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【座談会】2020年秋ドラマを語る!

放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第7弾

コロナ禍のなか、各局順次秋ドラマがスタート。
今回もマイベストTV賞プロジェクトメンバーが、注目の秋ドラマを語ります!

等身大のBL系登場

T:少しずつ落ち着きつつありますが、ようやく秋ドラマがスタートしました。スタート時期のばらつきはありますが、語っていきましょう。
N:注目作では木ドラ25「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレビ東京系)を挙げたい。深夜のBL(ボーイズラブ)ドラマで、タイトルの通り、30歳まで童貞だった主人公の安達(赤楚衛二)が、誕生日に触れた人の心が読めるようになるところから始まる。これまでのBLドラマと違うのは、主人公安達を思う同期の黒沢(町田啓太)が、絶対に強引なことはせず、安達の気持ちを第一に考えているところ。丁寧に両者の心理を追っていく姿が信頼できる。
T:これまでのBL系のドラマは同性愛をコミカルに描くか、濃厚なラブシーンを売りにするかだったが、これは等身大に扱われている点に好感が持てる。それでいて胸キュンシーンもあり、娯楽作としても楽しめる。
N:タイや台湾、中国、韓国など海外からの注目も集まっている。
H:テレビ東京では「共演NG」も面白い。
Y:絶妙な配役と、物語と現実が交差するような構造のストーリー自体を存分に楽しめるのはもちろん、番組制作体制や情報の取り上げられ方など、自戒も皮肉も込めた表現で「テレビの今」を切り取っているところが秀逸だと思う。
N:秋元康、大根仁が関わると聞くと、それだけで話題性があるが、この作品は、テレビ業界、ドラマ業界にある、さまざまな問題点をコミカルに描き出すことで、正常なドラマ業界になることを目指したいという気持ちがあるんじゃないかな。
I:ドラマのアイデアもさることながら、スポンサーまでもコンセプトに巻き込んでいるところは、脱帽。さすが秋元康といったところですかね。
H:視聴者も、噂で聞く共演NGを想像しながらみることができて面白いんですよね。ドラマの中の俳優にももちろん本音と建前があって、メディアに出る時には仲良くみせるけど、裏に行ったら…という部分が共演NGあるあるなのかな?と、みていて飽きないし、演じている俳優陣の力が存分に発揮されている感じですね。

安心・安定「科捜研の女」

T:テレ朝では、満を持して「24 JAPAN」がスタートしました。
K:なんといっても唐沢寿明。過去の作品とキャラが被ろうがお構いなし。来るものは拒まず引き受けているのでは?と思わせる貪欲さ。今後、内藤剛志の跡目を継ぐのは彼しかいないと、ひそかに期待している。
H:一方で、豪華すぎる俳優陣も、なぜ今?という疑問もある。「24」が話題になったのは15年も前だし、本作は設定も日本に置き換えているから、どうしてもスケールが小さくなっているのは否めない。どうしてもやりたかった、という気概はわかるが……。
S:同じテレ朝では、この春まで1年通しで放送した木曜ミステリー「科捜研の女」(テレビ朝日系)が早くも新シーズンに。長寿シリーズはおなじみの登場人物が出てきただけで安心できる。安眠まくら、激辛唐辛子、スキル売買サイトなど、とっぴなモチーフを1時間の謎解きドラマに落とし込む手腕は今期も健在だった。
K:私は反対に感じたかな。カメラワークか、大仰になった展開か、原因は分からないが、急に雰囲気が変わったように思えて……。長寿番組のはずなのに、安定感より試行錯誤が前面に出ているような点が気になった。
N:「#リモラブ ~普通の恋は邪道~」(日本テレビ系)は、コロナ禍の恋愛を描く意欲作。とはいえ、最初のうちは、ヒロインのキャラクターに乗り切れないところもあった。
H:私はその最初で離脱してしまいました(笑)。
N:でも、回を追うごとにストーリーに引き込まれていった。恋愛ものというと、一目ぼれとか、見た目で理由もなく惹かれた、というものなども多いが、LINEのコミュニケーションを通して好意を感じ、その相手が同僚であったということで、別のドキドキがあるというのも新鮮。
H:そこの感じ方ですよね、ゲーム内で出会った人が実は同僚だったという部分が、ラブストーリーの入口として受け入れられるかどうかで評価が分かれるのかもしれない。個人的には既視感もあって、ちょっとしんどかったかなぁ。脚本の水橋文美江さんには期待していただけに、残念だった。

「朝顔」のメッセージ性

T:今まで挙がっていないフジテレビのドラマはいかがでしょうか。
I:「監察医 朝顔」は毎回完結のストーリーも十分に楽しめる。底流には今も終わらない東日本大震災の被災者への想いがあることを評価したい。
T:医療を扱いながらもホームドラマとしても楽しめるし、続編の今回も安心してみられる。
I:震災からまもなく10年。コロナ禍一色となった日本に「忘れてはいけない」というメッセージを静かに放っている点も評価できると思う。
H:火9ドラマ「姉ちゃんの恋人」は岡田惠和が脚本。まだ序盤だが、各所に伏線が作られていて、今は微笑ましいシーンも、どこか視聴者に不安を持たせているのがこのドラマを引っ張る要素。
I:優しさが通奏低音のように流れているのは岡田惠和の特色とも言える。登場人物みんなに幸せになってほしいと、視聴者も優しくなれる作品。
H:そう。幸せを願いたくなるのは、主演の有村架純と林遣都が持つ悲哀こそですね。立っているだけで、何か切ない(笑)。今後、タイトルの意味も含めて、見応えがある内容を期待したい。

