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【ギャラクシー賞テレビ部門6月度月間賞】-「GALAC」2020年9月号

「世界は3で出来ている」
6月11日放送/23:00~23:40/フジテレビジョン

 ソーシャル・ディスタンシングを守りながら撮影し、林遣都がひとりで三つ子を演じるという「世界は3で出来ている」。プロデュースと演出を木村拓哉主演の「教場」の中江功が、脚本を「スカーレット」の水橋文美江が手がけると聞くと、期待が高まるというものだ。
 しかし、実際にドラマを見てみると、そんなキャッチーな期待はすぐに消え去り、約30分と短い作品ながら、知らず知らずのうちにドラマに入り込んでいた。
 物語は、恋人にサプライズでプロポーズをしようと引っ越ししたての新居で待っている勇人のもとに、三つ子の長男の泰斗と三男の三雄がやってくるところからスタートする。この3人が短い時間のなかできっちりキャラクター分けがされている。勇人はお調子者で会社も辞めようとしていたが、泰斗の助言で会社員を続けたところ、空気を読まないことが功を奏し、オンラインの仕事でファシリテーターを務めるまでになっていた。三男の三雄は、あまり情報はないものの、素直で「かわいい」末っ子なことだけは伝わった。そして長男の泰斗は、勇人の家にもマイハンドソープとマイ消毒液を持ち込み、ソーシャル・ディスタンシングを気にかける、きっちりした性格だというのがわかる。
 この長男が、幼いころから世話になったラーメン屋のエピソードに絡ませながら、次第にコロナ禍で感じた実感を語ることになるのだが、コロナ禍の自粛期間中に誰もが持ったであろう不安や焦り、そしてそれがじわじわと薄らいでもいくような繊細な実感と重なり、聞いていると心を持っていかれた。
 そんな風に持っていかれるのは、林のひとり三役の演技と編集や演出がまったく違和感がなく、かつ、そこに描かれたことが、誰にとっても身近な心情であるということが大きいだろう。今期、コロナ禍で以前のような撮影ができないことを逆手にとった意欲的なドラマはたくさんあったが、ここまで今の人々の気持ちに寄り添ったものは本作以外にはなかったように思われた。(西森路代)

ドラマスペシャル
「スイッチ」
6月21日放送/21:00~23:04/テレビ朝日 MMJ

 かけ合い漫才のようなテンポのいい台詞の応酬、加害者と被害者、誰かと人生を共にすることの意味、そして人生のある季節と分かちがたく結びついたJUDY AND MARYの曲。脚本家・坂元裕二久々の新作ドラマ「スイッチ」は、彼の過去作に散りばめられていたさまざまなエッセンスが2時間のなかにぎゅっと凝縮されたような、贅沢なドラマだった。
 ある事件で対峙することになった元恋人同士の弁護士・蔦谷円(松たか子)と検事・駒月直(阿部サダヲ)。二人が事件の真相究明を進めていく物語は、中盤以降でスイッチが切り替わるように意外な方向へとドライブしていく。そこへとつながる伏線が序盤の会話のなかにすでに忍ばせてあることがわかっていくときの快感たるや。ふたりの過去にまつわる出来事と現在の事件、それぞれの新しい恋人との関係性など複数のエピソードが絡みあう展開にもかかわらず物語が渋滞も拡散もせずテンポよく進んでいくのは、脚本はもとより役者陣や演出の力にもよるだろう。
 “坂元節”とも言える名台詞も数えあげればキリがないが、今作最強のパンチラインは眞島秀和演じる円の現在の恋人・貴司が教会で放った「いい人は天国に行ける。でも、悪い人はどこにでも行ける」ではないだろうか。そして、この台詞から続く一連のシーンは本作の白眉でもある。ジムに通い、凡庸なCMを作り、観覧車でプロポーズする“いい人だけどつまらない男”だと軽んじられていた貴司が、実は自分のことも円の気持ちも冷静に見据えていたことがわかり、彼の印象もまたスイッチするこの場面。円だけでなく、画面の外側にいるわれわれ視聴者の背中にも冷水をかけられたような気がして身震いした。怖さと凄さの両方を味わえる上質の身震いだった。
 このふたりのドラマ、いつまででも見ていたい。いっそ連ドラ化してほしいと思っていたら、事前の番宣で坂元本人が「このふたりの話を5年おきぐらいに書き続けたい」と発言していた。5年と言わず毎年1作でもぜひ!(岩根彰子)

魔改造の夜
「トースター高跳び」「ワンちゃん25m走」
6月19日、26日放送/22:00~23:00/日本放送協会 テレビマンユニオン NHKグローバルメディアサービス

