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【ギャラクシー賞テレビ部門11月度月間賞】-「GALAC」2021年2月号

テレメンタリー2020
「介護崩壊~救えなかったクラスター~」
11月8日放送/4:30~5:00/北海道テレビ放送

緊急事態宣言が続く4月、札幌の高齢者施設、茨戸アカシアハイツで起きた集団感染。入所者の17人が死亡するという事態となったが、その大きな原因は入所者の7割が感染するなか、職員・看護師も感染しスタッフが次々隔離入院。介護が崩壊したなかで、放置されたと言っても過言ではない入所者たちが命を落としていったことだった。
番組ではまず、なぜ入所者の入院などの措置がとられず崩壊に至ったのかを明らかにする。この施設は介護老人保健施設、俗に「老健」と呼ばれるもので、本来の役割は医療や介護を受けている高齢者にリハビリなどを通じ在宅復帰を目指す施設で、短期入所が主体の介護施設である。医療行為を目的としているものではない。しかし管理医として医師が常勤し、かつ看護師も常駐している。そのため保健所は感染した入所者を「その場で治療する」という判断となってしまった。このことが悲劇の引き金となった。
この施設に応援で入った医師や看護師の証言から、その悲惨な状況が克明にされていく。番組はしかし後半で、その状況を乗り越え、さらに同じ悲劇を生まないために現場の看護師や医師たちがどう行動したのかを伝えていく。彼らは状況を整理し、問題点を洗い出し解決策を講じる。のみならず、周囲の高齢者施設の担当者などを巻き込みながら、高齢者介護の現場で今後どのようにすべきか、どう対処すべきかという情報の共有を開始する。茨戸アカシアハイツの事例とその分析を公開・共有し、自分たちで対策を作り上げていくのである。
今、コロナ禍ではこのような医療や科学の現場での垣根を超えた情報共有や作業共有が次々と成果を上げている。介護の最前線でも同様だというわけだ。国や自治体の活動が縦割り権限の枠組みのなかで機能不全を起こしている。人々を、社会を守るのは実はこうした現場での知の共有や、私たちの協働でしかない。そのことまでもしっかり伝えたところは、他のコロナ禍事例の番組とは一線を画すものといえる。(兼高聖雄)

関ジャム 完全燃SHOW
「一流プロデューサーが証言!!間近でみた筒美京平のスゴさ」
11月15日放送/23:00~23:55/テレビ朝日

『ブルー・ライト・ヨコハマ』『また逢う日まで』『木綿のハンカチーフ』『魅せられて』『スニーカーぶる~す』『AMBITIOUS JAPAN!』……。世代を超え名曲の数々を世に送り出した稀代のヒットメーカー・筒美京平が、去る10月に亡くなった。
だがその魅力を上手く伝えるのは意外に難しい。筒美は作曲家・編曲家であり、またほとんど表舞台には出てこず裏方に徹していたため、純粋に音楽的観点からみることが必要になるからだ。その意味で、筒美京平の功績を振り返っていた多くの番組のなかでもとりわけ光っていたのが、常々音楽の深掘りには定評のあるこの「関ジャム 完全燃SHOW」だった。
番組では、筒美京平とともに曲を作り、また影響を受けた4人の音楽プロデューサー(武部聡志、本間昭光、松尾潔、ヒャダイン)と東山紀之が出演。知られざるエピソードとともにヒット曲の裏に隠された筒美ならではの究極の作曲・編曲術を解き明かした。
『また逢う日まで』や『魅せられて』のように一気に曲の世界に引き込むイントロ、『ブルー・ライト・ヨコハマ』や『17才』のように定型を無視した変則的な構成でありながら自然に聞こえるメロディ、『君だけに』や『セクシャルバイオレットNo.1』に入っているようなサビを効果的なものにするサビ前の短いフレーズなど。こうして筒美京平の技が次々と明らかになっていく様子は、あたかも推理小説の鮮やかな謎解きを読んでいるような知的興奮があった。
さらに横山裕の「お会いしたかった、本当に」という思いの込もった言葉に象徴されるように、関ジャニ∞のメンバーや古田新太、高橋茂雄(サバンナ)といった他の出演者が、そうした話を聞いて筒美京平へのリスペクトを新たにしていた姿も良かった。
常に最新の洋楽の動向を吸収しながら、「ヒット曲」を生み出すことにこだわり続けた筒美京平の生涯。それを称えるのに相応しいと同時に、エンターテインメントにおけるプロフェッショナルとはどうあるべきかを教えてくれる番組であった。(太田省一)

「“イマジン”は生きている ジョンとヨーコからのメッセージ」
11月21日放送/21:00~22:30/日本放送協会 テムジン

あの12月8日からもう40年――そんな感慨に浸りながら、この番組を見始めた。しかし、ジョン・レノンの生誕80年・没後40年に当たる節目の年に作られたこのドキュメンタリーは、ジョンとオノ・ヨーコの軌跡を貴重なアーカイブ映像とともに辿りはするものの、決して単なる回顧番組ではなかった。
冒頭、ふたりが激動の1970年代に愛と平和を訴え続けたこと、ベトナム戦争や人種差別に抗議し続けたこと、2020年に国家安全維持法の導入に揺れ動いた香港で市民が言論の自由を求めてメモを貼り付けた壁が「レノン・ウォール」と呼ばれ、無数のレノン・ウォールが出現したことが淡々と語られる。そして「分断と差別が世界を覆う今、イノセントとも言える二人のメッセージに、改めて耳を傾けてみよう」というナレーションに続いて、「よりよい世界をつくるのは、人間の義務なんだ」というジョン自身の声が映像とともに流れる。King Gnuの井口理の静かなナレーションが、そのメッセージの強度を際立たせる。ここにはジョンとヨーコだけではなく、作り手たちの真摯なメッセージが明確に込められていた。
本作では、ジョンの名作『イマジン』がヨーコの詩集にインスパイアされて生まれたこと、子どもに語りかけるように作られたことなど、制作にまつわるさまざまな事実が語られるのだが、情報自体はさほど目新しいものではなかった。
むしろ圧巻は、この曲のその後を伝える映像の数々だった。たとえば2015年のフランス・パリ同時多発テロで89人が犠牲となったバタクラン劇場の前で、ドイツ人ピアニストが『イマジン』を大群衆に向けて演奏した映像は、この歌が「世界が憎しみに覆われるたびに繰り返し歌われ」てきたことを実感させた。
「想像してごらん、国家なんてない。難しいことじゃない」という、発表当時はユートピア的な理想主義にも聞こえた、まさに「イノセント」な歌詞が、コロナ禍によって分断が加速化された世界で歌われていることに、静かに感動した時間だった。(岡室美奈子)

土曜プレミアム
「まつもtoなかい~マッチングな夜~」
11月21日放送/21:00~23:10/フジテレビジョン

松本人志と中居正広が“会わせてみたい人”をマッチング。甲本ヒロト×菅田将暉、天海祐希×小池栄子、ローラ×フワちゃん、森進一×MY FIRST STORYのボーカル、Hiroというマッチングの妙と、対談を素材のまま届ける送り手の覚悟が“脱予定調和”となり、読後感の異なる4つの見応えとなった。
最初のヒロトと菅田。テレビにまず出ないヒロトの登場という脱予定調和に、音楽もやる27歳・菅田将暉がはまった。ブルーハーツ世代の松本、中居が主に聞き手となったものの、ヒロトの惜しみない言葉はすべて菅田と若い世代に注がれたものだ。「同じ方向を見てもピントが合う場所は人それぞれ」「ぼんやり見えていることで広がる選択肢」。令和でも変わらないヒロトの切れ味も、打てば響く菅田も痛快だ。
実際どんな言葉にピントが合うかは受け手それぞれであり、8人の発言の見どころを一切テロップで押しつけなかった番組のスタンスも颯爽としている。うっとうしいワイプや効果音、フリップめくり、CMまたぎのあおり映像もない。テレビの原点である広々とした画面がとても自由で、人を引きつける彼らの魅力と才能がよくわかるのだ。化学反応が“まぜるな危険”のほうに出たローラとフワちゃんの“問題作”も「これもひとつの事実」(松本)としてドラマがあった。テレビの活路は、表現者と現場の力にきちんとフォーカスする「原点」のほうにもあることを示してくれた。
ラストの森進一と、三男のHiroはその決定版。「親子共演」でこの二人を選ぶ発想がすごいし、自然体の親子の関係性も素敵だった。突然の振りで『襟裳岬』を歌うことになったHiroの温かい歌声は、脱予定調和が生んだハイライト。人を感動させるDNAの威力と、人間っていいなの実感が今も手に残る。
締めで松本が「ギャラクシー賞いけると思った」とすべてを茶化して総括してしまったことが悔やまれるが、そのくらいこの番組に大きな手応えを感じたのだと思う。挑戦と見応えに敬意を表し、不規則発言は聞かなかったことにしておく。(梅田恵子)

★「GALAC」2021年2月号掲載