心揺さぶる‟場所に宿る思い出”
かまいたちの知らんけど 特別編
「37年間通ったスーパーイズミヤへ 濱家最後の挨拶」
9月12日放送/14:00~14:54/毎日放送
人間誰しも“大切な場所”というものがある。
かまいたち・濱家隆一にとってそれは地元・大阪市東淀川区上新庄のスーパー「イズミヤ」だった。幼い頃から通っていたそこは家族団らんの場所であり、友人たちとの遊び場でもあった。そんなイズミヤ上新庄店が今年8月をもって閉店になる。そこで、濱家がイズミヤに感謝を伝え、別れを告げに行くロケを行った。その様子は7月に一度放送されたが、未放送分を含め再編集され、閉店当日の密着も加えられ「特別編」として改めて放送された。
まずロケ隊は、濱家が自宅からイズミヤに向かっていた道を辿る。そこで濱家はパン屋の匂いや花屋の光景の懐かしさに感動し、高架下でその上を走る電車の音の癖を完全に再現するのだ。よく記憶は場所に宿るというが、濱家の饒舌っぷりはそれを見事に証明していた。そしていよいよ店の中に入ろうとすると、そこに流れる『イズミヤの歌』のメロディに興奮し、化粧品売り場、エスカレーター、玩具屋、ベンチ……と、その一つひとつの場所でありありと記憶を呼び覚まし、詳細に思い出を語っていく。すでに収録予定時間は大幅に超えているが、濱家の語りは止まらない。店員やスタッフに本当に申し訳なさそうに謝っていたことからもそれが「しつこく過剰に語る」という“ボケ”ではなく、「語らずにはいられない」という“衝動”であることが伝わってくる。すでになくなったフードコートの「世界一美味いポテト」がサプライズで用意されていると、彼は涙を落としながら食べるのだ。
その思い出や思い入れはあまりにも個人的なものだ。けれど熱量たっぷりに本気でそれを語られると、自然と自分の記憶も刺激される。誰もが持つ“大切な場所”を失ったときの切なさや喪失感が去来する。どこまでも「個人」に向けられているからこそ、逆にそれが「自分」に投影され深く刺さり心を揺さぶられる。昨今、地元で愛された店の閉店を扱ったドキュメンタリーは少なくないが、バラエティならではの手法でその「思い」を“饒舌”に描写していた。(戸部田 誠)
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交番勤務のあるあるを楽しくエンタメ化
水曜ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」
7月7日~9月15日放送/22:00~23:00/日本テレビ放送網 日テレ アックスオン
第1話冒頭、主人公の新人警察官、川合麻依(永野芽郁)が泣きそうな顔でひったくり犯を追って走りながら心の声でぼやき続ける。「もう限界なのに人に見られてると追いかけないわけにいかない」「絶対ムリ!いっそ私を殴って!そしたら名誉の負傷でいろいろ許してもらえるから〜」となんとも情けない。
架空の街「町山」の交番勤務の川合が、元刑事課のエース、藤聖子(戸田恵梨香)とペアを組むことになり、藤の指導のもとで警察官として成長していくひと夏を描いたのがこの作品だ。「交番女子」という視点が新鮮で、警察ものでここまで明るく楽しいドラマもなかなかない。原作マンガの作者、泰三子は元警察官だけに、警察や交番勤務の日常にリアリティがあり、お仕事ドラマとしてもよくできている。
交番勤務は、スーパーの万引きや下着泥棒、痴話喧嘩、ペット捜索などどんな呼び出しにも対応し、ろくに休む間もない。交通違反者を捕まえれば罵られ、嫌われ役の「サンドバッグのような仕事」である。警察官の辛い「あるある」が盛りだくさんのコメディだ。
物語の軸には藤が追い続けている事件があるが、よくある刑事ドラマのような大事件は起きない。敏腕刑事も出てこない。青く広い空の下、どこか牧歌的な空気も漂う町山交番。そこには心優しい「正義の味方」たちがいる。「誰かがやらなきゃいけない仕事だから、だったら私がやろうと思って」と言う藤先輩の戸田恵梨香がカッコいい。落ち込む部下に引き出しからお菓子を差し出して励ますハコ長、ムロツヨシがいい味を出している。さらに藤と同期の源(三浦翔平)や山田(山田裕貴)など町山署刑事課の面々も含め、温かい上司や先輩に囲まれた川合は幸せ者だ。視聴者はコメディパートに大笑いしたかと思うと、時に警察の仕事における矜持に満ちたセリフや仲間を思う気持ちに感動させられる。そのバランスが心地よい。
脚本・演出が原作プラスαの魅力を生み、永野をはじめ役者たちも生き生きと個性を光らせる。ドラマ「ハコヅメ」は幸せな実写化作品である。(永 麻理)
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実習生の背後に見える日本の介護の窮状
