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【ギャラクシー賞テレビ部門1月度月間賞】-「GALAC」2021年4月号

不思議極まりない世界を実写化

「岸辺露伴は動かない」
12月28、29、30日放送/22:00~22:50/日本放送協会 ピクス NHKエンタープライズ

有名な荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。そのスピンオフを原作(第2話「くしゃがら」は小説が原作)としたのが、本作である。原作はアニメ化もされ、そこで岸辺露伴を演じた櫻井孝宏が本作でも声の出演という心憎い演出もある。
人気漫画の実写化では、キャラクターの再現度に注目が集まることも多い。第1話「富豪村」に登場する一究(柴崎楓雅)の風貌などは、原作ファンも納得の再現度だろう。だが本作は、それだけではない。
物語は、漫画家の岸辺露伴が取材先などで毎回不思議な出来事に遭遇するというもの。しかも露伴自身が、人間の心や記憶を本にして読める「ヘブンズ・ドアー」というこれまた不思議な能力を持っている。
そんな不思議きわまりない世界を実写化するのは、相当な難題のはずだ。しかし本作は、原作の世界が持つ独特の空気感までも見事に再現している。そしてその結果、原作の単なる模倣に終わるのではなく、テレビドラマとして完成度の高い作品になった。
まず、岸辺露伴役の高橋一生の演技が絶妙だ。視線と所作で見せる多彩なニュアンス、メリハリの効いた緩急自在なセリフ回しによって、現実離れした人物にくっきりとしたリアリティが与えられた。また第2話「くしゃがら」の、謎の言葉にとらわれ精神的に追い詰められていく森山未來の圧巻の演技も必見だ。
小林靖子の脚本も光る。原作では「富豪村」にだけ登場する泉京香(飯豊まりえ)を露伴の魅力的な相棒に造形し、さらにミステリアスなオリジナルキャラクター(中村倫也)を登場させることで、原作では別個の3つの話を一つのストーリーへと巧みにまとめ上げた。特に第3話「D.N.A」は、片平真依(瀧内公美)ら3人の本が“つながる”演出も相まって、「魂の記憶」をめぐる不思議な物語に深い余韻がある。
劇中で、露伴は「僕が敬意を払うとしたら、読者だけだ」とつぶやく。それに倣えば、本作は原作ファンと視聴者双方に最大限の敬意を払った極上のエンターテインメントと言えるに違いない。(太田省一)

奇跡のような必然が生まれた

「家、ついて行ってイイですか?4時間半スペシャル」
1月6日放送/18:25~22:54/テレビ東京

終電を逃した人などにタクシー代を払う代わりに家についていって密着するという番組。4時間半スペシャルの最後のパートは昨年3月に放送されたVTRから始まった。それは、ちょうどパートナーの葬儀の日だった女性に密着したもの。そのパートナーとは伝説的パンクバンド「オナニーマシーン」のイノマー。喉頭がんで亡くなった彼との最期の生活の模様が語られたVTRは最初の放映時も大きな反響を呼んだ。番組では今回、「その後」として一周忌にも密着した新録VTRが流される。その参列者として映っていたのがテレビ東京のディレクターである上出遼平。実はイノマーと古くから親交があり、イノマーの闘病生活に密着し、撮影していた。上出自身はこの番組とは直接かかわりがないものの、番組ではバラエティならではのフレキシブルさで、その映像を放送したのだ。
撮影は2019年2月から始まり、イノマーは舌を摘出しているため滑舌も悪くなっているが、10月に行う予定のライブに向けて前向きに動き始めている。だが、7月に癌が再発。それでもライブは決行された。とてもステージに立てるとは思えない状態のイノマーだが、自分の出番になると、車椅子でステージに上がり、自らの力で立ち上がって笑顔を見せる。その瞬間、キリッとした表情になり、ベースをかき鳴らしながら歌う姿は、表現者の凄みを感じた。
亡くなる瞬間までカメラで撮影され、そこもカットせずに放送したのは英断だった。3月に放送したVTRでパートナーは「命を使い切って死んだ」と語っていたが、その表現がピッタリで、病気を治すことだけが「病気に勝つ」ことではないのだということに気づかせてくれた、ものすごい映像だった。
偶然性を大切にしてきた番組だから、番組用に撮影されたVTRでなくても違和感がなく見ることができたし、番組が密着したパートナーのVTRと重ねて、それぞれの想いを見ることができた。それはこの番組が地道に作り続けてきたからこそ起きた奇跡のような必然だった。(戸部田 誠)

