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【ギャラクシー賞テレビ部門3月度月間賞】-「GALAC」2023年6月号

語る言葉を取り戻した被災地の人々

NHKスペシャル
「海辺にあった、町の病院〜震災12年 石巻市雄勝町~」
3月11日放送/22:00~22:50/日本放送協会

この番組は東北の三陸沿岸を大津波が襲った東日本大震災から12年となる3月11日に放送された。
冒頭のシーンで、海岸に接した広場にぽつんと置かれた慰霊碑が映される。石造りの碑には海辺に建っていた3階建ての病院の全景写真が飾られている。そこにあった石巻市立雄勝病院である。
あの日、津波は病院の屋上をはるかに超える高さで建物全体をのみ込み、入院患者40人全員と病院職員28人中24人が犠牲になった。寝たきりの高齢の患者を職員が背負って屋上に避難したが、巨大な津波にひとたまりもなくのみ込まれて亡くなったという。
医師や看護師らも入院患者を残して避難できるわけはなく、病院長、副院長、看護科部長ら幹部以下、多くの職員が患者とともに大津波の犠牲となった。
番組では遺族の気持ちや揺れ動く想いが語られ、また、訪問介護などで病院を留守にしていて、死を免れた人もインタビューに応えている。
亡き人への想いや自らの気持ちを語る遺族の言葉はどれも雄弁で、心の内に秘めてきた思いのたけが素直に伝わってくる。眼に涙をためて語る、亡くなった職員の勇気を誇る言葉もあれば、何とかして病院に駆けつけたかったが、と悔やむ看護師の言葉も聞いた。
非番だったが病院に駆けつけて津波の犠牲になった看護師の娘さんが、母の行動をたたえながら、自分の子どもたちには、津波が来たら逃げる……と諭していると語る。その複雑な心の内の葛藤がよくわかる。
震災後の長い間、誰もが自分の気持ちをこのように冷静に語ることはなかっただろう。あれから12年を経て、「干支」がひと回りしたところで、人々は自らの言葉を取り戻したのではないだろうか。
そして、それは震災の後、遺族の方々との親密な関係を保ちながら、人々が言葉を取り戻す日まで辛抱強く待ち続けたであろう番組取材陣にもいえることだ。12年の歳月がこの番組の取材を可能にしたと思うのである。番組のタイトルに「震災12年」とあるのは、その意味だろうと理解できる。(戸田桂太)

設定も展開もセリフも卓抜したセンス

日曜ドラマ
「ブラッシュアップライフ」
1月8日~3月12日放送/22:30~23:25/日本テレビ放送網

《地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディ》と言われても一体何のことやら?だが、見終わってみれば、まさにキャッチコピー通りのドラマなのだった。
主人公の近藤麻美(安藤サクラ)は実家暮らしで地元の市役所に勤める33歳。家族仲は良く、仕事も淡々とこなし、幼なじみの仲良し3人組で他愛もなく喋ったりカラオケに行ったりするのがささやかな楽しみ、という平凡な日常を過ごしていたが、ある日交通事故で急死する。気づくと死後案内所にいて、受付係(バカリズム)から「新しい生命(=来世)はオオアリクイ」と聞かされ、人間に生まれ変わるべく徳を積むために近藤麻美としての人生をやり直すことに……。
バカリズム脚本は設定も展開も台詞も卓越した笑いのセンスが炸裂、その世界に気持ちよく引き込まれる。人生を何周も繰り返す設定はファンタジックだが、麻美の生活は何周しようと徹底的に細かい日常描写の連なりによって描かれ、随所にちりばめられた小ネタと鋭い視点の《あるある》で見る者の共感と笑いを誘う。
“あーちん”こと麻美と“みーぽん”(木南晴夏)、“なっち”(夏帆)の幼なじみ女子会での会話は、どうでもいいようなことを延々と話しては笑って過ごせる心地よさに満ちている。それもアドリブかと思うくらい素で話しているように見え、一語一句台本通りと聞いて逆に驚くレベルの秀逸な台詞の数々と達者な演技なのだ。このドラマでは、もう一人の親友“まりりん”(水川あさみ)も含め、恋愛や出産・子育てなど、人生で一時的にでも女性を友だちと疎遠にさせうる要素はあえて入れず、シンプルに一生ものの友情の幸福感にフォーカスしていたのも良かった。
メインキャスト以外も演技巧者揃いで、麻美の人生に登場する人々は皆絶妙な実在感を示し、年代ごとのそれぞれの子役たちも見事だった。そしてなんといっても人生何周もする物語ゆえ、異なる人生ごとに各場所・各シーンで何通りも撮影する現場を効率よく混乱なく進めるのは至難の業だったことだろう。制作現場チームにも拍手を送りたい。(永 麻理)

豊かな個性が織りなす多様な人間模様

ドラマ10
「大奥」
1月10日~3月14日放送/22:00~22:45/日本放送協会

正直に言うと、NHKの平日夜にこの男女逆転のドラマを放送すると聞いたときは違和感を覚えた。
江戸幕府三代将軍・徳川家光の時代、赤面疱瘡と呼ばれる奇妙な病が若い男子にのみ感染して男性の人口が激減。男の将軍が死ぬと、以降将軍職は女子へと引き継がれることになった。舞台となる大奥は、貴重な若い男子ばかりを集めた世界である。
大胆な設定にもかかわらず、史実を踏まえた優れた原作を忠実に再現、そのうえに三代将軍・家光(堀田真由)、五代・綱吉(仲里依紗)、八代・吉宗(冨永愛)、九代・家重(三浦透子)などのピタリとはまった配役と緻密に計算された人物像が相まって、豊かな個性が織りなす情愛溢れる世界を作り上げた。
大奥というと、どろどろした男女の世界を思い浮かべるが、有功(福士蒼汰)、右衛門佐(山本耕史)、藤波(片岡愛之助)、杉下(風間俊介)などの多彩な登場人物が、将軍との間に性の通念にとらわれない多様な人間模様を展開していく。
財政再建や感染症対策など「表」の課題と同様に、戦国の世に戻さないためには体制の安定と継続が必要であり、跡継ぎを産む「奥」の勤めが将軍にとって重要だという理屈は、将軍が女性であることで、より自然に受け止められる。のみならず、この物語は設定自体が独創的なため、さまざまな人間関係が生み出され、生き生きと繰り広げられて、その背景にはそれぞれの生き様や覚悟がしっかりと描かれる。この“覚悟”が嫉妬や因習などの壁を乗り越えてお互いを成長させて展開していくところが心地よい。こうした普遍性、現代性が太い背骨として貫かれているため、最初に覚えた違和感などは払拭される。
もっとも、同時代のイギリスやロシアでは女性君主が君臨していたし、現代でも多くの女性指導者が世界各地で活躍している。男性しか罹らない奇病などという奇想天外な設定をしなければ、女性中心の世の中を描くことができない日本社会にこそ違和感を覚えるべきだと、改めて気づかされた。(加藤久仁)

タモリとスタッフ、溢れる知性のなせる業

「タモリ倶楽部」
3月24日、31日放送/24:20~24:50/テレビ朝日

「毎度おなじみ流浪の番組、タモリ倶楽部でございます」。あのタイトルコールをもう聞けない……終了のニュースにショックを受けたという声が私の周囲でも、ネットにも溢れていた。1982年から約40年間、名企画は枚挙に暇がない。タモリのニッチなこだわりだったり、よくぞこういうバカバカしいことを考えつくと感心する企画だったり、日常的に見ているはずなのに気づかぬ世界の探求だったり、毎回何が出てくるか楽しみだった。ニッチやナンセンスを突き詰めた先に展開する思わぬ社会観察は、タモリと制作スタッフの抜群のセンスと知性のなせる業だった。
40年続いた番組の最後の2本は、おなじみの「空耳アワー」と「タモリ料理」。最後となると力が入った総集編とかになりがちだが、「頑張ったけどすべったらごめんね。ALL新作空耳アワー」のタイトル通り、たまった新作大放出でいつも通りの緩い展開。さらには、VTRがつまらないと闇に葬られたボツ作品1500本の中から、3回もNGをくらった作品の迷走ぶりが紹介され、投稿者へのお線香の進呈とともに、「空耳アワー」を支えたディレクターたちの、涙ぐましい画づくりへの努力が成仏した感があった。
最後の1本は「巷のみなさん間違ってますよ!タモリ流〇〇レシピを訂正しよう」。タモリ創作料理の名のもとにネットで流布されているフェイクを正すため、調味料を正確に数値化しようと劇団ひとりが奮闘するが、結局タモリ「適当」流に勝つことはできず、ぐずぐずに。3品作る予定が2品で収録時間オーバー。「予定ではここでほろりとくるような挨拶が入るんですが、台無し!」と大爆笑のうちに最終回が終わった。
「タモリ倶楽部」らしさを貫いた幕引きに、番組のサブタイトル「FOR THE SOPHISTICATED PEOPLE」に込められた自負を、改めて見た気がする。おとなが真剣に遊ぶこういう洗練された番組がなくなる喪失感は大きいが、でもそこは「流浪の番組」、ふらりと何かの形でまたお目にかかれないかと期待してしまったりもする。(古川柳子)

★「GALAC」2023年5月号掲載