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【座談会】2020年冬ドラマまとめ編

放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第4弾

ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、
前回記事「2020年冬ドラマを語る!」で注目作として挙げたドラマを中心に感想を語りました。
2020年冬ドラマを総括します!

最終回まで見たいと思わせた「テセウス」

T:冬ドラマについて振り返ってみましょう。大きく話題を集めたのは、「テセウスの船」「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)の2本でしょうか。
S:「テセウスの船」の隠しテーマは「家族の団結力」だった。ラストで未来の佐野家が崩壊してなくて心からホッとした。困難にめげず家族であり続けようとする佐野家の温かさが印象に残った。
O:ただ、ストーリーとしてはラスト数話は引っ張りすぎたように思う。主演の竹内涼真がいつも裏をかかれておろおろするパターンの連続は食傷気味に感じてしまった。
T:確かに、前半は犯人捜しの面白さがあり、サスペンス感もたっぷりあった。それが後半は「あれ?」と思わせるような展開ばかり。雑な作りが目立ってしまったように思う。犯人の殺意も説得力がなく、タイムスリップの謎も未消化だった。
H:その部分は本当に難しいですよね。序盤の勢い、散りばめられた伏線をどう回収していくか、という点においては、消化不良な部分がありますよね。それに原作とは違ったラストを用意していると事前に言われていた部分もストーリー構築に影響があったように思う。
R:回を追うごとにハードルが上がってしまって、最終回、共犯者は誰なのかという部分に対して、視聴者の期待に応えるのはものすごく難しかったと思う。
K:確かに終盤あたりは、読めない展開が続き過ぎて、犯人に振り回される主人公の心(竹内涼真)が憤る姿に滑稽さすら覚えましたが、個人的には大映テレビの本領が発揮されたドラマに、満足できた。
N:私も毎回、予想外や裏切りの展開があり、楽しめた。特に黒幕のキャスティングには驚かされた。当初危惧していたタイムトラベルものの違和感もある程度は忘れることができた。
K:そして何より、みきおを演じた子役(柴崎楓雅)が役にドはまりしていて、本当に最近の子役には驚かされる。
O:本当にそう思う。子役たちの上手さには感心させられた。犯人のみきおは『オーメン』ダミアンにも張り合いそうな存在感。また、主人公家族の子どもたちが、これまたうまい。セリフが自然で素晴らしかった。
Y:もう一つあげるとすれば、さっきも話に出ていたが漫画原作とは違った設定とエンディングを用意し、視聴者の「続きが気になる」感覚をうまく掴んだ点が興味深い。原作ありきのドラマが数多く制作されるなか、パターンを多様化し、コンテンツの幅を広げるという意味では面白い事例だった。
K:そこは、改めて気がつかされましたね。原作本もあるし、SNS上では憶測が飛び交う時代なんだけど、「続きが気になる!」っていう感覚はやっぱり大事。
R:常に引っ張る仕掛けを作らなくてはならず、すごく挑戦的な作品だったと思う。「最終回まで見ないといけない」という感じになった久しぶりのドラマだった。
K:実際、全10話視聴率が2桁を切っていないあたりにもそれは表れてますよね。ちなみに最終回の視聴率は19.6%(今期最高)。「恋つづ」も15.4%(第2位)で、今期はTBSが強かった!

ラブコメの王道をやりきった「恋つづ」

T:ではそのTBSのもう一つの注目作品「恋はつづくよどこまでも」はどうでしょう。
N:これも視聴率が右肩上がりでしたね。少女漫画が原作だけに、特に佐藤健ファンにはたまらないであろう胸キュンシーンがこれでもかとばかりに。
I:きっと“勇者”が最後まで片思いなんだろうと思っていたら、ずいぶん早い段階でうまくいったんで驚きました。
H:ストーリー展開は早かったですよね。“魔王”ってこんなに早く倒しちゃうの?という。でもそれが良い裏切りになっていた。そして、このドラマは自分にはとにかくむず痒い作品でしたね。「自分はターゲットじゃない」と否が応でも知らされるという(笑)。ただ、「勇者と魔王」というRPGゲームのように例えたラブコメ部分と「生と死」がある病院を舞台にしているというシリアスな場面がいいバランスで描かれていたと思う。
R:佐藤健がやりきった感ありますよね。これでもかというほどふんだんに萌えシーン?を投入していた。勢いに任せてどんどん放り込んだのだろうか。でも、これが好きな人が見るのだから、これでいいんだ!と思える作品だった(笑)。
I:最終回はやりすぎだったかもしれませんが、それでも安心して見られるラブコメは、最後まで素直に楽しめた。
T:ラブコメとしてはここまで極端にやったほうが盛り上がるのかも。残念だったのは、今作ではその同僚に扮した毎熊克哉に注目していたが、何とも個性のない役柄で彼の持ち味がまったく発揮されていなかった。かなりがっかりしてしまった。
H:今回は佐藤健が全て持っていってしまいましたね(笑)。

