オリジナルコンテンツ

【ギャラクシー賞テレビ部門12月度月間賞】-「GALAC」2024年3月号

テレビにしかできない視聴者参加の名企画

新しいカギ「学校かくれんぼ! 1年間の激闘を総ざらいSP」
12月2日放送/19:00~21:00/フジテレビジョン

2021年に番組開始した「新しいカギ」内の名物企画「学校かくれんぼ」。お笑い芸人のチョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)、霜降り明星(せいや、粗品)、ハナコ(菊田竜大、秋山寛貴、岡部大)が、ホームページで募集した中学校・高校に出向き、校舎内に隠れ、全校生徒が彼らを必死に見つけ出す。出演者や制作者、美術スタッフだけでなく、学校の生徒たちが楽しそうに探しているのがとても印象的だ。1年間で計12校、1万5000人もの生徒と対決してきた。
興味深いのは、放送を重ねるごとに、生徒もオンエアを見て学習していることだ。どういう場所に隠れやすいか、事前に番組の手の内を探っている。そのため番組側は、新しい切り口で、精巧な隠れ場所を作らなければならない。本物そっくりな壁や棚だけでなく、ピアノ、切り株、ダクトを作り、芸人たちを隠していく。よく作りこんだと思ったら一瞬で見つかったり、逆に難しくしすぎたら生徒たちが可哀想。前回の反省を生かしつつ、楽しそうに作戦会議する様子が伝わってくる。この作りこみがあるからこそ、ハナコ秋山が生徒に扮して、逆に隠れない回は笑いを誘う。
同時に、「芸能人」の存在の大きさを改めて思い知る企画だ。娯楽が多様化したとはいえ、多くの生徒に人気の芸能人が自分たちの学校に来るというワクワク感。しかも、自分たちが見知った校舎のどこかに隠れているというドキドキ感。「松尾、どこだ!」「粗品、会いたい」と走りながら探す生徒たちを見ると、芸能人の大きさを再確認する。途中で見つかってしまったメンバーは、スマホで「写真撮られ放題」という辱めを受けるのも、現代的で微笑ましい。
かくれんぼ以外にも、メンバーが学校の先生たちと漫才する企画もあり、新しい視聴者参加番組の形を作ったと言える。同じような企画を仮にYouTuberがやったとしても、どこか違和感を覚えるだろう。やはり、テレビと芸能人だからこそ、安心して楽しめる番組である。映像が溢れる昨今、テレビならではの企画力、美術力、技術力を評価したい。(松山秀明)

巧みなキャスティングと物語世界

夜ドラ「ミワさんなりすます」
10月16日~12月7日放送/22:45~23:00/日本放送協会

現在も連載中の漫画原作を、連続ドラマ化した作品。映画マニアのフリーター、29歳の久保田ミワ(松本穂香)は敬愛する世界的俳優・八海崇(堤真一)の家政婦募集を知り、好奇心から様子をうかがいに行った八海邸の前で、採用された美羽さくら(恒松祐里)の交通事故に遭遇。八海のマネージャー藤浦(山口紗弥加)は苗字と名前の偶然の一致でミワを美羽と勘違いし、ミワは“なりすまし”家政婦として働くことになる。オタク究極のファンタジーともいえる奇跡的状況に浸り、持ち前の知識で八海の信頼すら得ていくミワだったが、そこに“本物”の美羽が現れる。
実は同じく八海ファンの美羽に逆らえない立場のミワは、奇妙な連帯関係のもとでなりすましを続行。八海にだけはすべてを打ち明けても、八海のミワへの信頼は揺るがない。いずれは皆に発覚すると覚悟しながら、ミワは八海の一方的な宣言による引退騒動を撤回させる役割を任されることになる。
脚本を手がけた徳尾浩司が、代表作「おっさんずラブ」シリーズにも勝る突拍子もない想定の物語世界に没入させる。繰り返される“地下書庫への閉じ込められ事件”、病床にある八海の実母の前での“孫へのなりすまし”など、見る者を楽しませるあの手この手に抜かりがない。先輩家政婦・一駒和枝役の片桐はいり、八海とは気心の知れた女優・越乃彩梅役の高岡早紀らの巧みなキャスティングも光る。ミワの元彼・紀土健太郎役の水間ロンも、本来のモラハラ男をどこか憎めないダメ男キャラで演じてみせる。天真爛漫な若手女優・五十嵐凛役の伊藤万理華の存在感も見逃せず、俳優陣のそれぞれが、今後も胸を張れるタイトルだ。
職を辞して本当の姿に立ち戻ったミワが、八海の新作を映画館で観るラストプレイが印象に残る。『カイロの紫のバラ』『ニュー・シネマ・パラダイス』などのラストで繰り返されたシーンを想わせる、映写が反照する表情をスクリーン側から抜くショット。新作にありえないフィルム映写機の回る懐かしい音を被せたのも、オマージュの粋と受け取りたい。(並木浩一)

