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【座談会】2020年春ドラマを語る!

放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第6弾

新型コロナウイルス感染拡大の影響で
春ドラマの延期が相次ぎましたが、7月に入り新ドラマも続々スタート。
注目の春ドラマを、マイベストTV賞プロジェクトメンバーが語ります!

ピカイチの注目度
横綱相撲だ「半沢直樹」

T:春ドラマですが、4月スタート予定のドラマは、新型コロナの影響でドラマも延期や中断を余儀なくされました。特別編や過去作の再放送などで各局が対応しましたが、7月に入りようやく新ドラマもスタートしたので語っていきましょう。今回の注目度ナンバーワンは、なんといっても「半沢直樹」(TBSテレビ系)ですね。
I:満を持して感が強すぎて、逆に見るのをためらったけど、やはり横綱相撲の趣で、見始めたら離さない緊張感があった。土下座と倍返しのビジネス合戦は、もはや伝統芸の域。圧の強い演技が毎週楽しみ。
O:役者の芝居が全部クサい! これは形を変えた時代劇だと改めて納得。
T:緊張感ある物語なのに、なぜか肩の力を抜いて楽しめる。完成されたフォーマット故のことだと思うが、「水戸黄門」に通じる安心感がある。
K:一方でそれが、第1シリーズが“作りたい放題”だったように見えるのとは違い、どこかで計算が働いている印象を受けた。これが吉と出るか凶と出るか。
H:さらに豪華になった俳優陣も個性派ぞろい。延期も期待値を上げるいい準備期間だったと考えると、世帯視聴率20%超えのスタートも納得。やっぱり頭一つ抜けた完成度に思えましたよね。
M:俳優陣は歌舞伎役者が多いせいもあって、顔に“悪役です”と書かれた人の迫力が半端ない。ちょっと辟易するぐらい(笑)。そして“絶対面白くなる”と思えるのがこの作品の力。
T:同じく「MIU404」(TBSテレビ系)も放送開始が延期になった。
N:個人的に今期のナンバーワン。男性2人のバディ(相棒)ものかと思いきや、女性のキャラクターや、毎回の事件の当事者のことも、丁寧に描いている。
Y:「逃げるは恥だが役に立つ」「コウノドリ」といった主演2人の印象が強い過去作に、イメージが引きずられることはないかとやや気になっていたが杞憂だった。2人のキャラクターの絶妙な緩急のバランスを軸として、貧困や外国人労働など社会的な問題点を反映した設定に、鋭く本質を突くようなセリフが散りばめられ、毎話非常に見応えがある作品になっている。
M:私も人気俳優のバディもののエンタメかと思っていたけれど、思いがけず骨太。現代日本の暗部をベースにしたストーリーに、制作者の意気込みを感じる。特に美村里江がゲストの回の演出が秀逸だった。
O:個人的には綾野剛が“走るのだけは早かった”という愛嬌のある刑事役を楽しそうに演じているのがいい。古傷を抱える陰のある相棒・星野源とのかけ合いも見どころで、事件の初っ端24時間だけの捜査という部署の性格上、事件自体の深みには期待できないぶん、カタルシスは人間ドラマの出来次第ということになりそう。
Y:作中に「アンナチュラル」の登場人物が出てくるといった仕掛けも興味深く、視聴者が継続的にドラマを見る面白さを再認識できるきっかけにもなりそう。
I:私は展開が早いストーリーと迫力あるアクション、いまどき珍しい派手なカーチェイスと、見どころ満載でついていくのが大変(苦笑)。とにかく密度が濃すぎて、物語に余白がないところが苦手。もうちょっと見る側に想像させる余地があってもいいんじゃないかな?

13年後の「ハケンの品格」
いまをどう描く?

