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【今月のダラクシー賞】-「GALAC」2020年3月号

AIひばりならイタコひばりのほうがまし!?
「第70回NHK紅白歌合戦」
(NHK総合ほか 12月31日)

桧山珠美

「紅白歌合戦」と掛けまして、「女性誌」と解きます。そのココロは……「オマケが豪華でしょう」。令和最初の「紅白」。何か新しさを見せてくれるのかと思いきや、新しさの象徴が「AI美空ひばり」だったとは。あの山下達郎をして、「冒涜です」と言わしめたAI美空ひばり。

そもそもは9月の「NHKスペシャル~AIでよみがえる美空ひばり」でやった最新のAI技術を使い、美空ひばりを現代に蘇らせたもので、目玉はこのために秋元康がプロデュースした新曲をAI美空ひばりが歌い、人々を感動させるか否かというところ。AI技術の最先端を見せるという意味で「Nスぺ」までは理解できる。が、それを「紅白」でやっちゃいますかね、という感じ。

百歩譲って「紅白」が初お目見えなら価値もあるが、「Nスぺ」ですでに見せているわけだし、千歩譲って、数あるひばりのヒット曲を歌わせて、ご本人の歌声と比較検証するならともかく、新曲を歌わせる意味がわからない。第一、そんなもので蘇らせたら、「紅白」でひばりの歌をカバーすることも多い天童よしみや島津亜矢の立場はどうなるのか。そうでなくても、演歌は年々縮小傾向にあるのに。AI美空ひばりなら「イタコ美空ひばり」のほうがまだまし。

その演歌についてもひと言いいたい。演歌は数字が取れないからと、後ろでジャニーズに太鼓を叩かせたり、踊らせたり。Mattのピアノで歌う天童よしみ、恒例のけん玉ギネス記録に挑戦しながら歌う三山ひろしなど……しみじみ味わってこその演歌なのに、テンポは速いし画面はゴチャゴチャ。これはもう罰ゲームに近い。地道にコツコツ歌ってきて、やっと念願の「紅白」に出場できたのに、こんな仕打ちをされるだなんてあんまりだ。

例外は石川さゆりと氷川きよし。石川は2002年から実に18回、『津軽海峡・冬景色』と『天城越え』を毎年交互に歌う無限ループ。氷川はいろんな意味で話題を振りまき、限界突破。だったらお為ごかしなことをせず、演歌枠は未来永劫この二人だけにすればいいのに。特別枠の松任谷由実やビートたけし、竹内まりやにはたっぷり時間を割き、正規の出場者のなかでも、2曲歌うものもいれば、メドレーやスペシャルバージョンを歌う人たちも。「紅白」に渦巻く“大人の事情”に興ざめだ。

大晦日にわざわざNHKホールまで行ったのに、中継の間は放置プレイでお気の毒な観客に成り代わって、「今月のダラクシー賞」を贈る。

~著者のつぶやき~
私のベスト3はMISIA、菅田将暉、氷川きよしでした。

★「GALAC」2020年3月号掲載