乱立の医療ドラマそれぞれの結末

T:今期は医療ドラマが多いということを、前回の座談会で話していましたが、どうでしたか?
K:「アライブ」(フジテレビ系)「病室で念仏を唱えないでください」(TBS系)を比較すると、「ねんとな」がクセのある男性ドクター二人だったのに対して、「アライブ」は現実味の強い女性二人を主役にしたドラマで、リアリティを追求していた。なかでも、梶山を演じた木村佳乃が良かった。外科医としての気丈さ、人間としての弱さを見事に演じていて、見るにつれ感情移入できた。がん患者のモデルケースをいろいろ挙げながらがん医療の実態を描いていく、そんな重くなりがちな題材を扱っているものの、全体的に清潔感に溢れていて、画づくりが優しいトーンで、でも緊迫する山場はきちんと立てていて、そんな11話の構成にも好感を持てました。
Y:「アライブ」は全編にわたって、がんとの向き合い方が患者や家族、医療従事者のさまざまな視点から丁寧に描かれた秀作でしたね。有象無象の医療情報がネット上に飛び交うなか、医療関係者監修のもとできちんと制作されたテレビドラマから学ぶことが多くある、という点を改めてありがたく感じた。
I:中盤は医療過誤をめぐってミステリアスなところもあったけど、素晴らしいエンディングだった。実際、がんにかかる人が増えている今、大きな励ましになったと思う。
N:「ねんとな」は僧医という特殊な主人公の漫画原作ドラマ。宗教と医療という極めて興味深いテーマだが、救命救急センターを舞台としたため派手な展開も多く若干の違和感は否めなかった。緩和ケア病棟ではあまりにストレートかもしれないが、別の設定でもチャレンジしてみてもらいたい。
K:途中見るのを中断してしまったが、濱田役のムロツヨシの好演が、視聴を呼び戻してくれた感じ。主人公の松本(伊藤英明)の倫理観や死生観だけでなく、松本と相対する濱田の哲学も示して、命との向き合い方を多面的に描いたところが良かったです。結果的に、ムロツヨシなくしては「ねんとな」は医療ドラマとして引き締まらなかったんじゃないかな。ラスト3回の視聴率は、「7.8→8.5→9.2」と上昇傾向にあったので、おいしい部分を見れた(笑)。
R:他の医療ドラマでは「心の傷を癒すということ」(NHK)は全話を通して伝記的な作品だった。青年期の悩み、人を支える姿勢、自分の最期が見えた時の人間の在り方など、考えさせられることも多く、内容は本当に良かった。ただ、全四話で扱うにはボリュームがありすぎた感じですね。
T:脳外科の症例を描いた「トップナイフ-天才脳外科医の条件-」(日本テレビ系)は、医療ドラマの王道とも言える作りで視聴率はコンスタントに10%以上を稼いでいた。新鮮味はないものの、このジャンルへの根強い人気をうかがわせていた。
N:「病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~」(テレビ東京系)は地方都市の病院が倒産の危機から奇跡の復活を遂げるストーリー。実話をベースにしているだけあって、数ある医療ドラマとは一線を画した、テレビ東京らしい作品。主演の小泉孝太郎は爽やかな好演だが、やや線が細い印象だった。

