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【ギャラクシー賞テレビ部門4月度月間賞】-「GALAC」2022年7月号

日本ロック50年の濃厚エッセンス

tvk開局50周年特別番組
「ライブ帝国 ザ・ファイナル」
4月2日放送/14:00~17:55 19:00~21:50/テレビ神奈川

TVKの50周年記念。「ロック・ステーション」の異名を持つ存在理由とも言える歴代ライブ番組。その実に貴重な秘蔵アーカイブを視聴者のリクエストに応えながら一気に放送した。関東のキー各局がその音楽番組ではフルコーラスを流すことがほとんどなかった時代。多くのロックアーティストがそんなテレビを嫌うなか、ここTVKだけは一線を画し、彼らに愛され続けてきた。この番組はいわば音楽とTVKの関係史の記録であるとも言える。
局関係者は「何の演出もなくて」と謙遜されるが、まさにそれこそがこの番組の真骨頂。周年を祝うための演出で多くの評論家や音楽家を招き「あのときはこうだった」「このバンドは実は」などとやられたら、逆に秘蔵アーカイブの価値が下がる。音楽は優れて記憶や想い出に結びつく存在。50年にわたるさまざまな楽曲には視聴者が多様な記憶を結びつけている。みんなそれを他人にやいのやいの言われたくはない。
この番組はまるで昔のDJ番組であるかのように、リクエストやメールの紹介と簡単な楽曲紹介だけで淡々と進行していくが、若きチューリップの演奏や、メイクをしていない忌野清志郎は言うにおよばず貴重な映像の目白押し。時に「なぜこのアーティストでこの曲を」という選曲もあるが、代表曲でなくともそのバンドのパフォーマンスの素晴らしさが際立つ。
また、曲順にもつい唸ってしまうことしばしば。まさしく、音楽を知り尽くした手練れの技ともいえる展開に、あっという間の7時間である。このための映像の整理や修正、再編集、さらにはその権利処理も膨大だったに違いない。そこをクリアしてくれただけでも充分に頭が下がる。
SNSでも「TVKがとんでもないことをしている」「他の番組に替えられない」など大変な騒ぎになったのだがそれも頷ける。日本の音楽シーンを彩ってきた選りすぐり64組のアーティスト、その最高のパワーを50年かけて抽出し、それを見事に並べてみせたのだから。(兼高聖雄)

熱帯雨林を破壊する環境犯罪

ドキュメンタリー「解放区」
「“ブラッド・ゴールド” ~アマゾン先住民の闘い」
4月3日放送/24:58~25:58/TBSテレビ

昨年11月、イギリスで開催された「国連気象変動対策会議」で、アマゾンの先住民の女性が壇上に立ち「地球が“もう時間がない”と言っている」と発言して、熱帯雨林の危機を世界に訴えた。
南米アマゾン川流域の熱帯雨林の減少などについて、私たちはすでによく知っているつもりでいる。しかし、それは衛星からの画像の解析や統計の数字の分析によって得た知識に過ぎない。そこに暮らす人の発言を聴き、熱帯雨林の現状を捉えた映像を見て確認する機会はほとんどなかったと思う。
この番組の取材班は飛行機と車と小舟を乗り継ぎ、ブラジル北部のアマゾン川流域の先住民居住区に分け入って、ムンドゥルク族の人々と行動をともにし、熱帯雨林地帯の現実にカメラを向けた。
撮影には特別な許可が必要だという先住民居住地区でカメラが捉えたのは違法な森林伐採の実態であり、川での大規模な砂金の違法採掘の現場だった。さらに、これらの違法行為を止めない業者と闘っている先住民の活動もリアルに報告された。
ムンドゥルク族の自警団の活動に同行した場面では、村人の誰もが銃を持っているのに驚かされる。森でも川でも、違法業者との戦いは日常そのものだ。
砂金は森林を伐採した後の更地や川底の土砂を掘り返して採取するという。広い川幅一杯に300隻以上の違法採掘船が並んでいる。異様な光景である。
砂金採取には水銀が使われる。土砂から金だけを吸着させる工程で水銀の性質を利用するという。その際、不要な水銀が川に捨てられて有機水銀化し、川魚を媒介した食物連鎖の先に先住民たちの水銀中毒という深刻な問題が起きている。水俣病に通じる症状の村人たちの健康被害も丹念に報告されている。
違法な森林伐採や砂金採取を禁止できないのはなぜなのか。番組のラスト近く「開発や経済発展最優先のブラジル現政権はこの環境犯罪を重く見ていない」という先住民支援者の発言があった。これはアマゾンの現状への先住民からの告発でもある。(戸田桂太)

親や祖父母に思いを馳せる100年の物語

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」
2021年11月1日~2022年4月9日放送/8:00~8:15/日本放送協会

連続テレビ小説の長い歴史のなかでも異例の三世代にわたるヒロインの物語。タイトルの《カムカムエヴリバディ》は、若くして夫の戦死を経験する一人目の主人公、安子(上白石萌音)が戦後に娘とともに聴いていたラジオ英語講座のテーマソングから来ている。
100年の物語を通じて三世代を繋ぐのは、ラジオ英語講座、安子の生家の和菓子屋「たちばな」のあんこ、そして彼女の夫、稔(松村北斗)が好んだジャズの名曲 “On The Sunny Side of The Street” だ。
この曲を歌うルイ・アームストロングから名づけられた戦中生まれのるい(深津絵里)は、戦後の少女時代に行き違いから母と縁を切ってしまい屈折した思いを抱いて生きることになる。そんなるいも、サニーサイドの楽曲に導かれるようにジャズ・トランペッターの錠一郎(オダギリジョー)と結ばれ、高度経済成長期に生まれた娘(川栄李奈)の名はやはりこの曲にちなんで、ひなた。あんこはおはぎから回転焼きへと形を変えて、小豆を美味しく煮るおまじないのことばとともに母から娘へと受け継がれる。かつて稔が願った「どこの国とも自由に行き来できる世界」を生きる彼女たちの傍にはラジオ英語講座があり、ひなたが身につけた英語が三世代を再び結びつける。
これは、思うようにならない人生をそれでも生きてゆく普通の人々の物語だ。そこに流れるサニーサイドの「日向の道を歩けばきっと人生は輝くよ」は表舞台や華やかな成功を歌っているのではない。また「カムカムエヴリバディ」は、自分で選んだ道を歩き続ける名もなき人々に優しく呼びかける言葉にも聞こえる。「みんなおいでおいで、それぞれの日向の道へ」と。
三世代を見守ってきた私たちは、パズルのピースが見事にはまるような緻密な構成の脚本のもと、100年の時の重みが物語への思い入れを桁違いに深めていたことに気づく。そして、100年前まで遡る個人史は私たち一人ひとりにもある。視聴者が劇中の時代に照らして、自分の親や祖父母の人生にも想いを馳せることができる豊かな朝ドラであった。(永 麻理)

やがて歴史を作るささやかな羽ばたき

映像の世紀 バタフライエフェクト
4月4、11、18、25日放送/22:00~22:45/日本放送協会

「バタフライエフェクト」とは「蝶の羽ばたきが、巡り巡って竜巻を起こす」、つまり、一人ひとりのささやかな行為が、時代を超えて大きな出来事を引き起こすということ。そうした観点から歴史を改めて見つめ直しているのが、今年4月からレギュラー放送化された「映像の世紀」の新シリーズ「バタフライエフェクト」である。
例えば、自転車を盗まれた事件をきっかけにボクシングを始めたモハメド・アリは、無敵のチャンピオンとなった後、反戦の立場から徴兵拒否。その勇気に背中を押されたアスリートによって、オリンピックの表彰式で黒人差別への抗議をもたらし、ついにはアメリカに黒人初の大統領誕生に繋がっていく。そのオバマが大切にしているのはアリの写真と生き様だ。あるいは、冷戦下の東ドイツで育った3人の女性。一人は将来に絶望した物理学者アンゲラ・メルケル、一人は体制への批判を忍ばせた『カラーフィルムを忘れたのね』を歌う歌手ニナ・ハーゲン、一人はデモに参加した学生カトリン・ハッテンハウワー。何の接点もなかった3人の人生が交差し、それぞれに影響を与えながら、ベルリンの壁崩壊から女性宰相の誕生、難民支援に繋がっていく様は感動的だ。メルケルの退任式でニナの『カラーフィルムを忘れたのね』を流した意味と深い思いを知ることができるのだ。
スペイン風邪と2度の世界大戦は、それぞれ別のドキュメンタリーで扱われることが多い。しかし、それではわからない背景がある。第一次世界大戦中に発生したスペイン風邪は、その情報が隠されたことで爆発的に感染者を生み多くの死者を出した。しかもパリ講和会議の最中に米大統領ウイルソンが感染したことで、第二次世界大戦へ突入するヒトラー台頭を促す遠因となってしまったというのだ。さらには、コロナワクチン開発への影響にまで繋げていく構成は見事だ。
歴史を再編成し物語ることで、「現在」が確かに歴史の上に成り立っているのだと、ありありと証明している。(戸部田 誠)

★「GALAC」2022年7月号掲載