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【ギャラクシー賞テレビ部門3月度月間賞】-「GALAC」2022年6月号

津波から逃げられない高齢者施設

NHKスペシャル
「あなたの家族は逃げられますか?~急増“津波浸水域”の高齢者施設~」
3月12日放送/21:00~21:55/日本放送協会

番組の冒頭、59体の木彫りのお地蔵が並んでいる場面が映し出された。宮城県気仙沼市の高齢者施設。東日本大震災の大津波では、入居者と介護職員合わせて59人の命が失われた。その人々の死を悼んでお地蔵が彫られて建物内に祀られているのだ。
東日本大震災では全国74の高齢者施設が津波に襲われ、638人もの命が失われたという。それから11年、高齢者施設の現状はどうなっているのだろう。
取材班の独自の調査で明らかになった事実がある。現在、津波浸水が想定される地域にある3820の高齢者施設のうち1892の施設が3.11以後に新たに建てられた施設だというのだ。想像外の数字に驚かされるが、番組タイトルにある通り、まさに急増だ。
津波被害を避けるには高台移転以外にはないとも言われているのに、なぜ津波による浸水の恐れのある場所に高齢者施設が新設されているのだろう。
南海トラフ巨大地震が懸念される西日本の例だが、海から近く海抜マイナス2mの大阪市此花区の施設に高齢の父親が入所している人は「いつでも会いに行ける近い施設が安心」と語った。家族には最重要の理由である。施設を移転するための莫大な土地代金や建設費も問題で、地価の高い場所への移転は難しい。
一方、三重県南伊勢町では津波浸水域にある施設を海から遠い場所へ移転するという。「過疎対策事業債」の申請など国の制度をフル活用した地元自治体の取り組みには目を見張るが、移転先の土地は廃校になった小学校のグラウンドだという。少子高齢化社会を象徴するような事実だが、移転費用は劇的に軽減された。
地域住民との協力関係の創設や地域ぐるみで津波の危険への意識を共有する仕組みを作るなど、高齢者施設を地域全体の課題とする動きも報告された。
国の施策が問われているのだが、3.11以後、国は高齢者施設に定期的な避難訓練の実施を義務付けたという。しかし、高知県中土佐町の海に面した施設の実際を見ると、職員にも高齢の入居者にも大きな負担が増しただけのように見えるのである。(戸田桂太)

「報道特集」のウクライナ報道に拍手

報道特集
「ベラルーシ ルカシェンコ大統領への単独インタビュー」
3月19日放送/17:30~18:20/TBSテレビ

歴史を作るのは一人の英雄ではなく民衆一人ひとりだとの信念のもと、トルストイは大作『戦争と平和』を書いたといわれる。その同じ母なる大地では今、何の罪もない多くの一般市民が戦争の犠牲になっている。
開戦と同時に金平茂紀キャスターが現地に乗り込み、戦禍に苦しむ人々の現状を、他人事ではなくいつでも身近に起こることとして伝えようという姿勢が感じられるTBSの「報道特集」3月19日の放送では、ウクライナに比べてロシア側からの情報が極端に少ないなかで、プーチン大統領に近い隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領へのインタビューを伝えてくれた。
ヨーロッパ最後の独裁者といわれる同大統領は、冒頭から、常にアメリカを支持する日本の外交姿勢を指摘し、国際政治では正義も行動原理も立場によって変わるのだということを正当化してみせる。ある時は威嚇し、ある時は同意してみせ、そしてある時は古典の政治哲学を都合よく引用する、言葉巧みなその姿からは、28年の長きにわたり西欧諸国とロシアの間に立って自国のかじ取りを担ってきた老獪な政治家としての顔と独特の歴史観が伝わってきた。
これに対して、取材陣はここでも街頭での庶民の声を丹念に拾い、厳しい統制にもかかわらずウクライナの人々への共感を明言する勇気ある発言を得ていた。
興味深かったのは、それを大統領に突きつけたときに見せた当惑の表情。あるべき姿と現実の間にあるこうした矛盾を、自分の才覚と経験で切り抜けてきた姿が垣間見えた。兄弟国といわれてきた隣国が別の隣国に攻め込み、破壊と殺戮が目の前で進む異常事態。国内のさまざまな立場からの良識ある衆知を集めて解いていくべきこうした課題に、彼は一人で対峙しているのかもしれない。だが、多くの人々の生命や生活がそういう一人の個人の手に握られていていいのだろうか。
トルストイが信じたように、歴史そして生活は民衆一人ひとりの手にあるべきもの、そんなことを改めて考えさせてくれた貴重なインタビューだった。(加藤久仁)

脱・恋愛至上主義、脱・固定観念

よるドラ「恋せぬふたり」
1月10日~3月21日放送/22:45~23:15/日本放送協会

また一つ、エポックメイキングなドラマが誕生した。「恋せぬふたり」は、日本で初めてアロマンティック・アセクシュアルを正面から描いたドラマだろう。
アロマンティック・アセクシュアルについては、番組ホームページで「アロマンティックとは、恋愛的指向の一つで他者に恋愛感情を抱かないこと。アセクシュアルとは、性的指向の一つで他者に性的に惹かれないこと。どちらの面でも他者に惹かれない人を、アロマンティック・アセクシュアルと呼ぶ」と説明されているが、実際には定義は複数あるそうだ。当事者による考証チームのブログが充実していることからも、このドラマの本気度と誠実さが窺える。
兒玉咲子(岸井ゆきの)は異性に対して恋愛感情や性的欲望を抱かない自分に引け目を感じていたが、同じ指向を持つ高橋羽(高橋一生)に出会ってそれがアロマンティック・アセクシュアルであることを知り、高橋の家で恋愛や結婚抜きで「家族(仮)」を形成すべく同居し始める。これまで数多くのドラマが、ひょんなことからひとつ屋根の下に同居し始めた男女にいつしか恋が芽生えて……というパターンを繰り返し描いてきた。しかし咲子と羽は、そうしたお決まりのパターンに回収されることなく、互いを尊重しながら新しい形の家族を目指すのである。
咲子と同期の松岡一(濱正悟)や母のさくら(西田尚美)、妹のみのり(北香那)らは恋愛と結婚が幸福であるという旧来の価値観を「常識」だと思い込んでいたが、徐々に変化していく。咲子や羽を含めて、全員が試行錯誤しながら個々の違いを受け入れていくプロセスが丁寧に描かれる。それは視聴者自身が恋愛至上主義ではない価値観を受け入れていく時間でもある。
最終話で二人は同居を解消するが、これまでの固定観念に縛られない「家族」の新しい形が提示される。「私の人生に何か言っていいのは私だけ。私の幸せを決められるのは私だけ」という咲子の最後の台詞は、固定観念を振りかざしがちな私たちへの普遍的なメッセージとして心に響いた。(岡室美奈子)

アニメの常識を覆す革新的作品

ノイタミナ「王様ランキング」
2021年10月14日~2022年3月24日放送/24:55~25:25
フジテレビジョン 「王様ランキング」製作委員会

フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」は、「アニメの常識を覆したい」「すべての人にアニメを見てもらいたい」というコンセプトで2005年に設立され、数多くの上質なアニメ作品を生み出してきた。「王様ランキング」はその74作目で、昨年10月から2クール全23話にわたって放送された。
偉大な巨人族の王・ボッス(三宅健太)を父に持つ第一王子のボッジ(日向未南)は、小柄で短剣どころか石すら持ち上げられないほどの非力。耳も聞こえず言葉も話せず、周囲から王の器ではないと言われていたが、王になることを夢見ている。一方、継母の王妃・ヒリング(佐藤利奈)は、ボッジの弟で文武両道の優秀な実子・ダイダ(梶裕貴)に王位を継承させようと画策している。ボッジは謎の生き物「影の一族」カゲ(村瀬歩)という友人に出会い、強くなるために旅に出る。そんな王の座をめぐるシンプルで王道の物語かと思いきや、回を追うごとにボッジの成長譚にとどまらず、それぞれのキャラクターの背景や多面性が深掘りされて描かれ、それに伴って物語も重層的に深みを増していく。気づくと、ヒリングを始めとしてどのキャラクターも愛おしくなり、当初、想像していたものとはまったく違う次元に連れて行ってくれた。
凄かったのは物語だけではない。今や日本のアニメーションは、細部まで書き込まれた精緻な絵が、アニメならではのダイナミックな動きで、実写では表現し得ないリアリズムを獲得することも珍しくなくなった。けれど「王様ランキング」の絵柄は一見、子どもの落書きのような稚拙なものだ。そのシンプルな絵柄にもかかわらず、信じられないくらいド迫力の戦闘シーンがスペクタクルに描かれ、多面性のあるキャラクターたちの心情を豊かに表現し切っているのだ。その表現力に驚くとともに、アニメーションの可能性を感じさせてくれた。「ノイタミナ」が掲げた「アニメの常識を覆したい」「すべての人にアニメを見てもらいたい」という思いを体現した、普遍的かつ革新的なアニメーションだった。(戸部田 誠)

★「GALAC」2022年6月号掲載