 元の意味や用途を逸脱し、通常ではあり得ない改造をすることを「魔改造」などという。番組では「身の回りにあるおもちゃや家電製品のリミッターを外し、えげつないモンスターに改造する行為」と定義し、それを日本トップの大学・T大学工学部、下町工場のH野製作所、自動車メーカー最大手のT社という超一流のエンジニアたちが競い合った。彼らが挑戦するのは、ポップアップ式トースターでいかに高くパンを跳ね上がらせるかを競う「トースター高跳び」と、歩く犬のおもちゃをいかに早く走らせるかを競う「ワンちゃん25m走」という、いずれもバカバカしいもの。例えば前者なら「パンを焼く機能を残し、パンを美味しく焼くこと」と「改造費は5万円以内」ということを守ればどんな改造をしてもいいというルール。見た目が原型をとどめないほど変わり、数倍の大きさになった姿が披露され、「投星」「ゴースター」などとその名称が発表されるのが、またバカバカしい。けれど、制作過程はいたって真剣。さまざまな試行錯誤を経て完成した機械は、当日の気温などの環境によって生じた誤差で成否が分かれるほど繊細なものだ。
 格闘技中継のような実況も番組を盛り上げ、「魔」をイメージしたBGMや薄暗い倉庫内のような怪しげな舞台は、秘密の夜会的な背徳感を醸し出す。一方でエンジニアたちの熱さもある。やっていること自体はバカバカしいが、皆が本気なのだ。最終的に「トースター高跳び」では、本来11cmしか飛ばないパンを、H野製作所が9m95cmまで飛ばし優勝、「ワンちゃん25m走」では「走らせる」ことに関して負けるわけにはいかないT社のプライドを見せつけ、約18秒で駆け抜け勝利した。愛着たっぷりに「ワンちゃん」の見た目を可愛くあしらったり、競技終了の直後から敗因を追究するエンジニアたちの姿も印象的だった。
 実益や生産性は一切ない。けれど、そんな遊びやムダのなかから新しいものは生まれてくるはずだ。エンジニアたちの最高峰の知性と技術、そして狂気が活写されていた。(戸部田 誠)

ETV特集
「すべての子どもに学ぶ場を~ある中学校と外国人生徒の歳月~」
6月27日放送/23:00~24:00/日本放送協会

 2019年4月、国は深刻な人材不足に対応するため、入国管理法を改正して外国人労働者の受け入れを拡大した。しかしその一方で、日本で暮らす外国籍の子どもたちの教育問題は長年置き去りにされている。彼らは義務教育の対象にはなっておらず、現在学校に在籍していない不就学の児童生徒は全国で2万人もいる。そしてその対応は自治体任せになっている。
 番組では全国に先駆けてこの問題に取り組んだ岐阜県可児市と14年間不就学ゼロを達成している市立蘇南中学校の1年間を丹念に追い、その実践を通して外国籍の子どもを受け入れる必要性を強く訴えている。
 この中学校が取り組みを始めたのは20年前。当初は、学校に馴染めない子どもたちや日本語のわからない子どもたちを「お荷物」と見なしていた。学校の対応を変えたきっかけは、市が専門家と協力して行った実態調査や登校を制限されたある卒業生の「日本語教えてくれない? 勉強したい」という言葉だった。その後、学校側は通訳を配して、一人ひとりにカスタマイズした授業を2年間受けられる国際教室を開室、可児市は無償で日本語を学べる施設を設立し、ここで学んだ子どもたちが小中学校に編入する仕組みを作った。
 しかし複雑な事情を抱える外国籍の子どもたちを学校につなぎとめていくのは決して簡単ではない。通常クラスになかなか馴染めず登校しなくなる子、幼い姪の世話で学校を休まざるを得ない子、コロナ禍で親が雇い止めになり高校進学をためらう子などに対し、彼らをなんとか卒業させてやりたいと日々奮闘している現場の教師たちの姿が印象的だ。この春卒業した315人のうち外国籍の子どもは53人。生徒指導の先生は「全員に卒業証書を渡せたのが嬉しい。君の居場所はここにあったんだよと伝えたい」としみじみ語る。
 これからの日本が進むべき道を考えるうえで、この番組が可児市の中学校の実践を1年にわたって丁寧に検証した意義は大きい。国籍に関わらず、教育とは人を尊重し、自尊心を育むことから始まるものだということを教えてくれた気がする。(細井尚子)

★「GALAC」2020年9月号掲載