T:「半沢直樹」と同様にシーズン2の「ハケンの品格」(日本テレビ系)はどうでしょうか。
Y:前作から13年も経ったことに単純に驚くと同時に、労働環境を取り巻く制度的な課題の議論が、ほぼ前進していない点について改めて考えさせられる。
T:たしかに、主要なキャストもそのままで楽しいコメディになっているが、13年経っても社員と派遣の格差も変わらないというのは、なかなかリアリティがあって興味深い。ちゃんと物語も続編になっているところもうれしい。
Y:その上で、前作同様“スーパーハケンがズバズバと物を言い問題を解決してスッキリ”という単純な構図ではなく、背景にある論点や解決策が透けて見えるような物語展開を期待したい。
N:第1話の最後で『日本沈没』の本が出てきて、このままだと日本は沈没すると警告を出していたので、ちょっと楽しみだったが、2話以降にそうした目線は少ないのが残念。でも、やっぱり大泉洋と篠原涼子のやりとりは楽しいので、それを楽しみに見ている。
H:個人的には、コロナ禍の現実の派遣さんの方がフィクションの中のハケンさんより厳しい状況に見えてしまって、とにかくタイミングが悪かったと思いますね。なかなか物語に入っていけない…。
Y:気になっているのは、ストーリーも後半に入って“企業におけるAIの導入”にスポットライトが当たっているけど、AI対人間の二項対立という非常に単純な構造にまとめられているように見える点。組織におけるAI導入を現実問題として物語に取り入れるには、もう一歩踏み込んだ状況把握が必要では、という気がする。
I:続編では「BG~身辺警護人」(テレビ朝日系)もスタートが延期された作品。延期の穴埋めとして第1シリーズを全話再放送して、そのまま新作に突入してくれたので、物語の世界観を十分に味わえた。
Y:話数が縮小する中でどのようにドラマが制作され、視聴されたのかというケーススタディとして注目できる作品だと思う。
I:今回は古巣の警備会社を独立した島崎(木村拓哉)と、後を追った高梨(斎藤工)の、反発しながらも深まる相棒としての関係が見ものだったが、全7話と予定より短縮されてしまったのが残念。それでも、いまを反映するドラマづくりが感じられた。立ち退きに抵抗するカレー店の回は、コロナ禍で苦戦する飲食店へのエールのように受け止めた。
Y:ただ、主人公が組織から独立してフリーになったことで、「ボディガード」の役割を軸にした物語展開を期待して見るには個々の案件が前作と比較して小規模になり、“何でも引き受ける探偵”のような印象が強まっているように見える。その点が場当たり的にも感じられた。

リモートをソツなく
ドロドロを半端なく

T:いち早くリモート対応した「家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日系)はどうですか?
I:放送中断の間、過去作再放送で看板を下ろすことなく、しのいだ。これはシリーズものの強みだと思う。リモートドラマをやってのけた回は、奇妙キテレツな三田園(松岡昌宏)のキャラクターにハマっていておもしろかった。
O:リモートタイプの中では、もっとも成功していた一本だと思う。とはいえ、リモートドラマの画面構成には早くもおなかいっぱいで、成功してもここが限界だと確認する結果にもなったように思う。
I:リモートを生かした作品としては「リモートドラマLiving」(NHK)は、等身大に見せかけたパラレルワールドを、夫婦や実のきょうだいに演じさせる。虚実ないまぜの関係から放たれる坂元裕二の形而上なセリフは、現実を忘れさせる心地よさがあった。
T:連続テレビ小説「エール」(NHK)も中断してしまいましたね。
I:物語が途切れることは、見続ける気持ちをそうとう萎えさせるんだな、ということがよくわかった。「エール」は朝から騒がしくて作りも雑だなあ、と思いながらも見ていたけど、収録ストップで6月末に初回からのリピート放送に変わると、なんだか張り合いがなくなってしまった。見る側は日々の暮らしを続けているのに、ドラマの登場人物は足踏み状態。行動が制限される現実との合わせ鏡になっているような気がしてイヤだった。
K:「エール」は制作者が作りたいように作っている印象が強い。実在した人物を取り上げるなかで、見る側がフィクションをしっかりと受け止められるかどうか。その点で評価が大きく分かれるように思う。
T:ここまで登場していないドラマについては?
M:「ギルティ ~この恋は罪ですか?~」(日本テレビ系)は半端ない悪意、訳ありの過去、予想外の裏切り、転落……これでもかというぐらいドロドロの設定なのに、主人公(新川優愛)の強さが清涼感すらもたらしてくれるドラマ。この強さと優しさを最後まで保って欲しいと思いながら見ている。
N:「M 愛すべき人がいて」(テレビ朝日系)もハチャメチャなキャラクターたちばかりで、特に田中みな実の演技に釘付けで、見たくないのに見てしまった。「ギルティ~」もハチャメチャな展開で話題になりたかったと思うが「M~」の陰に隠れてしまって、ちょっとかわいそうだったかな。
H:若い人を中心に話題になった「M~」だけど、賛否が分かれるところですよね。話題性は抜群で色物としてはいいし、濃い演技ってことでは「半沢直樹」も濃いのは同じなんだけど、全然受け手の感覚が違うっていう(笑)。
T:でも、その誇張した演技がくせになるという点では一緒かも(笑)。まさに大映テレビらしい作品。突っ込みどころ満載で、まさにSNS時代の申し子のようなドラマ。しかし、物語と曲が絶妙にシンクロしていて、歌の力、魅力を存分に堪能できた。

NHKとWOWOW
BSで気を吐く

T:地上波以外はどうでしょうか。
N:「大江戸もののけ物語」(NHK BSプレミアム)は「中学聖日記」で華々しくデビューした岡田健史と、若手俳優の中では、独特の存在感の本郷奏多が出演しているのも楽しみだったが、岡田が陽で、本郷が陰というキャラクターで対比が面白い。
T:その通り。いま最も旬な若手俳優である岡田健史にコミカルな演技をさせるNHKに脱帽。「MIU404」とは違う彼の一面が見られるはうれしい。
N:妖怪が登場するときのCGもけっこう凝っていて、アメリカのマーベルの映画みたいな、今風の感覚の映像だった。
T:連続ドラマW「大江戸グレートジャーニー~ザ・お伊勢参り~」(WOWOW)は、お伊勢参りのシステムをちゃんと紹介していて、各地の名物メニューも登場するあたりがなかなか面白い。そして、何といっても「代参犬」なる犬の存在感がすごい。

グッとくるセリフ
グッとくるエンディング

T:そのほか、各自気になった作品があれば。
Y:「私の家政夫ナギサさん」(TBSテレビ系)は、仕事に一生懸命、家事が苦手、母親との関係性といった、見ている側に共感するポイントがあるようなトピックについて、ちょうどよい距離感で穏やかに「グッとくる」セリフを言うナギサさんの存在感が回を重ねるごとに高まっている。テレワークで根をつめて働いてしまったあとにほっと一息、といった時間に視聴するのにちょうど良さそうなドラマで、今クールの視聴者の状況にちょうどフィットしているかもしれない。
N:「アンサング・シンデレラ」(フジテレビ系)は、薬剤師の主人公を石原さとみが演じているが、「アンナチュラル」で、かわいくて愛想がよくて、誰からも愛されるキャラクターを脱皮して、そのことがこの作品でも生きているように思えた。
H:ドラマのエンディングに、映像だけで患者さんたちの“その後”が描かれているのもグッとくるポイント。医師とは違う視点で患者さんを診ている、という薬剤師の気持ちを、あの凝った映像が表しているようにも思う。
K:「警視庁・捜査一課長2020」(テレビ朝日系)は、すっかり「一話完結の時代劇らしさ」が板についた。肩肘張らずに楽しめる意味では、これに勝るものはないと思う。新型コロナで閉塞感が漂ういまにもっとも適している。
I:放送中断ドラマで、唯一追い風が吹いたのは「浦安鉄筋家族」(テレビ東京系)だと思う。制作が止まるなか、撮影に使っていた民家が取り壊される珍事が発生。しかしハイテンションのギャグドラマだけに、むしろ話題提供の好材料になっていた。はたして間取りは変わるのか?放送再開が待ち遠しい(笑)。
O:「探偵・由利麟太郎」(フジテレビ系)は、江戸川乱歩、横溝正史らがかつて創造した古き良き時代の探偵像を、現代にどのように蘇らせてくれるかに注目。主人公を演じる吉川晃司は、端正な風貌で、ロングコート姿で痺れさせてくれる。お話は、これまた大時代的な味わいながら、この手のドラマの味わいが足りていない現状に、貴重な挑戦を見せてくれた。
T:「未満警察 ミッドナイトランナー」(日本テレビ系)にも触れたい。韓国映画のリメイクのバディものだが、中島健人と平野紫耀というジャニーズきってのイケメンふたりが主演。物語は平凡だが、このふたりの凸凹ぶりを見ているだけでも楽しい。
H:「おしゃ家ソムリエおしゃ子!」(テレビ東京系)はおしゃれな家に住む男としか付き合えない女性を矢作穂香がコミカルに演じている。第1話のITベンチャーの若手社長が住む部屋や第2話の全部無印良品の部屋に、これでもかとダメ出しする姿は痛快だった。謎の側近として市原隼人が出演しているが、今後の展開が一番気になるドラマかもしれない。

気がつくとワンクール
各局の試行錯誤は続く

T:さてそんなところでしょうか。やはり中断・延期の影響は大きいと感じますね。
M:ワンクール終わった、という区切りを持てないまま、気づいたら7月になっていた感覚はみんな一緒だと思う。ステイホームと関係があるかどうかわからないが、以前にもまして、地上波とhulu、Netflixとの連携が強まってきた印象がある。
H:緊急事態宣言下のおうち時間は、配信系にずいぶん時間を持って行かれた感がある。ただ、その中での発見としては、名作といわれる過去作の再放送や特別編集版も十分に今の視聴者を惹きつける力があるということ。
I:再放送で全話放送してくれたのは本当にありがたかった。新ドラマが始まったら途中で切られるんじゃないか、とドキドキしながら見た「野ブタ。をプロデュース」は、無事ラストシーンを見届けることができた。
T:この状況下で、各局の試行錯誤は続いていくでしょう。すでに次クールにも影響はありそうですが、その中で生まれてくる作品も楽しみですね。

以上(2020年7月24日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています