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【海外メディア最新事情】-「GALAC」2020年12月号

トランプ VS.バイデン
大統領選で問われるSNSの役割

ジャーナリスト
津山恵子

ソーシャルメディアの試練

 11月3日投開票の2020年米大統領選挙を前に、フェイスブックやツイッターなどSNS大手が批判にさらされている。16年選挙でSNSから拡散されたフェイクニュースやフェイクの政治広告が有権者の行動に影響し、トランプ大統領の誕生となった可能性があるという批判があり、SNS各社は過去数年間、対策を練っていた。しかし、いったん投稿に対して規制をかけると、逆に「情報を規制している」という非難につながり、混乱状態に陥った。
 ツイッターは、投開票日間際に、選挙関連の記事をシェアできないように規制をかけたにもかかわらず、批判を受けて規制を解除した。
 トランプ氏を支援する米保守系タブロイド紙『ニューヨーク・ポスト』が10月14日(米東部時間)、大統領選の民主党候補ジョー・バイデン前副大統領の息子ハンター氏の電子メールを入手し、それに関するスキャンダル記事を掲載した。フェイスブックとツイッターは、記事がアップされてから数時間後に、記事の拡散を抑制するため、シェアをできなくするなどの措置を取った。
 実は、大統領選挙には「オクトーバー・サプライズ」というのは付きもの。11月の第1火曜日に行われる投開票日の直前、つまり10月に、主には選挙で劣勢に立たされている候補者が有利になるように、優勢な候補者についてのスキャンダルが浮上することを指す。
 バイデン氏の身辺で最も懸念されていたのは、ハンター氏に関する記事。ニューヨーク・ポストによると、ハンター氏のメールは、彼がパソコン修理業者に預け、受け取りに行かなかったために、トランプ氏の協力者が発見し、中にあった情報をニューヨーク・ポストに持ち込んだという。記事はメールの写しを載せている。ハンター氏は当時、ウクライナのエネルギー会社ブリスマ・ホールディングスの取締役を務めており、メールの中では、当時副大統領だった父バイデン氏を「あいつ」と呼んで、ブリスマ幹部との会合を計画しようとしていたと記述している。
 ハンター氏がブリスマの取締役だったことで、トランプ氏の批判の的となった。というのも当時、父バイデン氏がウクライナを訪問し、ブリスマの疑惑を捜査していた検察官の罷免を求め、ウクライナ政府もそれに従ったためだ。息子を救うための行為と受け取られても仕方がない。しかし、米メディアによると、ブリスマの汚職などは西側諸国で問題になっており、バイデン氏を擁護する政府は多い。従って、オクトーバー・サプライズがあるとすれば、ハンター氏がスキャンダルの主役になるだろうと多くの市民が思っていた。そこにニューヨーク・ポストの報道が出て来た。しかもトランプ氏お気に入りの新聞だ。

ツイッターが記事を検閲!?

 フェイスブックとツイッターの両社はこれまで、16年大統領選期間中に情報操作や虚偽の情報といった投稿への対応が後手に回って来たと厳しい批判を浴びていた。そこで、フェイスブックとツイッター両社は共に10月14日、記事のSNSへの投稿から数時間と経たないうちに、「信ぴょう性がない」として記事の拡散を抑える措置を取った。
 ツイッターはやや強めの措置を取り、記事のシェアや記事中の画像のツイートさえ自動的にできないようにした。そうした行為を試みたユーザーのアカウントを停止したため、ホワイトハウス大統領報道官のケイリー・マケナニー氏のアカウントさえ見られなくなった。ツイッターは同記事について、ハッキングという行為で入手した電話番号、メールアドレスなどの個人情報を許可なく共有することを阻止するという同社規定に違反したとしている。同社は過去にもそうした措置を取ったことはある。
 しかし、ニューヨーク・ポストのような大手新聞が拡散を規制される対象になったのは過去になかったという(ウォール・ストリート・ジャーナルによる)。
 両社が満を辞して行ったこの措置に対し、SNSで支援や批判などのコメントが殺到した。トランプ、バイデン両氏の支持者から議員までが、ツイッターにコメントを書き込み、ツイッターが記事を「検閲」しているという疑いを扱ったツイートは14、15日の両日に合計9万4000件余りに達した(SNS調査会社ストーリーフルによる)。ツイッターのジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)はなぜ、このような措置をしたのか説明が不十分だとして自社を批判するなど混乱状態になった。
 一方、上院司法委員会は15日、ツイッターの対応についてドーシー氏の証言を求める召喚状を出す予定を明らかにした。同社は昨年11月15日、「政治関連広告の規制」を全世界で実施すると発表した。基本的に、候補者、政党、政治活動特別委員会(スーパーPAC)、政治団体は、ツイッター上で広告を打つことはできない。
 トランプ氏とバイデン氏の熾烈な戦いが続くなか、SNS各社は情報や広告の拡散に目を光らせているという、前代未聞の選挙前夜となった。

~著者プロフィール~
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には、共著『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。

★「GALAC」2020年12月号掲載