NNNドキュメント’21
「帰ってきたロフマン~ぼくが介護をやめたわけ~」
9月19日放送/24:55~25:25/テレビ信州
2008年に日本とインドネシアの間で結ばれた経済連携協定(EPA)では「人の移動」の対象に「看護師・介護福祉士」も入った。憧れの日本、収入も5倍になるという魅力。介護職という職種がなかったインドネシアで看護師として働いていたロフマンさんは、初めての外国人介護福祉候補生の一人として来日した。
EPAはあくまで経済活動の連携強化で労働力不足対策ではないとし、介護福祉士候補生は介護の仕事に加えて日本語を勉強し、4年目までに国家試験に合格しない場合、帰国しなくてはならないという縛りがある。受け入れ先も介護の指導に加えて日本語学習の環境も整えねばならず、インドネシアは87%超がイスラム教徒なので生活面の配慮も必要で負担が大きい。長野県上田市の敬老園で実習を始めたロフマンさんは無事国家試験に合格、同じく合格したティアさんと結婚し、住みやすさや収入の点から大阪の施設に移る。
日本では17年から技能実習生の職種に、19年には専門職の特定技能実習生に介護職を加えた。17年、帰国予定だったロフマンさんは敬老園にインドネシア人技能実習生の指導担当として呼ばれ、6年ぶりに上田市に帰ってくる。だが一介護職者としてだけではなく、実習生の送り出し機関となる準備も兼ねていた。無事整って、コロナ禍で遅れたものの昨年12月に帰国、番組はインドネシアから敬老園に派遣する実習生の面接場面とロフマンさんの笑顔で終わる。
ロフマンさんだけを見れば、優しく素朴な一青年がビジネスとして介護職を捉えて逞しく成長する軌跡だが、この番組が伝えたかったのはむしろ日本の介護現場の実情とその将来、それに対する日本政府の対応の問題だろう。日本の人口比率、家族・世帯形態の変化から高齢者の介護を家族に任せる旧来スタイルの維持が困難になることは、すでに1988年度の厚生白書で指摘されていたが、政府が介護人材対策として外国人労働者の受け入れに舵を切ったのは2019年。団塊の世代が75歳以上になる25年が近づいてきたからか。あまりの想像力の欠如に愕然とする。(細井尚子)
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二人が夫婦であり続けた理由
「希林と裕也~トリックスター夫婦の昭和平成史~」
9月25日放送/19:30~21:00/日本放送協会 テレビマンユニオン NHKエンタープライズ
一方に大きな時代のうねりがあり、もう一方に傑物同士と言っていい一組の夫婦がいる。その両者が交わるところに何が生まれるのか? 夫婦二人への深い愛情を抱き、その問いに真正面から取り組むスタッフの熱量が伝わってくる魅力的なドキュメンタリーだ。
まず番組では、樹木希林と内田裕也の二人の軌跡を通して、日本の戦後大衆文化史がたどり直される。
1960年代に俳優になった希林は、テレビでブレークした。「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」での演技はいうまでもなく、歌手としても活躍。80年代になると、一連の面白CMでも話題をさらった。
ロックンローラーである裕也は、ザ・タイガースを発掘するなどプロデューサーとしても才を発揮。70年代には時代に先駆けロックフェスを次々と主催した。そして80年代には映画に進出して『コミック雑誌なんかいらない!』など問題作に出演、さらに90年代には東京都知事選に出馬して世間を驚かせた。
こう振り返ってみると、二人が高度経済成長期以降の日本におけるポップカルチャーやカウンターカルチャーの最前線で時代を掻き乱し、活気づけてきたことがわかる。岸部一徳らの証言から見えてくる二人の人となりにも、意外な発見が多く興味は尽きない。
加えてこの番組がとりわけ味わい深いのは、二人が夫婦であったことの意味に光を当てている点だろう。
1973年に結婚した二人だが1年半後には別居、その後一緒に暮らしたことはなかった。だが二人は夫婦であり続けた。そこには、二人が夫婦でいなければならない理由があった。
希林は、自分の頭の中に「ブラックホール」があると感じていた。だからそこに落ちてしまわないよう、安定を避け、常に変化を求めた。実は生真面目で、それゆえに世間の常識からはみ出し続ける裕也は、そんな希林にとってかけがえのないパートナーだった。
二人の発言や文章を通して、そうした関係性の核心に迫る番組のまなざしはどこかやさしい。見終わってしみじみとした余韻が残る秀作である。(太田省一)
★「GALAC」2021年12月号掲載