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【ギャラクシー賞テレビ部門5月度月間賞】-「GALAC」2020年8月号

有吉の壁
「笑いの壁に挑む!激闘2時間SP」
5月6日放送/19:00~20:54/日本テレビ放送網

 純粋なお笑い番組を成立させることが難しいと言われている昨今、2015年から十数回にわたる特番を経て、今年4月からゴールデンタイムのレギュラー放送が始まった。その直前には緊急事態宣言が出され、通常の収録ができなくなりながらも、「お笑い」だけにこだわった放送を続けている。
 5月6日の2時間スペシャルで放送されたのは「スピーチの壁を超えろ! 日本カベデミー賞選手権」。芸人たちが映画賞の授賞式にいそうな俳優になりきり、架空の映画に関するインタビューに即興で回答していくというもの。ノミネートされた『ヨゴレを落としただけなのに』の西川景子や『万引き大家族』のみみみりんといった“俳優”たちに司会の有吉弘行が「ミュージカルシーンを再現してください」「激しいアクションシーンがあったそうですけど?」「あの名台詞をお願いします」など、即興でムチャぶりの質問をしていく。受賞すると、スピーチを行うのだが、ここでも有吉が「笑って泣きたいですねえ」などとプレッシャーをかけていく。それに対し、右往左往しながら脳をフル回転して応えていく様が面白い。今、ゴールデンタイムで“本業”である純粋なお笑い力を試される番組は数少ないため、芸人たちも苦しみながらも、楽しそうだ。そんななかでも友近は「ちょっと暴言吐かせていただきます。監督の嘘つき。最後まで演出するって言いましたよね?」と即興で監督が亡くなったという設定を作り上げ、ベテランの貫禄を見せつけた。
 この回の放送以外でも、リモート収録を巧みに利用した「おもしろ自宅公開選手権」など工夫をこらして笑いを届けている。シソンヌ、ジャングルポケット、パンサーといったコント芸人たちに光を当て、番組から生まれたチョコレートプラネットの「TT兄弟」がブレイクしたり、とにかく明るい安村のようにこの番組によって再評価を受けている芸人の存在も「有吉の壁」が成功している証だろう。笑いにこだわる有吉とスタッフたちの志の高さで、コロナ禍でもびくともしないお笑い番組を作り上げている。(戸部田 誠)

新日本風土記スペシャル
「松本清張・鉄道の旅」
5月8日放送/21:00~23:00/日本放送協会 NHKエンタープライズ かわうそ商会

 東京駅を出発する「あさかぜ」は、東京から九州へとひた走る夜行寝台特急。のちに“ブルートレイン”として人々の憧れを集めた列車の代表だ。松本清張が代表作のひとつ、日本の時刻表ミステリーの出発点ともなった『点と線』を書いたときは、まだブルーの20系客車ではなかったが、都市と都市とを結ぶ長距離列車の持つ独特のセンチメントは、ミステリーに実によく調和する。
 列車はただ人を運ぶだけではない。さまざまな人生と人生とを出会わせ、また人によっては列車が人生そのものでもあったりする。いつもは一つの場所と物事とに腰を据えて、そこでさまざまな人生を追いかけてゆくこの番組が、今回は松本清張の作品に乗って、日本中の人生を巡る旅に出る。旅を愛し、社会を旅し、歴史を旅した作家の、その作品の足跡を巡ってゆく。あの名作の舞台や、その秘話を探り出すことはもちろん、松本が感じたであろう人の匂いや、人との関わりが語られてゆく。
 するとそこには鉄道が、ただ人と物とを運ぶ道具なのではなく、それ自身が社会や時代を、そのなかを生きる人々を語るものなのだということが浮かび上がってくる。松本清張は、舞台として、道具として鉄道や地域を登場させているわけではない。鉄道の持つ独特の感情を読み込み、鉄路の先で出会った数多くの人生たちと会話し、そこを愛し、そして手に入れたものを描くことで多くの作品を紡いでいたのだということが見えてくる。
 思えばこの国は明治以来、鉄道と共に歩んできた。長距離近距離を問わず鉄路で地域をつないできた。のちに自動車や航空機が発達しても、なぜか人々はいつも鉄道に思いを寄せる。駅と駅、街と街とを結ぶ鉄道という「メディア」そのものが、日本独自の文化と社会とを作り上げてきたのかもしれない。古代史に造詣が深く社会派と言われた偉才・松本清張は、そんなこの国の深層構造を見ていた。それを再発見させてくれる良質な紀行である。(兼高聖雄)

ザ・フォーカス
「ムクウェゲ医師の終わらない闘い」
5月17日放送/25:20~25:50/TBSテレビ

 コンゴ民主共和国で性暴力の被害者救済に取り組みノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師。その活動を追い、昨年2月に放送された番組の続編だ。昨秋、来日した際の講演会の模様や新たなインタビューを織り交ぜ、アフリカの片隅で起きている悲劇が日本と無関係でないことを突きつける。
 コンゴでは、携帯電話などに使われるレアメタルが豊富に採掘され、それを資金源にしようと武装勢力が鉱山周辺の村々で女性を組織的にレイプ。家族にもそれを見せて辱めを与えることで恐怖を植え付け、採掘を牛耳っている。レイプ被害者は40万人以上に及び、医師が20年にわたって救援活動を行う病院には、年間約3000人が運びこまれる。
 被害者は生後半年の赤ん坊から90代まで。聞くに堪えない話の数々はまさにこの世の地獄だが、200人以上を暴行した犯人は「命令を断れば自分が上官から暴力を受ける」と口にし、自分が処罰されていないことも明かした。
 最大の問題は、国連も被害認定しているにもかかわらず、10年経ってもこうした犯罪の責任者が処罰されずに権力の座に居座り続けていることだ。現地で被害者支援を続ける弁護士は裁判すら開かれない現状に「もううんざりだ」と怒りを露わにする。まさに無法地帯で、それで国家と呼べるのか強い疑念をかき立てられた。それなのに「国際社会は何もしていない」と業を煮やす医師。「コンゴで起きている戦争は、女性の体の上で行われる」。ひりひりするような医師の言葉を借りて取材者の憤りがストレートに伝わってきた。
 “リタ”と日本語を口にした医師は、利他の精神こそが日本の美徳と捉え、期待を寄せる。官民共々もはや見て見ぬふりはできないが、では何ができようか。国際社会が非難したところで状況は変わるまい。現地の女性が犠牲になって作られたかもしれないスマホを見つめ、しばし考えさせられた。前作も合わせ、内向き志向に陥る現代日本人の目を見開かせるルポ。これぞ放送の役割と言える出来栄えだ。(旗本浩二)

NNNドキュメント’20
「クリスマスソング 放射線を浴びたX年後」
5月24日放送/24:55~25:50/南海放送

 核実験で被爆したマグロ漁船は1954年の第五福竜丸のみならず、その年だけで1000隻近くが被災し、しかもビキニ環礁の1回にとどまらず、中部太平洋各所で米英両軍が100回を超えて行ったことを、伊東英朗ディレクターはライフワークとして16年もの間追いかけている。2012年のNNNドキュメント’12「放射線を浴びたX年後」第2弾では福島第一原発事故で改めて注目され、それまでの7回のローカル放送や劇場映画も評価対象となり、第50回ギャラクシー賞報道活動部門大賞を受賞した。筆者はこの「制作者と語る会」で本作品を担当させてもらい、誠実で物腰の柔らかいご本人に接することができたが、その雰囲気とは対照的にますます鋭く、冴えわたってきている。
 取材先は自局エリアの隣県、高知のマグロ漁船に始まり、日本全国からアメリカ、そしてこのシリーズ第5弾はイギリスまで拡大した。番宣にも使われた衝撃的なキノコ雲と無防備な英兵が写るプライベート写真30枚なども貴重な取材成果となった。 
 他方、今回は特に音の使い方に注目したい。ますます生存者が少なくなる日本人漁船員と英国人兵士の証言はもとより、英兵が歌ったクリスマス島の歌そのものに存在感がある。詳細を知らされず核実験に従事して早逝した仲間たちを目にし、「政府が俺たちにしたことは最低だった 核実験は地獄だった」と歌っているのだ。さらに、英国ロケで収録したこの歌を主役として、本題を邪魔せず静かに使われている脇役のBGMも秀逸だ。
 オープニングや水爆の映像で流れた『7月4日に生まれて』のテーマ曲、後半の核実験に携わった英兵が健康不安を訴える場面で使われた『死刑台のエレベーター』のなかの曲などにより、核実験は日本のマグロ漁船や、実験場となった中部太平洋の住民のみならず、実施した側の兵士にまで深刻な被害を与えた非人道的な戦争犯罪であり、殺人行為であったと訴えている。浜野謙太のナレーション起用も成功。実現すれば3回目となる劇場映画にも大いに期待したい。(福島俊彦)

★「GALAC」2020年8月号掲載