オリジナルコンテンツ

【海外メディア最新事情】-「GALAC」2020年6月号

新型コロナウイルス
韓国の対応措置は?

ジャーナリスト
安 暎姫

迅速に動く韓国政府

1月20日、韓国で初めての新型コロナウイルス感染者が発見されてから、韓国は迅速に動き始めた。1月23日、韓国外交部は、中国・武漢市に旅行警報2段階である「旅行自制」、武漢を除く湖北省全域に5段階である「旅行留意」を発令。同日、疾病管理本部は在中韓国民保護活動と現地状況把握のため、疫学調査官を中国の現地公館に派遣。行政安全部は全国民に携帯電話を通じて感染症予防関連の安全案内メッセージを発した。
その内容は事細かで、自分の所在地近くで感染者が現れたとか、感染後どの経路で人と接触したのかなどを知らせてくれる。毎日、時間に関係なく警報が鳴るので、当初はびくびくしたが今ではすっかり慣れてしまった。
1月24日、韓国内で2人目の感染者が確認されると、25日、外交部では武漢をはじめ湖北省全域への旅行警報を撤収勧告に引き上げた。
ここまでは、感染者は出ても微々たるもので、死亡者もいなかったため、韓国人も政府も気を抜いていた。しかし急転直下、2月に入ると大量の感染者が発見されるのである。
2月19日、大邱・慶北地域に多数の感染者が確認された。そのほとんどが「新天地大邱教会」の礼拝堂で発生したことが判明。新天地教団への非難が集中し、社会的イシューとなった。
このことは宗教界全体に影響を及ぼした。韓国では、キリスト教、仏教などほとんどの宗教で日曜礼拝のために信者は教会や寺院を訪れる。韓国カトリックは、史上初めてミサを全面中断した。仏教界も法会を中断、キリスト教はケーブルテレビなどで礼拝を放送した。
新天地教団は現在、大邱の小商工人250余名から損害賠償訴訟を提起されている。それだけではない。コロナウイルス拡散懸念で閉鎖された施設に同教団のイ・マニ総会長が出入りしたということで、警察から「感染症予防法違反」で告発された。同教団がキリスト教の異端であることや、信者たちが各地に散らばったせいで韓国各地にウイルスを拡散させてしまったこともあり、非難が集中している。
2月半ばから急激に感染者が増えたせいで、3月2日からの新学期を3月9日に遅らせ(その後4月16日に変更)、塾なども休業に追い込まれた。危機段階も「警戒」から「深刻」に引き上げられた。大企業では在宅勤務を勧告。大学をはじめ小中高では入学式を省略、オンラインでの授業を開始した。
韓国はネット環境が整っているため、授業や会社の事務関係は難なくこなせる。住民登録証は一人ひとりに番号が割りふられ、さらに指紋も確認できるため、徹底した管理ができる。また携帯電話の普及率も高く、政府の指示や疾病関連情報を事細かに受信することが可能だ。

「マスク5部制」を実施

3月5日、政府はマスクの品薄状態を踏まえ、マスク需給安定化対策として「マスク5部制」を実施した。内容は、週の指定日に一人当たり最大2枚まで公的マスクを購入できるというもの。マスクを購入する場所が指定薬局だけと決まっており、購入のためには住民証や免許証、パスポートの提示が必要。同居する満10歳未満の子どもや80歳以上の高齢者の分を代行購入するためには本人の身分証と住民登録謄本まで提示しなければならない。これには、マスク2枚を買うために1枚のマスクを使って外に出ること自体がナンセンスだという批判も出た。
そこまでしても国内の感染者が後を絶たないのは、海外からの帰国者、渡航者が各地に拡散させた例もあるからだ。
米国留学中の学生が米国の学校閉鎖に伴い、帰国。2週間の隔離を実施せず、親子で済州島へ旅行し、それまで感染者ゼロだった済州島を汚染させた。旅行初日から症状があったにもかかわらず、4泊5日の旅行を強行。親子と接触した済州観光業者20カ所が臨時休業に追い込まれ、97人が生業を放棄し隔離に入った。観光業者たちは損害賠償訴訟を親子に提起し、また、済州特別自治道としても親子によって2次感染が出た場合、刑事訴訟も辞さないとしている。
4月10日、新規の感染者が50余日ぶりに20人台に減少した。政府は肯定的な信号とみるとしながらも、3月22日から実施したソーシャル・ディスタンシングを19日まで延長するとした。
最後に15日の総選挙について。今年の総選挙から選挙権が19歳以上から18歳以上と、年齢が下げられ、選挙に関する教育も授業と同じくオンラインで行われた。新型コロナウイルスが横行しているなかで行われた今回の選挙では、候補者たちも握手などはできるだけ控えていた。筆者も道端で候補者に会ったが、あまり近づきすぎないようにお互いが気をつける感じだった。
マスコミは選挙前から投票場では必ずマスクを着用することと、臨時休日にかこつけての外出を自制するよう呼びかけていた。投票場に行くと1メートルの等間隔で表示があり、それに従って前へ進む。投票箱近くになると、係の人が体温を測り、ビニール手袋を渡された。フォトIDを見せ、確認のためにマスクを下ろすがほんの短い時間だ。投票後、出口にはたくさんのビニール手袋が捨てられていて、環境にはよろしくないのではと思ったが、新型コロナ感染不安のなかでも、ひとまず安全に選挙は行われたのだった。

~著者プロフィール~
アン・ヨンヒ ソウル在住。日韓の会議通訳を務めながら、英語をはじめとする多国語の通訳・翻訳会社を経営している。ネットマガジンの『JBpress』で韓国文化について連載中。

★「GALAC」2020年6月号掲載