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【ギャラクシー賞テレビ部門7月度月間賞】-「GALAC」2022年10月号

静謐さを貫く鯨への畏怖

NHKスペシャル 「鯨獲りの海」
7月3日放送/21:00~21:50/日本放送協会

捕鯨船や遠洋漁業の長い航海への同行取材はこれまでもあった。しかし、この番組の印象はこれまでの同種の番組の“手触り”とは何かが違うように感じる。
その少し違う感じを的確に説明するのは簡単ではないが、まず、この番組から受ける印象が実に静かだと気がつく。画面に静謐な雰囲気が漂っている。
目の前に鏡のような海が大きなうねりを伴って静かに広がっている。船上の乗組員たちの作業の身のこなしや声の調子も静かな印象だ。砲手が鯨に向かって銛を打ち込んだ瞬間にも掛け声や歓声はなく、決められた作業が無言のうちに進む。取材陣の問いかけに答える乗組員の口調や表情も穏やかで、そこにも静けさが感じられる。母船の甲板では20トンもある鯨の解体がわずか40分、作業の音だけが聞こえている。
そして語り(石田圭祐)の静謐なトーンが番組全体の雰囲気を統一されたものにしている。
世界的な鯨資源保護と捕鯨反対の動きのなかで、日本は2019年に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、排他的経済水域内での商業捕鯨を再開した。現在の年間捕獲量2000トンは南氷洋での捕鯨が盛んだった60年前の100分の1の量だという。
取材した第三勇新丸では17人の乗組員が三陸沖200km付近の海で53日間操業し、ニタリクジラ80頭を獲る計画で、往時とは比べるべくもない。だが、現在の捕鯨にも鯨獲りの精神は受け継がれている。
それは「鯨を苦しませない」という一点に尽きる。
砲手は銛一発で鯨の急所を撃ち、即死させることを求められているのだ。これは捕鯨の伝統を貫いてきた鯨獲りの矜持であり、地球上最大の生き物と対峙することへの畏敬の想いである。その想いは砲手だけではなく、乗組員全員に共有されている。船全体の静謐な空気が、それをよく伝えている。
ラスト近く、銛の引き金に掛けた砲手の右手指を捉えた長いアップ・ショットがある。そこに、引き金がひかれるまでの静止した時間を貫く砲手と鯨との緊迫した関係が頂点に達するのを見た。(戸田桂太)

優しさに溢れたメモリアル番組

アメトーーク!「ダチョウ倶楽部を考えようSP」
7月19日放送/20:00~21:48/テレビ朝日

見始めてすぐ「本当にあったかい番組だ」と思った。開始早々、肥後克広と寺門ジモンのトークがうまく噛み合わない。すかさずそこに土田晃之がツッコミを入れる。「俺、コイツらが心配だよ!」。単なる追悼番組ではない、温かいやさしさと笑いに溢れていた。
番組ではまず、テレビ朝日に残されたダチョウ倶楽部の出演シーンを振り返る。「ザ・テレビ演芸」に出ていた頃は南部虎弾(現・電撃ネットワーク)も含めた4人組だった。南部が脱退してトリオになり、冠番組「パー!スリー」が始まる。1998年の「ナイナイナ」では「どうぞ、どうぞ」誕生の瞬間も記録されている。逆バンジーを頑なに拒む上島竜兵。みなが挙げた手につられ、自分がやるとつい手を挙げてしまう。どうぞ、とみんなが笑顔になる、至極のギャグだ。
アーカイブを見てみると、改めてダチョウ倶楽部はテレビで輝いてきた芸人であることがよくわかる。彼らは正真正銘のテレビ・タレントだろう。特に体を張った上島のリアクション芸はピカイチだった。嫌がることを無理やりやらされることで起こる笑い。上島のキレとまんざらでもない表情。現在、多くの冠番組を持つ有吉弘行も、彼のもとで鍛え上げられてきた。
だからこそ、上島竜兵の不在はつらく、悲しい。しかし、タイトルにもあるように、この番組はあくまでも「ダチョウ倶楽部を考えよう」だ。「振り返ろう」ではない。二人になったダチョウ倶楽部は、これから「熱々おでん」や「熱湯風呂」をどうしていくのか。最後に二人で実演するも、トリオでの芸だったため、どこかぎこちない。でも、スタジオは温かい笑いに包まれていた。特に「新・熱湯風呂2人ver.」で熱湯の中に沈んでいく上島の写真が、満面の笑顔だったのが印象的だった。
冒頭、出川哲朗は番組の見所をこう語っている。「今回はもう、昔のVとかを折り入れながら、悲しくというよりもね、おもしろおかしく、楽しく、竜さんを送りたい」。「アメトーーク!」だからこそできた、明るく、楽しい、素敵な追悼番組だった。(松山秀明)

世代を超えて繋がったクオリティ

「LOVE LOVE あいしてる 最終回・吉田拓郎卒業SP」
7月21日放送/20:00~21:54/フジテレビジョン

本人はもちろん、吉田拓郎に強く私淑する人々の中には彼がテレビに出演することを決して好ましく思わぬ空気が長らく漂っていた。1996年10月レギュラー番組としての「LOVE LOVE あいしてる」がスタートしたのは、まだそんな時代だったと記憶している。
だが、KinKi Kidsの堂本光一・堂本剛との出会いや、篠原ともえ、坂崎幸之助、ブラザー・トムらとの共演を通し、50歳を過ぎた拓郎のなかに大きな変化が訪れた。それはテレビ界全体にとっても「収穫」と捉えていいはずだ。もちろんそれはKinKi Kidsの二人においても同様だったろう。演者同士の信頼感は画面を通して十分に伝わった。スタッフとの繋がりも同様に違いない。クオリティの高い稀有な音楽番組として高く評価され、2001年3月末でその幕を下ろした。
「LOVE LOVE あいしてる 最終回・吉田拓郎卒業SP」は、吉田拓郎が自身の歌手生活にピリオドを打つ、文字通り「卒業番組」として放送された。レギュラー開始からしばらくは、正直番組に対しノリノリではなかっただろう拓郎が、このたびの特別番組に対しては、実現化に向けて大いに積極的だったと聞く。拓郎の番組への深い愛情の賜物だろう。
特番では、ブラザー・トムの姿は見られなかったがレギュラーメンバーに加え木村拓哉、明石家さんま、あいみょん、奈緒らが出演。バックダンサーとして、生田斗真、風間俊介、VTR出演に泉谷しげるという豪華な布陣だった。音楽番組としての聴き応えはもちろん、トークのワンカットワンカットにも熱が注がれていた。笑いに塗した「拓郎節」とも言える毒舌も楽しめたが、何より彼の口から多く出た「感謝」の類の言葉が新鮮で、だからこそ私たちの心により響いた。
何よりも番組の特筆すべき点は、吉田拓郎を持ち上げるだけの形にしなかったことだ。拓郎を知らない世代の視聴者が見ても、十分に「今」を捉え若い世代にも訴求した。ゲストのあいみょんに対し尊敬の念を表した拓郎がとても粋だった。「世代を超え楽しめる番組」の可能性を示した功績を讃えたい。(影山貴彦)

先陣を切って示した報道の矜持

報道1930「激震・旧統一教会と日本政治 問われる政治との距離感は」
7月22日放送/19:30~20:54/BS-TBS

放送でも活字でもメディアには本来「権力の監視」という役割があり、それが機能していた時代もあった。しかしここ数年は、権力の監視どころか政権への忖度が臭う報道があちこちで見られるようになっていた。安倍晋三元首相銃撃事件を機に、旧統一教会と日本の政界とのかかわりが明るみに出始めたときも、海外メディアがすでに報じている事実でさえ、当初は多くの報道系番組がこの問題にどこまで踏み込んでいいのか、様子見をしているように思えた。
そんな空気のなか、松原耕二キャスターを中心にかねてよりメディアとしての気概を保持する報道をしてきた「報道1930」が風穴を開けてくれた。
7月22日の放送で、地上波ニュースやワイドショーが二の足を踏んでいた旧統一教会と日本の政治とのかかわりにスパッと切り込んだのだ。BS放送のメリットを生かし時間をかけて、韓国の旧統一教会が日本に入り政界に浸透していった経緯や、その後に大きな社会問題になった霊感商法について、さらに日本の信者向けには伏せられていた教義など、驚くべき事実を専門家とともに解説。そのうえで、日本の政界に深く入り込んだこの宗教団体との関係を近年の政治家たちが隠そうともしなくなっていたことまで、この時点で明らかになっている事実を整理し提示して見せた。
この放送が先鞭をつける形で、周りの出方を窺っていたような地上波の番組にも報道メディアのあるべき姿勢が波及していったように思う。その意味でも快挙である。その後、政権への忖度なしに取材・報道するほうに舵を切った番組・放送局とそうでない放送局が、われわれ視聴者にもはっきりとわかってきた。
坂本龍馬の言葉を借りれば「日本を洗濯」することができるまたとない機会が今来ているのではないか。後世振り返って“転換点”となるかもしれない今を、目をつぶって逃してしまうならメディアは用をなさない。「報道1930」が示す矜持に今後も期待する一方で、これが報道の本来あるべき当たり前の姿勢であることを私たちは今一度心に刻むべきだろう。(永 麻理)

★「GALAC」2022年10月号掲載