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【ドラマのミカタ】-「GALAC」2020年7月号

「質より話題性」が浸透するか
「M 愛すべき人がいて」(テレビ朝日)

木村隆志

ドラマが好きな人ほどアレルギーがあるのかもしれない。知人のドラマフリークや専門家に話を聞いても、「ただのネタドラマ」「見る価値なし」なんて酷評ばかり。その理由には登場人物、演技、セリフ、演出などほぼすべての要素が挙げられた。しかし、ネット上では最大の話題作となり、SNSのコメント数も、メディアの記事数も他作を圧倒……というより、多くの春ドラマが延期に追い込まれるなか、唯一の話題作となった、と言ったほうがいいだろう。ともあれテレビマンたちにとってこの結果は無視できないはずだ。はたして「M」とはどんな作品なのか、あえてクソ真面目に考えてみる。
同作は浜崎あゆみの自伝的小説を実写化したドラマであり、バラエティが主戦場の鈴木おさむ氏が脚本を手がけている。もうこの段階でドラマ好きが離れてしまいそうだが、いざ放送が始まってみると、ブツブツ文句を言いながらも結局見てしまう。80年代大映ドラマと90年代Jポップ、ドラマとコント、昭和と平成。これらをフュージョンさせた脚色はいかにも鈴木氏らしく作為的だが、本人が「大映ドラマ」などと公言しているところが新しい。「浜崎あゆみの成功だけでなく、大映ドラマであることも最初からSNSでネタバレしてしまおう」という新しいPR手法にも見える。
ここまでの結果として、好き嫌いはさておき、大映ドラマを楽しんだ40代以上、90年代Jポップを聴いて育った30代、スマホ片手にツイートしながら見る20代以下のすべてが見られる作品となっている。視聴者の嗜好が細分化される一方の今、最も難しいことであり、当作はそこを目指したトライだったのは間違いないだろう。つまり確信犯的な仕掛けであり、名より実を取ることを選んだのではないか。だから、「演技がどう」とか、「伏線が張りめぐらされ」とか、「心の機微を」とか、作品の質で批判している人はナンセンス。いや、不寛容に見えてしまう。「アユやエイベックスがよくOKしたね」なんて声も同様で、端からリアリティを追求していない作品にケチをつけるほうが不自然だ。
かくいう私自身、当作が特に好きなわけではないが、話題になることを最優先させたドラマがあってもいいと思うし、それが「令和の潮流になるかも」とも感じている。大映ドラマ風の恋愛も、コントのようなキャラクターも、懐かしの音楽も全部ぶち込んで、「好きなように楽しんで」と委ねる形は視聴者に優しいからだ。ゆえに放送中断は残念だったが、当作ならシレッと戻ってきてやらかしてくれるだろう。

~著者のつぶやき~
ちゃんとイニシャル「TK」もいるし、TRFっぽい「USG」も、ELTっぽい「OTF」も登場。視聴者が絶対にわかる形にしたことも確信犯であり、「“M”は田中みな実のM」の声もあるなど、何かとアルファベットで遊んでいる。

★「GALAC」2020年7月号掲載