「秋元康」というミスリード
「共演NG」(テレビ東京)
木村隆志
「ドラマBiz」はコアなファン層を持ちながら昨年6月で終了。ドラマフリークたちを悲しませたが、そこからわずか約5カ月……テレ東の月曜22時にドラマが帰ってきた。「業界のタブー」「都市伝説」と言われる刺激的なテーマに、業界と自局をイジり、時に強烈な毒を放つセリフ。大根仁らしい計算された脚本・演出、そこに構成作家・樋口卓治が脚本参加することで息づくリアリティ。大物俳優を演じる中井貴一と鈴木京香の演技は当然というべきか説得力であふれ、何度か「これは本人では?」と思ってしまった。まさに虚実皮膜。「テレビ東洋」を略して「テレ東」と呼んで自虐するくだりや、キリンとサントリーのスポンサー共演も含めて、どこをどう切り取ってもプロの仕事を感じる。「スキル優先で人を集めれば、こういうドラマができるのか」と感心してしまったくらいだ。
だからこそ、「企画・原作 秋元康」がミスリードとなってしまったことが悔やまれる。それを知ったとたん、「見ない」という声が少なくなかったからだ。もちろんそれには理由がある。秋元の関わったドラマといえば、2017年の「愛してたって、秘密はある。」と、19年の「あなたの番です」がパッと思い浮かぶ人も多いだろう。どちらも連ドラらしい長編ミステリーであり、ショッキングなシーンを連発して視聴者を引きつけたところも似ている。さらに、昨年放送された単発ドラマ「リモートで殺される」も秋元が企画・原案を務めていた。
しかし、3作すべて放送終了後の評判がとにかく悪かった。ネタバレになるが、「主人公の別人格」「サイコパス」「同性愛のもつれ」という禁じ手に近いような結末。そして「続きはHuluで」の誘導に視聴者の怒りが爆発したのだ。現在の視聴者はこういう苦い体験を忘れないし、辛辣なコメントの数々がデジタルタトゥーとして残ってしまうため、信頼の回復は難しい。
この文章は最終話を残した段階で書いているが、この座組みならきっと心地よくも含みのあるエンディングを見せてくれるだろう。それだけに最上段に掲げた「企画・原作 秋元康」のミスリードがもったいなかった。もちろん柔軟な着想、スピード感、実行力などのスキルに疑いの余地はなく、秋元がドラマに関わることはポジティブなことにほかならない。しかし、現時点でその名前は、ドラマを見る前の「第ゼロ印象」としてネガティブだったことは否めないのだ。心底楽しませてもらった作品だからこそ、クレジットの位置や有無と、それを前面に出したPRについて考えさせられた。
~著者のつぶやき~
実際の予算規模はさておき、秋ドラマの中で「スタッフとキャスト」という点では当作が最も豪華だったのではないか。そのポジションをテレビ東京が得たことは時代の流れであり、他局を刺激しただろう。
★「GALAC」2021年2月号掲載