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【ドラマのミカタ】-「GALAC」2020年12月号

テーマを捨て「できる仕事の最大化」
「おカネの切れ目が恋のはじまり」(TBSテレビ)

木村隆志

 とにかく最終話には驚かされた。前週の第3話は、「失恋で落ち込む玲子(松岡茉優)を励ます慶太(三浦春馬)が不意にキスをしてしまう」というシーンで終了。ここからあと1話でどう終わらせるのか? 見終えてみると、玲子と慶太の恋はあいまいなままで、テーマのお金に関する掘り下げも結論もなく、三浦さんの登場シーンは「ほぼ回想だけ」に留まった。しかし、それでもキャストとスタッフの努力が多くの視聴者を感動させたことは間違いない。
 最終話は、「キスで気まずくなった慶太が家を出てしまったなか、玲子が行方知れずの父親を訪ねる旅に出る」というストーリー。そのお供をしたのは、慶太がペットのようにかわいがっていたロボットの猿彦だった。玲子に優しく寄り添い、笑顔で背中を押す猿彦は慶太の代役……つまりロボットに三浦さんの代わりを演じてもらったのだろう。さらにその後、慶太と三浦さんをクロスオーバーさせたようなセリフが続出。慶太の父親・富彦(草刈正雄)は「人を笑顔にする才能を生まれたときから持っていた」「あいつはあいつのままでいい」、母親・菜々子(キムラ緑子)は「ママはいつだって慶ちゃんの一番のファンだからね」、玲子の「どうして私はこんなに気になるんでしょう」「淋しいみたいです。会いたい……みたいです」。いずれも故人を偲ぶものであり、ファンの気持ちを代弁するようなセリフを確信犯的に畳みかけた。
 ラストシーンは玄関のドアが開き、慶太が帰ってきた気配を感じさせながらも、玲子は微笑んだだけで「おかえり」の言葉はなく終了。「もう会えない」という現実をにおわせた結末は、どんな作品よりもシビアで悲しいが、これ以外のラストシーンはありえないのかもしれない。最終話の随所に「もうこのドラマはテーマがどうとかではなく、三浦さんに捧げるものにしよう」と腹をくくるスタッフの覚悟を感じさせられた。「未放送の物語を収録したシナリオ本を発売」というフォローも含めてスタッフとキャストは、できることはすべてやれたのではないか。撮影中、しかも序盤の段階で「2番手の俳優を失う」というショックのなか放送に踏み切り、終わらせただけでも凄いとしか言えない。
 いまだ憶測の声が飛び交い、驚くことに陰謀論や、当作のスタッフに対する一方的な批判も散見される。真実はどうあれ、関係者が最大限の仕事をしたことは確かであり、それは称えられるべきだろう。のちに2020年を振り返るとき、ある意味「半沢直樹」以上に印象深い作品として挙げられる気がしてならない。

~著者のつぶやき~
松岡茉優がラストシーンで見せた笑顔は、慶太ではなく、三浦さんに「また会えた」という喜びと、「やっぱり会えない」という悲しみの両方を感じさせた。試練に向き合い、演じ切った彼女の次作が楽しみだ。

★「GALAC」2020年12月号掲載