BSからNHKから意欲作

T:今回は地上波以外のドラマも良作が多い。
S:「殺意の道程」(WOWOW)は、いかにもサスペンスなタイトルながら、脚本をバカリズムが手がけている時点で一筋縄ではいかない。父の敵に復讐を誓う息子とそのいとこ。重々しい決意もそこそこに、まずは計画を立てなきゃ、とスマホ片手に「木曜夜、空いてる?」と打ち合わせ日程を詰める。なんですかこれは。仇討ち、殺人というダークな企みが、うっかり日常にこぼれる様子に大爆笑してしまった。ねじれた視点で日常を見る妙味が当分楽しめそう。
N:その通り。タイトルを聞くと、井浦新とバカリズムが復讐をする話だと思うが、自殺で亡くなった父親の復讐を計画するも、ぜんぜん復讐を計画しているとは思えない緊張感のなさが意外性があり笑える。これからの話で復讐が実行されるのか、それともこのままほとんど遂行されないのかも気になる。
Y:連続ドラマ「カレーの唄。」(BS12)は、番組の配信サービスが乱立する中、ひかりTV・dTVで配信+BS12での放送の独自の方式を取っている点が特徴的。チャンネルを限ることでどのような効果があったかが気になるところである。オリジナル脚本、かつドラマ起点でコミカライズを行うという試みも注目される。
O:面白い取り組みでは、「光秀のスマホ」(NHK)もコロナ禍のドラマとして秀逸だった。画面にはスマホがフィックスで陣取り、そこに映るのはSNSやニュースのテキストやアイコン、絵文字のみ。光秀本人すら出て来ないという徹底ぶりで、ここにはドラマ撮影につきものの「密」は存在しない。さらに制作費も抑えられて、これは発明かも(笑)。ストーリー的にも、困った時の解決策をSiri(シリ)に聞くところなど爆笑もの。ついには信長を討つことになる光秀の心理が、SNS上のやり取りだけで十分伝わってしまうのがすごい。5分×6話という短編なのに、1年をかけて綴る大河ドラマより光秀の胸中がビシビシ伝わってきた。

洗練・妄想・波乱

T:他に触れたい作品があれば、どうぞ。個人的には柴咲コウが久しぶりに主演を務めている「35歳の少女」(日本テレビ系)に触れたい。設定は特殊だが、大人になると言えないことや我慢することに、直球で向かっていく主人公の姿が気持ちいい。そのセリフも遊川和彦脚本らしく、力強く、そして洗練されている。母親役の鈴木保奈美の不気味さもいい。
Y:ミニドラマ「ざんねんないきもの事典」(テレビ東京系)は子どもに人気の本を元ネタに、人間模様と動物の習性を絡めてコンパクトにゆるくエピソード化する作りで、ちょっとした息抜きにちょうどいい。前クールの「きょうの猫村さん」に続いて、原作を選ぶ目の付けどころが独特で、かつ意外な方向から実写ミニドラマにする発想が面白い。
T:ドラマ24「あのコの夢を見たんです。」(テレビ東京系)は南海キャンディーズ・山里亮太が実在のアイドルたちからイメージを膨らませて創作した短編小説集をドラマ化。毎回、旬な女優が登場し、彼女たちの笑顔に癒される。何よりも妄想の世界が映像になったこと自体、とても楽しい。
H:女優だけでなく、制作側も新進気鋭の若手を起用するなど、挑戦的。さすがテレ東というか、大作?の「共演NG」も含めて、深夜枠での挑戦も常にし続けていて、今期の存在感がすごい。
T:その他はどうでしょうか。
S:「科捜研」の続きでなんとなく見始めた木曜ドラマ「七人の秘書」(テレビ朝日系)は意外とツボにはまった。しいたげられる女性を助け、理不尽な権力に鉄槌を下す。ありきたりながらもスカッとさせられた。
I:「半沢直樹」(TBSテレビ系)ロスの人にピッタリ(笑)。起用した女優も一人ひとりが光っている。
S:スタイリッシュな菜々緒の立ち居振る舞いと、可愛いのにクセ者感がそこはかとなく漂う大島優子に注目している。秘書たちの因縁が大物代議士との闘いにシフトしていくのか、波乱を期待している。

いま求められるもの

T:こんなところでしょうか。
S:脚本、演出、キャストとすべて大掛かりだった前クールの「半沢直樹」。その反動なのか、気楽に見られるドラマを無意識に求めてしまうんですよね。
H:コロナ禍も含め、地震や台風など、日本ではこの10年近くずっとうっすらとした不安が人の心にあり続けている。そんななかで、ドラマの中だけでも安心して思い通りになって欲しい、という願いのようなものを感じる。だからこそ、「半沢直樹」が求められたし、逆に変に凝った設定はこの時期しんどいのかもしれません……。
T:そのなかで放送局の姿勢も問われている。テレビ東京が挑戦する一方で、フジテレビはというと、「ルパンの娘」は遊び心満載で、笑いがパワーアップしているものの、「SUITS/スーツ2」のように、安易に続編にはしるのはいかがなものでしょうね。

以上(2020年11月13日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています