関西ベタ演出の“新しいマツコ”
「マツコ×モモコのすっっっごい大阪 仲良し2人のおまかせ旅」
11月16日放送/20:00~21:57/毎日放送
関西人の多くが好んで見るバラエティ番組には、いくつか条件がある。まず第一に、何よりも堅苦しくないこと。少々気の利いたことを言っていても、そこに面白みがなく、偉ぶったトーンが滲んでいるとそっぽを向かれる。第二に、関西が大きく扱われていること。地元愛が強いのはどこの地域の人も同じながら、関西とりわけ大阪人にはそれが強いように思う。第三に、いわゆる「天下を取った」タレントが関西の番組に出演していること。ここで大切なのは、キャンペーン的な露出だとさほど効果はない。お世辞のように関西を礼賛するくらいなら、大いに弄ってくれたほうがいい。たとえ悪口に響くリスクがあろうとも、そこに愛があれば、関西の視聴者は大歓迎して受け入れるものだ。
挙げればまだまだあるだろうが、こうした条件をすべてクリアしていたのが、「マツコ×モモコのすっっっごい大阪」だった。マツコ・デラックスと交流の深いハイヒール・モモコの人脈により、マツコが10年以上ぶりに大阪のロケに臨んだ。それだけでもかなりの希少価値だが、魅力ある番組に仕上がっていた理由は、そこにとどまるまい。超VIPタレントのマツコにしっかりと汗をかかせ、「ベタ」の極致ともいえる演出の土俵にマツコを上げたところに番組の勝因があった。大阪のディープなスポットを案内したモモコの出過ぎないテイストにも好感が持たれる。いずれにせよ「ほかでは見られないマツコ」が見られたという点において、視聴者は大喜びだったはずだ。世帯視聴率14%超えという数字がそれを裏づけている。
MBSには、1980年代初頭、日本の街ブラ番組の元祖とされる「夜はクネクネ」を生んだ歴史がある。歴史があればいい番組が生まれるほどテレビの世界は単純ではないし、「マツコ×モモコ~」と「夜クネ」のスタッフも違うだろう。ただ時代を超え、同局らしさが踏襲されていることを再確認できたのは事実だ。
収録後マツコは、「搾り取られたっ!」と疲労困憊の様子だったが、それがまた実に良かった。第2弾が制作されることは間違いなさそうだ。(影山貴彦)
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報道番組の矜持、ここにあり
報道特集「赤木雅子さん2000日の闘い」
11月26日放送/17:30~18:50/TBSテレビ
放送は、大阪地裁判決の翌日だった。森友学園公文書改ざんを迫られ自殺に追い込まれた赤木俊夫さんの妻、雅子さんが、佐川宣寿元理財局長に対して起こした損害賠償請求。「佐川氏の改ざん指示は国が責任を負うべきものである。道義上はともかくとして、佐川氏が謝罪、説明する法的義務はない」という判決文とともに棄却された。
番組では、すりガラス越しに赤木雅子さんが生出演し、取材を続けてきた金平茂紀キャスターと公文書改ざん事件と裁判の経緯を振り返る。俊夫さんのマフラーを膝に「佐川さんはなぜ改ざんを指示したのか、誰から指示されたのか、それを知りたいだけ」と、訥々と語る雅子さんの言葉は静かだが胸に迫ってくる。俊夫さんが亡くなる1年前、医者に見せるために雅子さんが撮った映像に映し出された、うめきながら自身を打ちつける衝撃的な俊夫さんの姿。誠実な公務員がなぜここまで追いつめられたのか、真相はいまだ封印されたままだ。
発端は安倍晋三元首相の国会発言だとされる財務省の文書偽造。安倍政権下で積み残されたさまざまな問題は、安倍元首相が凶弾に倒れすべて蓋をされたかに見える。改ざんにかかわった財務省の関係者も取材に対して固く口を閉ざしたままだ。安倍元首相が亡くなる前日、雅子さんは彼が応援演説しているところまで出向き、自分の気持ちをしたためた手紙を手渡したという。安倍元首相は雅子さんであることには気づかぬまま、支援者の一人と思ったか快く手紙を受け取ったそうだ。果たしてその手紙は読まれたのだろうか。
だが、報ずる者がいなければ闘いが続いていることに世間は気づかない。悩んだ末に雅子さんは控訴を決めた。事件発覚当時、連日の報道、さまざまな議論が噴出したが継続的にこの問題を追い続けているのは「報道特集」ぐらいだろう。政治的配慮による組織的公文書偽造は、赤木俊夫さんの問題のみならず、歴史に対する犯罪でもある。非道義に怒りを持ち続ける報道の重要性を改めて感じる。(古川柳子)
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国内農業立て直しを急げ!
NHKスペシャル 混迷の世紀
「第4回 世界フードショック~揺らぐ『食』の秩序~」
11月27日放送/21:00~21:50/日本放送協会
食料の6割を輸入に頼る日本。そこに起きた主要な穀物輸出国同士の戦争の長期化。当然予想された事態なのだが、改めてその厳しい現実を突き付けられると愕然とする。
国際自由貿易体制も大きく動揺する。異常気象による不作に加え、世界一の小麦輸出国・ロシアは穀物輸出を外交の武器として中東諸国などに進出。プーチン大統領は「友好国と協力して優位に立てる」と嘯く。
欧米ほど小麦やトウモロコシに頼らない日本といえども無関係ではいられない。肥料の価格高騰でコメ農家の93%が赤字に転落するという予測もある。
将来世界最大の穀物輸出国になるだろうと注目されるブラジルには、すでに中国が豊富な肥料と農業資材を背景にがっちりと進出していて、日本の入り込む隙もない。農薬、種子生産、遺伝子技術などのテクノロジーの最先端企業は中国の株主がコントロールし、輸出先は巨大な中国市場。日本の一民間企業の努力をあざ笑うかのような国家をあげての食料安全保障戦略の凄まじさを見せつけられる。
これに対抗しようとしても、日本は購入量が少ないうえに、植物検疫機関が厳しいと忌避され、強力なサプライチェーンを単独で作るのは難しく、今後何らかの形で、中国との連携を模索しなければならない。
遅まきながら日本でも飼料作物増産の動きが緒に就いたところであり、食のあり方を“自らまかなう”という方向に大きく転換すべきときなのかもしれない。そのためには「農業という仕事が魅力的であるという事実を作り出すべきで、社会的地位の面でも収入の面でも農業という産業を魅力的にすべき」とのジャック・アタリ氏の直言は、一次産業に縁のない世界に身を置きながら言うのも何だが、まさに至言だと思う。
近代日本の工業化は国を豊かにしたが、その陰で見落とされてきたものも大きい。“豊かさの象徴”から“生きる土台”へと、「食」についての意識転換を図り、自由貿易の堅持とともに、今こそ国内の農業を立て直さなければ大変なことになると感じた。(加藤久仁)
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芸人スキルの新しい楽しみ方
「盛ラジオ~あのトークの元ネタ見せちゃいます~」
10月27日~12月1日放送/25:00~25:30/テレビ東京
芸人の話芸に光を当てる実験的番組。まずそのアイデアが、斬新でなおかつ面白い。テレビとラジオを掛け合わせた一種のメディアミックス。テレビ好きにもラジオ好きにもたまらない内容になっている。
あらかじめ芸人にロケをやってもらい、そのときの出来事をもとにラジオでフリートークをしてもらう。芸人にはロケのVTRをテレビで放送することは伝えていない。だが当人たちがいざスタジオにやってくると、フリートークの際にどれだけ話を作ったり誇張したりしたか、つまり“盛った”かが、VTRとトークの内容を事細かに照らし合わせながら検証される。
いわばドッキリ企画だが、芸人をだますことが一番の目的ではない。いかに話を盛るかは芸人の腕の見せどころ。その盛り方に表れる芸人の凄さを再確認し、味わうことが、むしろこの番組の狙いと言っていい。
実際、全6回だったが、どの回も見応え、聴き応え十分だった。三四郎やアルコ&ピースは、いずれもさすがラジオの達人といったところ。絶妙のさじ加減だ。またミキも、実際にあったことをベースにしながら話を面白くまとめ上げる力量の確かさが感じられた。錦鯉は、トークにも誠実な人柄がにじみ出る。
一方、鬼越トマホーク、シソンヌ・長谷川忍とコットン・きょんの2組は、実際のロケからはかなり飛躍したトークを展開。スタジオMCの小峠英二や佐久間宣行からは「盛り過ぎ」をツッコまれていたが、それもまた一つの芸として大いに楽しめた。
これまで芸人のトークは、盛っていることをなんとなく知りつつそのまま楽しむものだった。この番組はそこから一歩踏み込み、トークの楽しみ方を一段レベルアップしてくれている。どこをどう盛っているのかを具体的に分析することで、芸人のスキルの解像度が上がり、その見事さへのリスペクトの念も深まる。
聞けばこの番組を企画・演出した町田拓哉は、まだ入社6年目とのこと。ここ最近、各局で若手ディレクターの活躍が目立つが、彼もその一人だろう。今後に、ぜひ注目したい。(太田省一)
★「GALAC」2023年2月号掲載