文=永 麻理
あくまでも “ 料理マンガ “ のつもりだったと言うよしながふみさんの原作が、安達奈緒子さんの脚本によってジンワリと心に沁みる ” ヒューマン・ドラマ “ となり、それを二人の演技巧者が体現してみせることでこの上なく心地好い “ ラブ・ストーリー “ として立ち現れたのが、この「きのう何食べた?」である。
料理の手順をきちんと見せる演出や食事のシーンを大切にして、いわゆる「飯テロ」要素もおさえてはいるが、決してそれだけではない広がりと深みがこのドラマにはある。
原作マンガのエピソードの組み合わせ方の妙と、そこから紡ぎ出す人間の想いや人生の繊細な機微を描いたストーリー展開、ドラマ用に新たに加えられた奥深いセリフの数々はときに涙を誘うほどの感動を生み出した。これは安達奈緒子さんの見事な手腕によるものだ。
昨年の連続ドラマではその安達さんが「12話で最良の形になるように力を尽くした」と語る通り、まさに美しく完成された12話の物語だった。何か大事件が起きるわけでもない日常をあの2人と共に過ごしたかのように感じられた1クールの後はいわゆる「何食べロス」に陥るけれど、彼らは今日もあの街であの部屋で泣いたり笑ったりしながら食卓を囲み、ささやかだけれど幸せな日々を送っているのだろうなと思わせる余韻が残った。そして熱心なファンの要望に応えて今年元旦に「きのう何食べた?正月スペシャル2020」で帰ってくると、この作品ならではの魅力を倍増させて期待をさらに上回る味わい深いドラマとなっていた。
もちろん、西島秀俊さんと内野聖陽さん演じるカップル、シロさんとケンジがこの上なくチャーミングであることは言うまでもない。この文句なしに実力のある2人の役者の新境地とも言える役柄を目撃できる楽しみと同時に、彼らが造形する愛すべきキャラクターによってこの作品世界に惹き込まれた私たちはいつしか深い思い入れを持って彼らの生活をいつまでも見ていたくなるのだ。
ここではシロさんとケンジがミドルエイジであることも大きな要素である。ドラマの中で細かく描かれることはないが、2人の生きてきた道が彼らの向こうに見えて、その上で今お互いを想い合う姿がある。このドラマに「ゲイ・カップルの」という枕詞はもういらない。ごく自然にそう思わせてくれるところも、このドラマの特筆すべき点であろう。
作品の真ん中にある “ 料理 “は生活そのものであり、日々の食事を共にすることは一緒に生きてゆくことに繋がる。彼らをいつまでも見ていたくなるのは、この作品が日々を生きる私たちに、人が人を想う姿のいとおしさと、「ただいま」「おかえり」「いただきます」にまつわるどこか懐かしい人間の根源的な幸福感を思い出させてくれるからなのだ。
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