文=葵 燈子
東海テレビ開局60周年記念エリアドラマ
「ただいま大須商店街」
放送は2019年の1月2日と少し時間が経過したドラマにはなりますが、もうすぐ2年が経とうとしている今も、胸に残り、時に折れそうになる心をしっかりと支えてくれているこのドラマの存在をたくさんの方に知って頂きたいと思い、寄稿致しました。
ドラマのエピソードのひとつでもありますが、名古屋の放送局である東海テレビは、特にここ数年、「魅力のない街」と言われることを憂い、数々の地元が誇る人やモノ、伝承や歴史を、丁寧に紡ぎ、届け続けている印象があります。そんな想いが大切に継がれる中、満を持して、この『ただいま大須商店街』というドラマは誕生しました。開局60周年。人間であれば還暦に当たる大きな節目の年に、名古屋、いえ、今や日本が誇る商店街となった大須を舞台に制作されたこのドラマは、その多様性と歴史ゆえに、古き価値観と新しい価値観がせめぎ合い、ここから先の未来をどう作り上げるのかという問題に直面した街の姿と、そこに住む人たちの思いをリアルに描き出しました。綺麗事だけでは済まされない。流行り廃りのスピードが増々加速する時代の中で”もう飽きた”と思われたらすぐに街の灯は消えてしまう。ですがこのドラマはその問題をどう解決するかに焦点を当てず、常に辛い現実や問題が押し寄せる人生に立ち向かい続ける強さを持つことの大切さを私たちに問いかけました。
物語は、100年以上続く、老舗和菓子屋『まつだや』の一人娘・久美子が、彼女が高校生の時に他界した母親の死と、その母の死に際にも駆けつけず、饅頭を作り続けた父を受け入れられず、街を出て行き、27年ぶりに帰って来るところから始まります。その久美子の横には9歳になる息子の優太がいて、彼もまた、両親の離婚により、深く深く傷ついていました。隠れるようにうつむいていた2人が、様々な人と触れ合って、この街で暮らしていくうちに、だんだんと顔を上げていく。真っ直ぐに、この街を、この街の人たちを見つめる中で、この街の本当の輝きを知るのです。そしてその、輝きを描いた優太の一枚の絵が、やがてこの街を救う原動力となります。彼の絵はとてもシンプルで美しい。同じように、登場人物たちのセリフも本当に真っ直ぐで、とても力強いのです。それは、曖昧さの中に悪意や甘えが込められた言葉がたくさん飛び交う現代社会に一石を投じた作品だとも言えます。
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