ダークな映像美で魅了した「ハムラアキラ」

T:朝ドラは「スカーレット」(NHK)が終了しました。
S:物語終盤、離れた家族が一人息子の病をきっかけに再生していく様子を静かに描いていた。普通の暮らしの愛おしさを、なんということのない会話で描く。朝の忙しい時間でもつい手を止めて見入ってしまう、水橋文美江の脚本はさすがでしたね。
N:NHK大阪らしいお笑いたっぷりの週もあるなど、週ごとのテイストに変化があったことも、楽しめた要因のひとつ。ドラマを彩る冬野ユミの音楽は、シーンごとにピアノソロ、バイオリンソロ、ギターソロ、弦楽合奏など多彩な表現で雰囲気を盛り上げた。イッセー尾形のひょうひょうとした演技も味わい深かった。
T:物語は朝ドラとしてはスタンダードでしたけど、主人公の夫役に松下洸平を抜てきしたのはファインプレーでしたね! その他のドラマはどうでしょうか。
S:1月下旬に始まった「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」(NHK)が最高だった。ダークな映像美で創り出される世界観に毎回、時を忘れてうっとりさせてもらえた。淡々と真実に近づく過程がクールでかっこいい。ツキに見放されてもボコボコにされても自分の意志を貫くハムラ。心身ともにハードな役柄を見事に体現したシシド・カフカが素晴らしかった。
O:その通り!主演のシシド・カフカが、とにかく格好よかった! 甘めの女性が多いテレビドラマのなかで、俄然クール。そのスタイリッシュな映像に痺れた。これは日本版「SHERLOCK」(BBC)といえるのでは。第1話で描かれた姉との関係性とその結末は、見る者の心に深く深く、鉛のように沈んだ。今期、いや今年度ナンバーワンのクオリティ。ただ、2話、3話、4話と巧みなストーリーでスマッシュヒットが続いたが、後半5~7話を費やした「黒いウサギ」は少し冗漫だったかな。
S:続編を待望。家出少女上がりのアケミの物語を、期待したい!

注目作、話題作の悲喜こもごも

T:「絶メシロード」(テレビ東京系)の主人公は仕事からも、家庭からも逃れ、自分だけのささやかな週末を楽しむひとりの中年男性。生活に疲れた男が、“絶滅してしまうかもしれない、絶品グルメ”を味わうときだけは、少年のように実に生き生きとしている。世の中年男性の縮図を見事に描いたドラマ。主演の濱津隆之がこの主人公にぴったりとハマッていた。
I:「知らなくていいコト」(日本テレビ系)は、週刊誌の編集部内のやりとりに臨場感があって素晴らしかった。芸能スキャンダルの取材にも矜持があることを、佐々木蔵之介演じる編集長がカッコよく見せてくれた。
S:3作品をまとめて。まず、「科捜研の女」(テレビ朝日系)は、豪華ゲストと新レギュラーを散りばめたシリーズ構成で1年を引っ張った。ラストの2時間スペシャルは過去の事件を最新科学で解き直す王道のストーリーで、見どころ満載のフィナーレだった。祭りが終わった感じでさみしい。「ケイジとケンジ」(テレビ朝日系)は「HERO」の福田靖が脚本の、軽くて楽しいドラマだった。刑事側、検事側ともユニークな人物造形で、エンターテインメントとして面白かった。ただ、スキャンダルの影響をもろかぶりしていたのがもったいなかったのと、本当は「HERO」スピンオフでやりたかったのかな、と邪推も。「10の秘密」(フジテレビ系)は壮大な夫婦ゲンカ。夫婦が同じく抱えていたはずの秘密が、実はそれぞれ別のものだった。互いに違う方向を見ていたことに気づかない夫婦の悲劇は、誰にも身近に起こりうるのかな、と思いましたね。
H:個人的に注目作品に挙げていた「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(日本テレビ系)は、ヒーローヒロインものとして気楽に見ていたのだけど、後半はミステリー要素が強くて、なかなか大変だった(笑)。そして、オチも「まあ、そうだろうな」というところで尻すぼみ感があった。やっぱり、ヒーロー・ヒロインドラマを貫いてほしかったというのが本音ですね。その上で、山口紗弥加さんはすごい女優だと改めて認識させられた。難しい役どころで、清野菜名との対峙するシーンは圧巻だった。
T:最後に「コタキ兄弟の四苦八苦」(テレビ東京系)を挙げたい。これは静かな感動を呼ぶ名作。「自由とは心もとない」。兄がつぶやくこのさり気ないセリフに代表されるように、人生の切なさ、わびしさ、そして喜びを、ユーモアとペーソスで描いた心に染み入るドラマ。LGBTもテーマにするなど、今日性も見逃せない。物語は意外な展開を見せるが、それも違和感なく、むしろ人と人の絆をさりげなく見せた脚本の見事さが光っていた。
H:4月は新型コロナウイルスの感染拡大で家にいる時間が長くなりそう。こんなときだからこそ、ドラマの力に期待したいですね!

以上(2020年3月27日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています