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【海外メディア最新事情】-「GALAC」2020年5月号

新型コロナウイルス、
メディア業界直撃

ジャーナリスト
津山恵子

株価暴落、景気後退

日本より遅れて1月下旬に米国に上陸した新型コロナウイルスは、3月に入って感染の拡大が加速している。感染者が増えているだけでなく、ニューヨーク市場のダウ平均株価は暴落し、「弱気相場」に突入した。同市場では2008〜09年の金融危機以来だ。新型コロナウイルス危機イコール経済危機につながる可能性が高まり、メディア業界も打撃を受けている。
ダウ平均は、史上最高値を付けた2月12日と比べ、下落率が、弱気相場入りの目安とされる2割以上を超えた(3月12日現在)。
メディア業界では、エンターテインメント業界の時価総額が3月3日までの1カ月で6・4%に当たる918億ドル下落、テクノロジー業界は7・1%に当たる2818億ドルが失われた(バラエティ誌調べ)。エンターテインメント業界は、ソニー、ウォルト・ディズニー、バイアコムCBSなどの下げ幅が大きい。テクノロジー業界では、グーグルの親会社アルファベット、フェイスブック、アップルなどの時価総額が6〜9%と大幅に下落している。
AT&T、コムキャスト、ベライゾン、チャーターなどペイTV事業者は、今後さらに株価が下がる可能性がある。景気が後退期に入った場合、ペイTVを解約する消費者が出てくるためだ。すでに、自宅勤務などの拡大で収入が通常より下がる家庭もあり、ペイTVへの打撃は避けられない。
広告業界への影響も多大だ。モフェットネイサンソンのアナリスト、マイケル・ネイサンソン氏は、同業界の収入は10・6%に当たる260億ドルの減収になるという見通しを発表した。スポーツの試合などが次々に中止・延期され、広告が売れなくなるのは必至だ。
米プロバスケットボール協会(NBA)は、選手に感染者が出たのをきっかけにシーズンの試合を無期限に延期した。米メジャー・リーグ・ベースボールは、各チームの春キャンプ中止を検討。米アイスホッケーリーグも次シーズンについては検討中だ(すべて3月12日現在)。これらスポーツの番組は、NetflixなどOTT業界に視聴者を奪われているなか、テレビ業界にとっては最大の広告収入源だったが、その番組広告が失われることになる。
さらに、シーズン途中で無期限延期となったNBAなどには、テレビ局は放送権料は支払わなければならない。広告の減収を補う有効策がないところに、痛手となるのは確実だ。
今年最大のスポーツイベント、東京五輪が開催されるのかどうかは、米国で放映権を持つネットワークテレビ局のNBCにとって重要な経営問題となる。トランプ米大統領は3月12日の記者会見で、こう述べた。
「安倍首相はうまくやっているが、東京五輪は、ひょっとしたら1年延期するべきかもしれない。観客がいないところでは開けない」
広告の不振は、最初にグーグルとフェイスブックを直撃する。デジタル広告は、テレビの広告と比べると調整するのが簡単だからだ。グーグルとフェイスブックは、デジタル広告の約7割を占めるとされている。
ただ、広告収入に影響が表れる期間は短いとするアナリストもいる。
「新型コロナウイルスの影響で、広告収入の減少は起きる見込みだが、脅威が去れば通常に戻るだろう」(同月11日、ムーディーズのシニアバイスプレジデント、ニール・ベグリー氏)

大統領選にも影響

米国で今年最大のイベントとも言える大統領選挙にも影響が出ている。現在、民主党の指名候補を一人に絞り込む予備選挙の真っ只中だが、ジョー・バイデン前副大統領(77)とバーニー・サンダース上院議員(78)は3月10日、選挙集会を中止した。集会は、広い国土に散らばる有権者を引きつけるのに重要なイベントで、時に数万人を集めるサンダース氏にとっては、ダメージがありそうだ。集会が開かれないことで選挙需要を期待している地域経済には影響が出る。
候補者によるテレビ、ラジオ、デジタルでの政治広告は、候補者陣営に選挙資金が集まっている限りは、極端に減ることはない見通しだ。特に、予備選挙から撤退したマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長は、バイデン氏を支持し、選挙活動を資金的にも支えるとしている。億万長者のブルームバーグ氏は自分の選挙戦で、プライムタイムに3分間の広告枠をネットワークテレビ局のCBSとNBCで買い、関係者を驚かせた。推定で、一本に対し125万〜300万ドルを支払ったとみられる。
最後に、全米放送事業者協会(NAB)は同月11日、4月に予定していた全米最大の放送業界ショー「NABショー2020」を開催しないと発表した。「関係者の健康と安全を考慮した結果」というのが理由で、「いくつかの選択肢を検討している」としている。
こうした大きなイベントの中止・延期も、広告業界だけでなく、エンターテインメント、旅行・航空業界に大きな打撃を与えている。また、イベントごとに雇われているフリーランスのフォトグラファーやビデオグラファーの仕事がなくなり、将来の見通しが立たない深刻な事態となっている。

~著者プロフィール~
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には、共著『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。

★「GALAC」2020年5月号掲載