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【ドラマのミカタ】-「GALAC」2020年5月号

胸キュンはプライム帯でもイケる
「恋はつづくよどこまでも」(TBSテレビ)

木村隆志

この原稿は最終話を見る前に書いているが、正直これほどの話題作になるとは1ミリも思っていなかった。毎期ドラマの書き手が集まる座談会を2媒体で行っているが、どちらでも話題にあがらなかったほどのノーマーク。失礼ながら「今の視聴者はこういうドラマが好きなの?」という疑問はいまだ完全に拭えていないが、ヒットの理由はそこかしこに見えてきた。

当作は運命の恋を信じるまっすぐな新米看護師と、容姿端麗・頭脳明晰だが超ドSな医師のラブストーリー。いわゆる無理めな男に冷たくされながらも恋心をぶつける“勇者”と、周囲から恐れられている冷徹なエリート“魔王”の恋を描いた……典型的な女性向け漫画の設定であり、逆に言えば「その一点突破」とも言える。さらに主演は22歳でプライム帯初主演の上白石萌音であり、主演実績豊富な他枠の人気者と比べると不安のほうが大きかった。そもそも「人の命を救う医療現場であるにも関わらず、恋に一直線」という軽いノリは平成初期によく見られたものであり、ともすれば「時代遅れ」と酷評されそうなコンセプト。ライフスタイルや娯楽が多様化し、恋の優先順位が下がったと言われる今、「この作品で勝負しよう」と決めたプロデューサー自身が勇者に見えていた。

ともあれ、ヒットの最たる理由は、意図的に仕掛けられた胸キュンシーンだろう。毎週「そろそろ来るかな」とわかっていても、視聴者の期待を超えるシーンを見せた演出と佐藤健の勝利とも言える。ただ、当作のような胸キュンを前面に押し出した物語は、嗜好性の高さから「映画か動画配信などの有料コンテンツ向きで地上波なら深夜」と言われていた。それだけにプライム帯でやり切り、これほどの支持を集めたことに驚いている業界人は多いはずだ。

そんな胸キュンシーンを支えていたのが、なかなか進展しないスローペースの恋。第1話で身体の関係に至るハイペースの作品が多いなか、当作は第4話の最後にキス、第5話の最後で交際宣言という、それこそ平成初期のようなスローペースであり、王道の恋愛ドラマだったのだ。

また、医療系が6作もそろったほか刑事ものやミステリーを含め、冬ドラマ全体がシリアスなムードで覆い尽くされ、当作の明るさが際立つ状況になったことも大きい。新型コロナウイルスによる閉塞感も含め、「『恋つづ』を見て明るい気持ちになろう」と思った人は多かっただろう。これだけ明るく女性の支持を集めたドラマのスポンサー受けが悪いはずはなく、ひとつの指針となるべき作品なのかもしれない。

~著者のつぶやき~
明るいムードを支えていたのは日浦総合病院のメンバーたち。「新米看護師の恋をみんなで応援しよう」という明るい職場に癒されていた視聴者は多い。命をめぐる職場だからこそ底抜けの明るさがまぶしかった。

★「GALAC」2020年5月号掲載