難民認定ほぼゼロの国の片隅で……

ETV特集「エリザベス この世界に愛を」
1月23日放送/23:00~24:00/日本放送協会 テムジン NHKエンタープライズ

2019年8月、東京・新宿。入管施設に長期収容されている在留資格のない外国人を支援する街頭集会が開かれた。番組の主人公、エリザベスも参加して発言した。「私は全国の入管収容施設でつらい思いをしている人たちの声を届けるためにここに来ました。収容されている人に何が起こっているのか知ってほしい。彼らには助けが必要です……なんで収容するの!」。
流暢とはいえない日本語で訴えるエリザベスの発言は、さまざまな理由で祖国に帰れない人々を苦しめる日本の法律や制度のことを知ってほしいという必死さとともに、聞く人の胸を打つ優しさに溢れていた。語り終わったエリザベスの周りには人の輪ができた。
在日25年になるエリザベス自身も、実は在留資格がない。ナイジェリアに生まれ、キリスト教徒の両親の下で幸せに育ったが、その地方の慣習であるFGM(女性器切除)を拒否して祖国を捨て、日本に来た。難民認定を申請したが認められず、逆に不法滞在者として入管施設に収容されたのだった(現在は「仮放免」という特別許可制度で、収容は免れている)。
不法滞在者に対する日本の制度は理不尽の一語につきる。難民認定はほぼゼロ。不法滞在者の収容期間は無期限である。国連の人権理事会は「無期限収容」を国際人権規約違反として見直しを求めている。07年以降、入管施設内での収容者の死者が16人、うち自殺者が5人という数字は何を語るのだろう。
エリザベスの携帯電話には入管施設に収容されている人々からの電話が頻繁にかかり、悲鳴にも似た訴えが後を絶たない(施設内の公衆電話から掛けられる)。
また、彼女は全国に17ある入管施設をたびたび訪ねて、孤立した収容者に面会して悩みを聞き、励ます。そして収容所の前では大声で叫ぶ。「みんなに会いに来たよ~、Hello ,Brothers we love you!」と。
法律や制度の不備を追及する問題提起も必要だろう。しかし、入管施設に収容された人々の苦悩に耳を傾け、心の支えとなってきたエリザベスの実践がこの事態の深刻さを私たちに突き付けている。(戸田桂太)

就職内定率100%の教育

逆転人生
「貧困の連鎖を断て! 西成高校の挑戦」
1月25日放送/22:00~22:45/日本放送協会

逆転無罪、スポーツ大番狂わせ、奇跡の生還。誰かのドラマチックな逆転劇は生きるヒントの宝庫だが、子どもの貧困という社会問題に「10年連続就職内定率100%」という一つの答えを出した西成高校の挑戦は、この国の未来への逆転劇。「学校とは」「教育とは」をめぐる、目からウロコの知見に満ちていた。
逆転の舞台は、貧しい家庭の子どもが多く通う大阪府立西成高校。かつて年間100人近い生徒が中退し、無気力から不良学園ドラマのようにすさんでいた学校だ。未来を切り開くには、貧困の正体を知り、その連鎖から抜け出すしかない。「進学」のための勉強ではなく、貧困から抜け出すための具体的な知識を身につけ、「就職」のなかにチャンスを見つける。同校が2007年に始めた学校改革「反貧困学習」の物語だ。
「アルバイトを急にクビになったら」。授業は想像以上に具体的だ。30日前に通告がなければ違法解雇として手当を請求できること、労働基準監督署という味方があること。知らなきゃ損な学びが生徒の意識を変えていく。ネットカフェ難民、ワーキングプア、貧困ビジネス。どんな環境に置かれても生きていける力を、自分たちで調べ、学ぶ。「のたれ死なないための知恵はついた」と、自分を信頼する若い瞳が頼もしい。
子どもたちの環境を知ろうと、年間600件もの家庭訪問を行った教師たちの熱量もすさまじい。「生徒はやる気がないのではなく、空腹で元気が出ないのでは」。足で稼いだ気づきの数々が突破口となり、1個の弁当で未来をこじ開けていく10代の可能性をまざまざと見せつけられる。10年連続就職内定率100%は彼らの優秀さの証だ。未来の良き人材を、親の貧困が潰すことがあってはならないのだと強く思う。
「Nスペ」や「クロ現」向きでもあるが、この実話を広くカジュアルに知ってもらうには、この番組のテイストがベストと感じた。「学校の意味を考え直した」というMCの山里亮太に同感だ。ゲストの実業家・前田裕二は「起業の仕方を教えに行きたい」と。生きた授業を、ぜひ実現させてほしいと願う。(梅田恵子)

★「GALAC」2021年4月号掲載