女性へのしわ寄せで成り立つこの国の姿
NHKスペシャル
「コロナ危機 女性にいま何が」
12月5日放送/21:00~21:50/日本放送協会
コロナ禍のなかで職を失った人の数、男性32万人に対して女性74万人。自殺者の増加割合、男性21.7%に対して女性82.8%。番組冒頭に示された数字だけでも女性への影響が大きい傾向は見て取れる。だが、この裏で女性たちが直面している苦境はあまり可視化されてこなかったように思う。
取材対象者たちは、本当に普通の女性たちだ。職場の閉鎖、人員整理などさまざまな理由で仕事を失ったシングルマザー、働かなくては家計がまわらない共働きの女性、長年勤めたアルバイトもなくなり年金だけでは生活維持が難しい高齢女性等々。コロナ前まで、つましいながらも自分の収入で生活を支え、子どもを育ててきた女性たちが「まさか自分が……」と思いながら、今ぎりぎりのところに追いつめられている。
この状況は、単に女性の職場が飲食やサービス業などコロナ禍に弱い職種に多いことだけが原因ではない。番組は構造的な問題も指摘する。安倍政権が日本の経済成長の原動力と位置づけた「女性活躍推進」で生み出された雇用の多くは、会社の都合で解雇しやすく経済の調整弁となりやすい非正規雇用。女性たちが高齢化すると年金は男性に比しても少なく、働き続けなくては生きていけない現実がある。
母親の苦境は子どもの生活や人生に直結し、それがさらなる母の苦悩の種になる。4人の子どもを抱えながら仕事の内定を失い、蓄えも底をついたシングルマザーが、助けを求めた国の緊急小口融資の窓口。返ってきた答えは、コロナで収入が減った人が対象なので内定取り消しでは収入が減ったことにはならない、というものだった。「最後に助けてくれるところだと思ったのに……」と洩れる嗚咽が胸に突き刺さった。
コロナ禍は社会の脆弱をあぶり出す。もちろん苦しんでいるのは女性たちだけではないが、平凡で日常的な家庭で進行している生活崩壊の兆しは外からなかなか見えない。しわ寄せのなかに放置され、助けの手が届いていない現実を直視した、静かな告発である。(古川柳子)
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多様性を保持した「バラエティ空間」
バリバラ Baribara×BURAKU
「ブラクとの出会い方」
12月10日放送/20:00~20:30/日本放送協会
日本の部落と同じく被差別の歴史を持つアフリカ系アメリカ人たちが部落を探るという、画期的ともいえる企画であった「BLACK in BURAKU」から1年。番組にはおそらく実に多くのコメントが寄せられたと思われるし、多くの議論や意見がSNSなどでも実際に沸き起こった。
そうした意見やメッセージをほぼすべて引き受けて、再び「部落とは何か」「そこになにがあったのか」を問う。バリバラでなければできなかった前回企画を風化させず一歩進んで問い直す姿勢にまず驚いた。
大阪の北芝地域は、部落と言われた歴史をそのまま隠さずにオープンなコミュニケーションを展開している。その北芝の人々を中心に部落について言われていること、前回番組内容への批判等々を含め話す。「過去の話」「言うべきではない」という意見もある一方、北芝の人たちがいまだ差別意識に悩み、辛い思いもしていると語られる。他方「部落は怖い」などと言われるのはなぜか、ほかのマイノリティの方々の視点も含め構造が相対化されていったりもする。
この番組は「バラエティ」である。報道や教育番組ではない。そのことが逆にこうした問題を、特にその問題を「知らなかった・忘れていた」人たちが改めて考え始める多くの視点を提供することになる。多くの立場や視点から問題を眺め、ある一定の立場に固まることをしない。「多様性」を保持してテーマを眺めることのできる、まさに「バラエティ」としての空間を作り出している。
しかし一貫して「部落」が存在することは語られる。そこには歴史があり文化があり人がいる。それだけは譲れない、蓋をすべきではないものとして語られていく。そして部落差別と呼ばれたものが今どんな形をしているのか、改めて考えようというのがこの番組の姿勢だ。辛いなと思ったときには辛いと言える自由があるのが本当の平等ではないのか、と根源的な一言が出てくる。それがこの番組の魅力、バラエティという形式の強さではないかと思う。(兼高聖雄)
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絡み合うエピソード、見事な構成
土曜ドラマ「ノースライト」
12月12、19日放送/21:00~22:15/日本放送協会 NHKエンタープライズ ロボット
「あなたが住みたい家を建ててください」という奇妙な依頼で設計した一軒家Y邸。1年後に主人公の建築家・青瀬(西島秀俊)が訪ねてみると、そこには誰かが住んだ形跡はなく空き家のままだった。依頼主夫婦の住所を訪ねても転居した後で、さらに依頼主はひとり暮らしだったという。依頼主夫婦はいったい誰だったのか、なぜ自分に「住みたい家」の設計を頼んだのか。青瀬は、Y邸と依頼主の謎を追うことになる。
最初に印象づけられるのは、信濃追分に建つY邸の佇まいである。北側からの自然光「ノースライト」が差し込むリビングや寝室には、飾らない落ち着きがある。大きく空けられた2階の窓から臨む浅間山の風景は、一幅の絵画である。そして窓辺には、ブルーノ・タウトのものと思われる椅子が唯一の家具として置かれている。タウトの椅子、窓、浅間山の関係が見事に設計されている。調べるとこのY邸は、美術部が作ったセットで、浅間山もCGではなく実景だという。多くを語らずとも、家がドラマの主要なテーマであることを、Y邸が視覚的に伝えてくれる。
このドラマは、家族や友人との繋がりの物語でもある。青瀬はバブルが弾けたあと、建築家としての目標、それこそ作りたい家が見えなくなり、インテリアデザイナーの妻(宮沢りえ)と離婚する。そんな青瀬を拾ったのが、建築事務所を構える友人の岡嶋(北村一輝)であった。その岡嶋も事務所を維持することに汲々とするあまり、夫婦・親子関係がギクシャクしている。岡嶋はやがて設計コンペをめぐる贈賄の疑いをかけられ、青瀬と岡嶋の友人関係も揺らぎかける。
Y邸の謎の追跡は、壊れかけた人間関係を修復していく過程でもあった。そして、その物語は青瀬の幼少期の出来事にまで遡ることになる。
依頼主のミステリー、壊れた夫婦関係、贈賄が疑われた友人、主人公の幼少期など、複雑に絡み合ったエピソードが、やがて一つの線として交わっていく構成は見事である。全2回でまとめ切った制作陣の力量を評価したい。(藤田真文)
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BLの枠を飛び越えたピュアなラブストーリー
木ドラ25
「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」
10月8日~12月24日放送/25:00~25:30/
テレビ東京 大映テレビ 「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
“チェリまほ”の愛称で呼ばれる本作は、童貞のまま30歳を迎え「触れた人の心が読める魔法」を手に入れた冴えないサラリーマンの安達清(赤楚衛二)が主人公。仕事も人柄も完璧な同期のイケメン黒沢優一(町田啓太)に触れて、彼が密かに自分に恋をしていることを知るところから始まるラブコメディである。
原作はBL(ボーイズラブ)漫画だが、このドラマはBLという枠を軽々と飛び越える快作だ。劇中では実際の会話、安達に聞こえる心の声、安達自身のモノローグが混在し、その面白さに惹き込まれる。コメディ色は強いが、若い制作者たちが「見て傷つく人がいない作品」を目指した鮮明な姿勢が伝わってくる。ときめきに溢れ、時に切なく、心温まるラブストーリーだ。
全編に流れるのは、人が人を想い、眼差しを向ける優しさ。自己評価の低い安達は、黒沢の心の声を聞き、自分を愛情深く見ていてくれる人がいることに感動する。黒沢が安達を好きになったきっかけも、魔法などなかった頃の安達が、周りからは見えない本当の自分の心に触れる言葉をかけてくれたことだ。物語は安達の成長譚にもなっていて、この作品世界は誰かの背中をそっと押すような人間愛に満ちている。
赤楚衛二と町田啓太はそれぞれのキャラクターを魅力的に立ち上げ、軽やかに、細やかに、情感豊かに演じ、心に響くピュアなラブストーリーを紡ぎ出した。
同じ職場の藤崎希(佐藤玲)の存在も意味深い。二人の恋をそっと見守り応援するが、自らは恋愛に興味なしで充実して生きる女性だ。どんな生き方も「その人の居心地のいい生き方をするとき、誰もがすり減ることなく不自由なく生きていける世界でありますように」(番組公式ツイートより)というメッセージを象徴するかのように、ドラマに広がりを与えた。
本作は放送開始直後から海外でも人気上昇、世界配信に至った。公式ツイッターには各国語のリプライが溢れる。コロナ禍と分断に軋む世界情勢にあって、多くの人の心に届き愛されたこの小さな物語は、2020年を癒す尊い光に見えた。(永 麻理)
★「GALAC」2021年3月号掲載