取り戻した攻めのブランディング
「10の秘密」(関西テレビ)
木村隆志
今冬はプライム帯で放送される16作中12作が刑事・医療ドラマという偏りが見られるなか、必然的に残り4作への期待値が高くなる。とりわけ異彩を放っているのが「10の秘密」「テセウスの船」の2作。ともに現在、絶滅危惧種となっている長編ミステリーであり、刑事・医療ドラマに辟易した視聴者にとっての希望となっている。序盤の段階で、より称えておきたいのは「10の秘密」。「テセウスの船」が原作漫画という保険と、タイムスリップファンタジーという禁じ手を用いた一方、こちらは現代が舞台のオリジナルであり、志の高さを感じさせる。
原作のないオリジナルだからこそ、ネット上では初回の段階から「犯人は誰?」「〇〇があやしい」などの考察合戦がスタート。まだその声は大きくないものの、昨年反響を集めた「あなたの番です」のような楽しさを視聴者に与えている。ただ当作は、「あなたの番です」のようなエキセントリックなキャラクターやショッキングな殺人などのわかりやすい仕掛けはなく、心理描写を押し出した静かなトーンの物語。いわば、じっくり楽しむ大人向けの長編ミステリーであり、それだけに視聴率に直結しづらいのが、なんとも歯がゆいところだ。
カンテレ制作の火曜21時枠は、2016年秋に22時枠から移動。「嘘の戦争」「CRISIS」「明日の約束」「僕らは奇跡でできている」などの挑戦的なオリジナルを手がけ、どの枠よりも攻めの姿勢を見せてきた。ところが昨年は、原作アリの「後妻業」「パーフェクトワールド」「TWO WEEKS」と、13年前の作品に頼った「まだ結婚できない男」を放送。手堅い戦略にもかかわらずすべて1桁視聴率に終わったことで疑問の声があがっていた。その点、刑事・医療ドラマばかりのなか、オリジナルの長編ミステリーは再び攻めの姿勢を感じさせる。視聴率こそ奮わないが、「カンテレは攻めている」というイメージこそがブランディングであり、いずれ大ヒット作に結びつくのではないだろうか。
カンテレ制作、脚本・後藤法子、演出/プロデュース・三宅喜重、プロデュース・河西秀幸の顔ぶれで思い出すのは、「銭の戦争」「嘘の戦争」。この流れで見ると、「『10の秘密』の主人公・白河圭太を演じるのは草彅剛が適任では?」と感じた人は少なくないだろう。草彅が演じるシングルファーザーも見てみたかった反面、向井理のそれも新鮮味がある。徐々に秘密が明らかになる中盤以降、向井の技量が問われるようなシーンが続くはずだ。長編ミステリーらしい尻上がりの盛り上がりを期待したい。
~著者のつぶやき~
誘拐、失踪、火事、隠蔽、裏金……ダークサイドな展開が続くが、それほど重苦しさを感じないのは、暴力や人が死ぬシーンを最小限に留めているから。この点でも刑事・医療ドラマ過多の弊害を感じてしまう。
★「GALAC」2020年3月号掲載