『君たちはどう生きるか』に託されたもの

プロフェッショナル 仕事の流儀「ジブリと宮﨑駿の2399日」
12月16日放送/19:30~20:50/日本放送協会

巨匠・宮﨑駿の心の中を覗こうと試みた意欲作。
この番組は、本人と鈴木敏夫の語る宮﨑駿論の形をとっているが、カメラ嫌いと言われる宮﨑のもとに「書生」として20年近く通い続けてきたディレクターの存在があってはじめて成立した作品である。
深夜、不安に襲われた宮﨑が電話を掛けた鈴木のところに居合わせるほどの密着取材の挙げ句、旅行先で無聊を癒やすため自室に招かれるまでに宮﨑と親密な関係を築いたディレクターに敬意を表したい。
彼のカメラの前では素直に心を開く巨匠は、悩みをつぶやき、幻影を追いかけ、老いた姿を隠さない。
“死に取り憑かれた少年” 宮﨑は、高畑勲と出会って救われ、高畑に憧れ、自分にないその高みを目指してここまで走ってきた。そのため、その死を受け入れることができず、制作に行き詰まってしまう。映画『君たちはどう生きるか』で、少年・眞人が青サギとともに大伯父と対峙し、そこから独自の道へと旅立つストーリーの裏には、宮﨑自身が高畑の呪縛を乗り越えようとする姿が仮託されており、番組ではその模索と葛藤の日々が描かれる。「眞人」は宮﨑、「青サギ」が鈴木、そして「大伯父」が高畑だという。筆者はこの番組を見てから映画を観たのだが、難解とも言われるこの映画を素直に楽しむことができた。
この仮説を証明するにあたり、数多くの映画の中にちりばめられてきた宮﨑の心象風景の断片が丹念に集められ、見事な編集で挿入されて、現実の宮﨑と作品の世界がいつの間にか混然一体となっていく。ディレクターが書生として培ってきた脳内のジブリ・アーカイブともいうべき作品の蓄積と、その引用の的確さには舌を巻く。そしてこれがジブリファンにとっては至福のプレゼントにもなった。
映像に生きてきた宮﨑を知るには、映像は不可欠。映像を通してはじめて説得力をもって伝わることは多い。対象に肉薄して描くというドキュメンタリーの原点がベースにあり、的確な映像を駆使することで、大胆で繊細な内容が違和感なく伝わった。(加藤久仁)

令和ならではの理想の家族像

水曜ドラマ「コタツがない家」
10月18日~12月20日放送/22:00~23:00/日本テレビ放送網

まさに令和のホームドラマである。伝説のウェディングプランナーにして会社社長の深堀万里江(小池栄子)は仕事をする女性たちから憧れられる存在だ。しかし家にいるのは、廃業寸前の漫画家で日々グータラ遊んでいる夫の悠作(吉岡秀隆)、アイドルになりたくて挫折し進路を見失った高校生の息子の順基(作間龍斗)、熟年離婚で行き場を失い転がり込んできた気位だけは高い偏屈な父親の達男(小林薫)。3世代にわたる3人3様のダメさ加減に振り回されながら家族を支える万里江の奮闘記……だがそれだけではない。
このダメ男たち、世間の「普通」から外れまくっていることを自覚しつつも、自分なりの言い分を力一杯主張する。当然日々騒動が巻き起こるのだが、このドラマの見どころはスピード感溢れるトークバトルの見事さだ。金子茂樹の秀逸な脚本を小池、吉岡、小林という名優たちが抜群の存在感で血肉化し、丁々発止と展開する。忖度のない言い争いのなかで、最初はイライラする男たちのわがままもダメなりの切実さに見えてくる。そのうちバトルがラップのように心地よく、ダメ男たちの言葉が名言にすら聞こえてくるのだ。
久方ぶりに漫画を描く気になった悠作が、自分が離婚するまでの顛末をネタにしたいから離婚してくれと言い出す。周りの誰からもこれを機に離婚しろと言われるが、万里江は「仕事も家庭も妥協しないかっこいい女性」でいられる自分のエネルギー源が悠作とのバトルだったことに気づく。結局、和室にサウナを持ち込むという達男の暴挙をオチに、悠作の11年半ぶりの漫画『コタツがない家』は完成するが、それは万里江が何よりも待ち望んでいたプレゼントだったのだ。
描かれた深堀家の騒動を読みながら、コタツよりもポカポカする家族喧嘩ができる幸せに涙ぐむ万里江の気持ちにリアリティを感じられたのは、そこに至る伏線の張り方の巧みさだろう。心置きなく本音で明るく喧嘩できる家族……それは、忖度と建前が覆いつくす令和ならではの理想の家族像といえるのかもしれない。(古川柳子)

★「GALAC」2024年3月号掲載