「史上空前!!笑いの祭典
ザ・ドリームマッチ2020」
4月11日放送/19:00~21:54/TBSテレビ
2013年まで新春特番として毎年放送されていた「ザ・ドリームマッチ」が7年ぶりの復活。フィーリングカップル形式で新しいコンビが生まれ、新ネタを披露――という変わらないフォーマットでこの番組が月間賞に選出された背景には、この数年で顕著になった芸人側の変化と、芸を楽しむ視聴者の変化があった。
「ザ・ドリームマッチ」の楽しみは、フィーリングカップル部分の悲喜こもごも、メイキングで見えてくるネタ作りと人間関係、そして本番のネタとさまざまだが、今回は写真撮影のコントで優勝を飾った秋山竜次(ロバート)×ノブ(千鳥)をはじめ、純粋にネタを楽しめるコンビが多かった。その理由として指摘されたのは、テレビで「若手」とされる期間が長くなり、芸歴を重ねても単独ライブを続け、ネタ作りに力を入れる芸人が増えているからではないか、ということ。ゲストを呼ぶことも多い劇場での活動で、柔軟なネタ作りの力が養われているのかもしれない。
そして、視聴者の側は、よりフィーリングカップルの部分を楽しめるように進化している。ここ数年、テレビやラジオで芸人自身がお笑いを分析することが増えた。その結果私たちも、誰が誰をどのように評価しているかなんとなくわかっているし、自分でも芸人のスタイルを分類し、強みを見きわめることができるようになった。並んだ20人の芸人たちの上に、能力のパラメーターが見えるようになったのだ。ある芸人が自分の能力をどう評価し、何を求めているのか。実現した組み合わせで何が生まれたのか。その視点を手にした今、「ザ・ドリームマッチ」はいっそう面白い。
最後に岩井勇気(ハライチ)×渡辺直美の「醤油の魔人、塩の魔人」について。バズらせたいという岩井の「意外な思想」で作られたこのコントは狙い通りバズったし、普段のテレビでは見られない岩井の異能が発揮された。この世に「渡辺直美に醤油の魔人になってもらって、自分は塩の魔人になって歌ネタをやるんだ!」と心に決めている人がいて、それを実現する場があるって素晴らしい。次の開催が楽しみだ。(藤岡美玲)
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NHKスペシャル デジタルVSリアル
(1)「フェイクに奪われる“私”」
(2)「さよならプライバシー」
4月5日、12日放送/21:00~21:50/日本放送協会
「水道水にコロナ」「マスクの次はトイレットペーパーが消える」。ウイルスのように拡散するデマが意図的に利用されたら。フェイク技術とAIの進化でモンスター化するフェイクの現状を全2回で追った。
冒頭、メキシコの群衆が1人の若者を殺害する映像にショックを受けた。彼を凶悪事件の真犯人とするデマ情報がSNSで猛スピードで拡散され、正義感に血が上った人たちが群衆化。真偽も確かめないまま無実の人間を襲った。驚き、嫌悪感、怒りを刺激するフェイク情報は真実の20倍の速さで拡散するとし、その厄介さは、誰にも等しく向けられていると訴える。
実際、生活の根幹である選挙はフェイクの主戦場だ。米大統領選や台湾総統選を入り口に、「いいね」の水増しやリツイートの大量拡散がいとも簡単に行われる手口が描かれた。「大統領候補が兄弟を殺した」などのデマを世論化して稼ぐマーケティング業界の“フェイク王”は、よく考えずにリツイートする現代人に笑いが止まらない。「みんながあと1分だけでも記事を読めば、フェイクは何の影響も与えないのに」。説教強盗に真理を突かれたようで、もやもやする。
ウソをでっち上げるフェイク動画が、真贋の見分けがつかないレベルに進化したこともフェイクを増長させる。対抗手段を探る取り組みが「よく考える大事さ」というアナログベースな現状ももどかしい。身に覚えのないことで、次に群衆の標的になるのは自分かもしれないというリアルが分厚く忍び寄る。
その際、自分自身を証明するプライバシーも虫の息だ。検索履歴、ショッピング履歴、位置情報、SNSの投稿データから、その人の分身「デジタルツイン」を作って会いに行く実験。顔や個人情報はおろか「彼女いない歴」や「近々体調を崩す」ことまで的中できていて、技術が悪用された実例も身近だ。
個人のプライバシーは丸裸にされ、素手でフェイクと戦わなければならない時代。恐怖を感じる一方で、1時間後にはネットで普通に買い物をしている自分に、どう折り合いをつけるべきか悩む。(梅田恵子)
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ETV特集
「7人の小さき探究者~変わりゆく世界の真ん中で~」
4月18日放送/23:00~24:00/日本放送協会
2020年2月27日の夕方、新型コロナウイルス対策として全国の小中学校に臨時休校の要請が出された。その翌日、宮城県気仙沼市の小泉小学校で行われた「6年生を送る会」。会の終わりに校長先生から「今日で学校はおしまいです」と一方的に休校を告げられた瞬間の子どもたちの顔を、カメラが遠くから捉える。一人ひとりのその表情が、何よりも雄弁にこの臨時休校の乱暴さを伝えていた。
東日本大震災をきっかけに始まった、対話を通じて子どもが考える力を育む授業「p4c」(Philosophy for children/こども哲学)。全国に先駆けてこの授業を取り入れた小泉小学校の6年生7人への密着取材中に起きた、卒業直前の突然の休校。その現場に偶然立ち会うことになった取材クルーは、そのまま静かに子どもたちの姿を記録していく。
「大人の意見だけで本当に休校を決めてしまっていいのだろうか」「子どもも意見を言いたいです」など、ディレクターからの質問に本音で答える子どもたち。そして残された短い時間で「どうして子どもの意見は聞いてもらえないのか」というテーマについて《対話》を行う。この短い対話こそが、彼らにとって本当の授業、自分の頭と心で考える授業のように感じられた。番組としては新型コロナの影響によって方向転換せざるを得なかったが、逆にそのことが元々のテーマである《対話》の授業の重要さを浮き彫りにしたともいえる。
この先、新型コロナが社会に与えた影響に関する検証番組は数多く作られていくだろう。けれど、あの瞬間とその後の子どもたちの表情や言葉を、ここまでの距離感で捉えた映像は二度と撮れない。そして学校が再開され日常が戻ってくるにつれて、子どもたちのなかからも、あのときに感じた理不尽さとそれに対する憤りは少しずつ薄れていくかもしれない。それでも、ここにその瞬間を切り取った映像が残っている。たしかに存在した7人の小さな声が記録されていたことを感謝したい。(岩根彰子)
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情熱大陸
「河岡義裕 ウイルス学者」4月12日放送
「坂本史衣 感染管理専門家」4月19日放送
23:00~23:27/毎日放送 いまじん オルタス・ジャパン メディア・メトル
人類は100年ごとにペスト、コレラ、スペイン風邪、新型コロナと試練を受け、多くの犠牲を払いながらも学者や医療従事者はそれを学習し、われわれを生き残らせた。このことに改めて感謝しなければならないと感じた「情熱大陸」を月間賞に推した。NHKスペシャルなども追ったクラスター対策班の東北大学の押谷仁教授や北海道大学の西浦博教授にも感謝するが、37.5℃以上にならない熱量で「淡々」と紹介された別の2人のスペシャリストたちの姿も感動的だ。
インタビュアーの「疲れないですか?」の問いに、「僕は何でも淡々とできるから」と答える一人目の河岡義裕はインフルエンザウイルスやエボラウイルスの人工合成に成功したウイルス学の世界的な権威だ。ただ、「日本は大丈夫という幻想は大間違いで、ウイルスは人を選ばない」の言葉は厳しく、「スペイン風邪以来医学が100年がんばっても、感染防止は『近づかないこと』というのが情けない」と怒りを露わにする。冷静さのなかにある執念を感じさせ、やるべきことを淡々とやってのける学者の姿を描いた。
二人目の坂本史衣は聖路加看護大学卒業後、アメリカの大学院で学び、国際的な感染予防・管理の認定資格を取得したエキスパートで、「このウイルスって、気づかれないままひっそりと病院のなかに入り込むのが上手」と、事もなげに説明する。「死ぬ人を出さないために淡々とやるのが自分の仕事」ともいうが、見えない敵と闘う聖路加国際病院内各セクションの医療従事者が、患者には出せない不安を彼女には見せて、心から頼りにしていることが伝わってくる。
「希望はありますか?」の問いに、「行動自粛すれば必ずおさまる」「前に進めば終わりに近づく」と2人が答えて番組は終わる。しかし、リウーやタルーの保健隊も淡々としてしかし力強かったカミュの『ペスト』が改めて注目されている本当の理由は、ペストも暗喩だったナチズムも新型コロナも、実は地球上からなくなっていないことだ。河岡教授の「年単位の長期戦になることは確か」を肝に銘じよう。(福島俊彦)
★「GALAC」2020年7月号掲載