
S:「顔だけ先生」(フジテレビ系)は、高校を舞台に、どこまでも自然体な非常勤教師の「顔だけ」こと遠藤(神尾楓珠)と学年主任の亀高(貫地谷しほり)が、いがみ合いながらも問題を解決していく学園コメディ。とかく型破り教師が出てくると既存の価値観を否定する展開に陥りがちですが、このドラマはどちらも肯定して描いているところが心地よいです。生徒に寄り添う亀高の行為も、無責任に思える遠藤の言葉も、やがては生徒の気づきにつながっていくという展開に感動しています。一方で、貫地谷しほりのコメディエンヌっぷりが最高。激務にやさぐれる亀高の豊かな表情と絶妙なセリフ回しに、爆笑しながら共感しています。
T:同じフジテレビの月9「ラジエーションハウスⅡ~放射線科の診断レポート」(フジテレビ系)は続編。放射線技師という医療ドラマの変化球は、コミカルな描写とのバランスも絶妙で、今回も面白く見ることができています。
H:第1話は前回のおさらいを踏まえて、再びチームが集結していくのをスピーディに描いていましたね。テイストは変えず、でも確実に成長している登場人物たちが描かれていて、安心できます。新メンバーの八嶋智人もパワーアップの重要な要素の一つですよね。
T:続編で注目は木曜ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)。コロナ禍を意識したところが少し新鮮だけれど、今回も「水戸黄門」のように安心して楽しめる。初参加の野村萬斎の不気味さも魅力です。
H:一方で、続編には落とし穴もある。ドラマ25「おしゃ家ソムリエおしゃ子!2」(テレビ東京系)は、前回同様にすぐに男性の家に行ってその部屋を査定する女性の物語。前回は絶妙なコミカルさに笑えたけれど、今回はずっと部屋を批判している姿を見るのが少ししんどい(笑)。「ドクターX」もさすがに少しネタ切れ感があり、続編の難しさを感じています。
ならではの力技
ならではの大げさ
T:そのほか、取り上げたい作品があればお願いします。
S:三世代の男所帯を描く金曜ナイトドラマ「和田家の男たち」(テレビ朝日系)。初回、傲慢で肉食な祖父(段田安則)の時代錯誤感にやや引いたのですが、見続けるうちに、てんでバラバラな和田家の男たちのかわいげが窺えてきます。新聞からテレビを経てネットニュースに至るマスコミ史を、家族の個人史に落とし込む力業は、大石静の脚本ならでは。物語の端々に、コロナ禍で変わってしまった世の中に物申す気概が見え、喝采しています。ワケあり家族の食卓シーンがさほど殺伐としていないのは、演出の深川栄洋によるところが大きいと思います。
T:私も短めにいくつか。日曜劇場「日本沈没」(TBSテレビ系)は、小松左京の原作を現代風にアレンジしていてリアリティがあり、日曜劇場ならではの大げさな演技ともうまくマッチしています。特に松山ケンイチと杏がいい味を出している。オシドラサタデー「消えた初恋」(テレビ朝日系)は、BL(ボーイズラブ)ドラマと思いきや最初は全然違っていたけれど、回が進むうちにだんだんあやしい方向に。先が読めない展開と、道枝駿佑と目黒蓮の不器用なイケメンぶりに注目したい。「キン肉マン THE LOST LEGEND」(WOWOW)は「アバランチ」の綾野剛が実名で登場するドキュメンタリー風ドラマ。フィクションだとわかっていてもリアリティがあって、どんどん引き込まれていきます。初回は磯村勇斗の演技が圧巻でした。「サムライカアサン」(日本テレビ系)は、城島茂のオカンぶりが一見うざったく感じるけれど結構笑えて、そして泣ける。息子との漫才のようなかけ合いも面白い。今後どのようなエピソードが登場するか楽しみです。
I:ドラマプレミア23「じゃない方の彼女」(テレビ東京系)は、今の段階ではあまり惹かれないんですよね……。魔性の女子大生(乃木坂46・山下美月)が、真面目だがパッとしない准教授(濱田岳)に積極的にアプローチしていくけれど、なぜ彼女が恋心を抱いたのか、というのがまったくわからないので、現実味のなさに興ざめしているのだと思います。
T:内容面ではないけれど、「サムライカアサン」「東京放置食堂」「消えた初恋」をはじめとして、深夜帯のドラマのほとんどが、ネット視聴を意識した作りなのか30分の番組になっています。個人的には夜寝る前にタブレットで見るにはちょうどいい長さに感じます。
S:これも内容にぜんぜん関係ないですが、「優」っていう役名、多いですね。気づいただけで「SUPER RICH」も「和田家」も「最愛」も。守ってあげるべき役どころというのも共通しているような。偶然なのでしょうが、時代に優しさを求めたい、という作り手の思いを感じました。
T:こんなところでしょうか。今回は多くの作品が挙がりましたが、総括の回まで、各ドラマがどう展開していくのか、楽しみにしましょう。
(2021年10月29日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています