オダギリ・ジョーの才能が炸裂
ドラマ10
「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」
9月17日~10月1日放送/22:00~22:45/日本放送協会 MMJ NHKエンタープライズ
テレビ界はとんでもない奇才を発掘してしまったようだ。オダギリジョーが監督・脚本・編集・犬(!)を務めたこのドラマが、すこぶる面白かったのだ。タイトルからして人を食っている。オリバー「な」犬ってなんだ。全編オダギリの遊び心と、それでいて一線を踏み越えない絶妙なバランス感覚、そして何より独特なセンスに溢れているのである。
鑑識課に所属する主人公の警察官・青葉一平(池松壮亮)と警察犬・オリバー(オダギリ)、同僚の漆原冴子(麻生久美子)らが、11年前に失踪し遺体で発見された北條かすみをめぐる事件に巻き込まれていくが、結局この事件はちっとも解決しない。切断された耳とピストルをオリバーが発見するという『ツイン・ピークス』的な発端から惹き込まれるが、黒幕の神々廻(橋爪功)や謎の男マイケル(染谷将太)らの正体は最後まで明かされず、次々と張り巡らされる思わせぶりな伏線は回収されず、ほぼすべてが宙づりのまま、関東明神会の龍門(松重豊)が唐突に殺されて、全3話は幕を閉じる。最終回ではヤクザと半グレと警察が入り乱れて『スリラー』ばりのダンスを披露するという破天荒ぶりなのだが、それはマイケル・ジャクソンというよりはインド映画のような祝祭性を帯びてゆく。
警察ドラマながらゆるい雰囲気は、オダギリが主演した「時効警察」や「熱海の捜査官」を想起させる。そうしたドラマの経験が本作の素地になっていることは間違いないだろう。しかしそれら以上にこのドラマが祝祭的なのは、超豪華な出演者全員が、まったく手を抜くことなく、本気でテレビというメディアを遊んでいるからではないだろうか。上記の名優たちに加えて、本作には細野晴臣、鈴木慶一といったミュージシャンや、佐藤浩市、柄本明、國村隼、永瀬正敏、永山瑛太、村上淳、仲野太賀、くっきー!ら、クセのある実力派俳優たちが顔を揃え、その誰もがどこか珍妙な役を楽しみつつ全力で演じているのである。
最終話に付された予告編に心躍るが、今のところ続編の予定はないと聞く。続編熱烈希望。(岡室美奈子)
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バラエティだから描けた‟リアル”
水曜日のダウンタウン
「おぼん・こぼん THE FINAL」
10月6日放送/22:00~22:54/TBSテレビ
「おぼん・こぼん THE FINAL」と題されたベテラン漫才師おぼん・こぼんの仲直り企画。そもそも企画の発端は2019年3月。「芸人解散ドッキリ、師匠クラスの方が切ない説」で二人に解散ドッキリを仕掛けたことで彼らの不仲が世間の知るところになった。その後、「催眠術ドッキリ」で仲直りさせようとするなど継続的に関係修復を試みていたが失敗。こぼんの娘の結婚式での和解を目指すという展開になった。テレビ番組は時に出演者のその後の活動に大きな影響を与えることがある。それが良いものならばともかく、そうでないこともあるのは紛れもない事実。それを「使い捨て」のようにしてしまう例も少なくない。しかし、この番組は、「解散ドッキリ」で面白がるだけで終わらずに、長期間にわたってなんとか仲直りさせるまでをエンターテインメントとして見せるというこの番組流の真摯な“責任”の取り方を行った。
結婚式であるにもかかわらず二人のプライドと頑固さが邪魔をして、ついには「解散」を宣言してしまう。それを必死になだめるマネージャーや仕掛け人のナイツ。普通の番組ならなんだかんだ言ってハッピーエンドに収まるはずだと思うが、この番組の場合、これまでもバッドエンドはバッドエンドのまま放送してきたため、このまま「解散」ということになってもおかしくない。実際、本当に紙一重のところまで行っていただろう。しかし、唐突とも思えるタイミングでおぼんが「俺も入れ替えるからお前も入れ替えや。もういっぺんやり直そう」と手を差し出すと、こぼんもそれに応え手を握る。何が決定打になったのかはわからない。けれどそれが、二人にしかわからない関係性があることが逆に浮き彫りになっていてリアルだった。
もちろん、その結婚式はドキュメンタリー的にいえば過剰な“仕掛け”といえる側面もある。だが、そういった一線を超えられるバラエティだからこそ撮れたドキュメンタリーだといえるだろう。喜怒哀楽はもちろん、説明しがたい人間の複雑な感情全部が詰め込まれていた。(戸部田 誠)
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バラエティ番組が醸す豊かな可能性
「有吉クイズ」
10月11日放送/24:15~24:45/テレビ朝日
私物のスマホ画面から持ち主を当てるなど、芸能人や有名人の隠れた一面が明かされるクイズバラエティ。
その看板コーナーが、「有吉のプライベート密着クイズ」である。VTRを見て、番組のメインである有吉弘行の休日の外出目的を当てるクイズなのだが、有吉の予想外の行動に毎回笑いながらも驚かされる。
この日の有吉の目的は、蛭子能収に久々に会うこと。蛭子さんは、昨年テレビ番組で認知症と診断されて以来、バラエティ番組への出演がめっきり減った。だが過去共演してきた有吉は番組に出てもらうことを熱望し、オファーを重ねてようやく出演が実現した。
公園で再会した二人の会話は、掛け値なしに楽しいものだった。「元気じゃないんでしたっけ?」と笑顔で聞く有吉に、「元気です」と返す蛭子さん。好きな麻雀もパチンコもやめ、花を愛でるようになったという蛭子さんに「ずいぶん真人間になりましたね」とツッコむ有吉。病気になっても「どんな仕事でもいいからやりたい」と語る蛭子さんに、「熱湯風呂とか?」と振る有吉に「もうやめて」と笑い崩れる蛭子さん。最後は結婚祝いに有吉夫妻の似顔絵を蛭子さんがプレゼント。大喜びする有吉だったが、「15分で描いた」という蛭子さんの言葉にその場は笑いに包まれた。
蛭子さんの変わらない雰囲気にも少し安心したが、変に気遣いしすぎることなく、ちゃんと笑いを交えながら蛭子さんに正面から向き合う有吉の振る舞いもまた見事だった。スタジオで再会当時を振り返った際に感極まった様子だったように、そこには蛭子さんというひとりの人間への深い尊敬と愛情が感じられた。
今回の企画がバラエティ番組として放送されたことも、強調したい。もちろん細心の注意は必要だろう。だが、今や笑いも多様性を尊重する「やさしい笑い」の時代になりつつあるなかで、今後のバラエティ番組は、どんな人にも開かれたものでなければならない。この企画は、既成概念に囚われることなくバラエティ番組の豊かな可能性を示したものとして、とても大きな価値を持つものであると思う。(太田省一)
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朝ドラ文法を脱したモネの心の旅
連続テレビ小説「おかえりモネ」
5月17日~10月29日放送/8:00~8:15/日本放送協会
脚本・安達奈緒子のセリフが心に響く。
「何もできなかったと思う人は、次はきっと何かできるようになりたいと強く思うでしょう。その思いが私たちを動かすエンジンです」(朝岡=西島秀俊)、「あなたの痛みは僕にはわかりません、でも、わかりたいと思っています」(菅波=坂口健太郎)……。
各世代の心の葛藤と決断も重要なポイントだった。亮ちん(永瀬廉)の迷いと船出、新次(浅野忠信)や父 (内野聖陽)、母(鈴木京香)それぞれの後悔と再出発、森林組合のサヤカさん(夏木マリ)の孤独と「モネの中に生きていく」という覚悟、入れ替わり主役を演じるこれらの人たちの好演が光った。
海の水が雲になり雨となって山に降り注ぎ、樹々を育てそこで生まれた栄養が川を下って海を豊かにする。牡蠣養殖の祖父(藤竜也)やサヤカさんから学ぶこの “循環”は、朝岡や菅波との出会いを通して危機に備える予報となり、生命のバトンタッチへと繋がっていく。震災時の妹(蒔田彩珠)への負い目から島を出たモネ(清原果耶)は、こうした学びを通して、その思いを、「私が言い続ける。みーちゃんは悪くないって」という境地へと昇華させていくことになる。
高度経済成長、バブルの時代と、日本人は常に前を向き、上を目指して走り続けてきた。転べば「大丈夫、みんな一緒だから」と励まされた。ところがバブルが崩壊し、失われた20年、30年、さらに自然災害が続くなかで、一人ひとり違う心の傷とどう向き合うかという問題と折り合いを付けざるをえなくなる。
そして、コロナ禍がその流れを決定づけた。
常に前向きな世界を肯定し、明るいヒロインたちが愛されてきたNHKの朝ドラも、いったんその場に立ち止まり、一人ひとりの深い心の傷にしっかりと寄り添おうとする姿がだんだんと目立ってきた。
これまで振り捨ててきたこうした問題と向き合い、そこから次の世界を模索するこの時代を後世の人が振り返るとき、「おかえりモネ」はその里程標として大きく位置づけられることになるだろう。(加藤久仁)
★「GALAC」2022年1月号掲載