オリジナルコンテンツ

【海外メディア最新事情】-「GALAC」2021年1月号

最高視聴率49・8%
オバケ番組の終焉

ジャーナリスト
安 暎姫

日本とは異なる韓国のお笑い事情

 新型コロナ禍でひっそりとひとつの長寿番組が幕を下ろした。1999年から放送されてきた「ギャグコンサート」である。韓国において「ギャグ」とは、英語の「Gag」を指すが、従来のお笑いとは一線を画すという意味で「ギャグ」を使い、お笑い芸人を「ギャグマン」と呼んでいる。 
 「ギャグコンサート」はその名の通り、コンサート形式で行われる公開収録番組である。コロナ禍で公開番組を制作することができないので、表向きには「休息期に入る」ということだが、実質的には視聴率ガタ落ちのための番組終了だといわれる。
 長らく「ギャグコンサート」は、お茶の間の人気番組であった。家族全員で見られる健全な番組という意味だ。「日曜の夜はギャグコンサートで締めくくる」という感じすらあった。
 「ギャグコンサート」が大ヒットすると、他局でも似たような形式のお笑い番組がスタートした。実際その頃、「ギャグコンサート」で有名になったスター的な存在のギャグマンたちを他局が引き抜きをして問題にもなった。
 韓国と日本のお笑い界の事情は少し異なる。例えば、韓国でお笑い芸人(ギャグマン)になるためには、放送局が年に一度行っているオーディションに受からなければならない。この「ギャグコンサート」に出るためには、2000人中10人ほどしか受からない狭き門を通過することになる。だから、ギャグマンたちはエリート意識が高い。
 1999年にKBSで「ギャグコンサート」が始まり、2003年にはSBSも同形式の「お笑いを求める人たち」という番組をスタートさせた。「ギャグコンサート」は最高視聴率49・8%をたたき出し、2000年中頃まではまさに全盛期であった。テレビで売れたギャグマンたちは、小劇場での公演で成功し、毎年放送局のオーディションを通じて新人のギャグマンたちが発掘された。しかし、SBSの「お笑いを求める人たち」の人気が下火になり、お笑い界は縮小し始めるが、それでも「ギャグコンサート」はしばらく人気を維持した。
 1982年の第1期公採選抜以降、毎年新人のギャグマンを選出してきたKBSは、「ギャグコンサート」の視聴率下落により、2016年31期からは2年に一度のオーディションに変更。2018年に32期、2020年上半期に33期のオーディションを行う予定であったが、それもコロナ禍によって暫定的に中止となった。
 「ギャグコンサート」が終了したことで、KBSのギャグオーディションも中断された。コロナ禍が続くなかで、イベントも極端に減った。彼らの食い扶持がどんどん失われている。

視聴率低下の理由は……

 「ギャグコンサート」が終了した理由は結果的に視聴率の低下であるが、ではなぜ視聴率が下がったのか。
 まず、長寿番組ゆえに、マンネリ化が進んだということだ。マンネリ化を打破するために有名芸能人をゲストに招いてのコントを試みたが、それが番宣絡みなどであったため、純粋にお笑いを楽しみたい人たちに嫌われた。
 次に、政治風刺である。ブラックユーモアは最初の頃の売りであったのに、どんどん質が落ちていった。ユーモアが感じられず面白くないのだ。対象も保守系の政党やメディアに限られている。例えば、朴槿恵政権に関してはひどく風刺しても、現政権に関しては沈黙または弁護する傾向が強い。さらに、現政権でツッコミどころ満載の「玉ねぎ男」に関してはだんまりを決め込んでいた。「玉ねぎ男」は最近自分を悪く言った人たちを片っ端から告訴しているからかもしれないが。
 次に、定型化されたパターンの繰り返しである。オチがあまりにも見え透いたギャグもまた面白くない。
 また、ネタが枯渇し始めたのか、どこかで見たような、特にユーチューブで流行っている形式を導入している。地上波なのに素人がやっているユーチューブをマネするなんてどこまで落ちぶれたのかという感じだ。
 そして、内部問題ではあるが、先輩ギャグマンたちのパワハラが蔓延していた。例えば、先輩より後輩が面白くなるのを嫌う。初期のメンバーはパワハラを受け入れていたが、今では「#Metoo運動」なども活発で、理不尽なパワハラを受け入れる新人たちは少ない。その結果、人材が去っていくのだ。
 結局、時代の流れに追いつけず、ギャグの質の下落により2010年頃からはリアリティショーやオーディション番組などのほうがより面白い番組となった。
 歴史を振り返ってみると、170回目のとき、故・盧武鉉大統領時代に「ノトンジャン」という大統領をもじったキャラクターが出るコーナーの視聴率は49・8%だったという。こんなすごいコーナーを持っていたオバケ番組は、1000回までの平均視聴率16・6%であったが、徐々に落ち込み、直近の1046回目の視聴率は2・5%となった。そして、今回休息期と偽りながら、静かに幕を閉じたのである。

~著者プロフィール~
アン・ヨンヒ ソウル在住。日韓の会議通訳を務めながら、英語をはじめとする多国語の通訳・翻訳会社を経営している。ネットマガジンの『JBpress』で韓国文化について連載中。

★「GALAC」2021年1月号掲載