ネットの“半沢祭り”を呼んだもの
「半沢直樹」(TBSテレビ)
木村隆志
7年ぶりも、3か月延期も、まったく関係なかった。銀行という男ばかりの舞台設定も、難解なビジネス用語が飛び交うセリフも、視聴を見送る要素にはならない。小学生ですら歌舞伎役者たちを見て爆笑し、濃厚な演技をモノマネしていることが、その裏づけとなっている。
正直、前作は演出のパワーこそ感じたものの、脚本の粗さが気になり、「平成トップの世帯視聴率」という結果にふさわしい作品とは思っていなかった。しかし、続編は演出のパワーに遊び心が加わり、脚本も視聴者サービスの観点から原作を大胆に脚色するなど、エンタメ性がグンとアップ。決めゼリフの「倍返し」だけに頼らず、週替わりで印象的なフレーズを盛り込むなど、確信犯的に笑いを散りばめている。よく「現代版の時代劇」なんて声を聞くが、それは前作であって、視聴者の求めるものを詰め込んだ続編はその先をゆく。冒頭から既成概念にとらわれないプロデュースに圧倒されてしまった。
ただ、そのベースにあるのは大作ならではの贅沢さ。濃密かつスピーディーな物語を実現している最大の理由は、池井戸潤氏の原作小説を2冊も使い、2部構成にしたからに他ならない。さらにその世界観を具現化できるベテランを大量投入したキャスティング。なかなかできることではないが、これほどの結果を得られるのなら、苦労してでも挑戦する価値はあるはずだ。
当作の放送前、新型コロナ禍の影響で同じ原作者とスタッフが手がける「下町ロケット」「ノーサイド・ゲーム」が再放送されたが、「ルーズヴェルト・ゲーム」「陸王」も含めて、「半沢直樹」が別格であることを改めて感じさせられた。これだけ力の入ったものを作ると、「近いうちに第3弾を」というわけにはいかないだろう。一方、ネット上はまさに“半沢祭り”で盛り上がっているが、魅了されている人ほど「ほかのドラマは似たものばかり」「なぜもっとこういうドラマを作れないのか」などと不満の声を挙げている。これは決して他作をけなしたいのではなく、期待しているからこその声ではないか。
改めて7年前を振り返ると、制作サイドは特殊な世界のビジネスドラマのため、「ヒット作になるとは思っていなかった」という。つまり、「マーケティングを重視して作られた作品ではない」ということだ。前回も書いたが、失敗しづらいことを前提にしたマーケティングベースのドラマ制作では、これほどのヒット作は生まれないだろう。少なくともそこから離れられるTBSは今後も守りに入ることなく、視聴者の期待に応え続けてほしい。
~著者のつぶやき~
局の看板で重厚感のある「日曜劇場」、女性視聴者をガッチリつかむ「火曜ドラマ」、刑事と医療中心の堅実路線にシフトした「金曜ドラマ」。TBSは「ドラマ枠の色分け」という点で別格の存在となりつつある。
★「GALAC」2020年10月号掲載