大ベテランの安全・安心作
「同期のサクラ」
(日本テレビ)
木村隆志
それにしてもわかりやすい作品だ。1話のオープニングでは、重い脳挫傷で昏睡状態の主人公・北野桜(高畑充希)を同期たちが見守っていた……10年後にこうなるということか。「私には夢があります」の決めゼリフ……最後に桜本人か、同期たちが叶えるのかな。同期の問題を1人ずつ解決する各話の物語……絆を育む過程を見せて感動を誘いたいのだろう。1話1年×10のフォーマット……ハッキリと決めておけば10年間の変化を見てもらえる。そしてダメを押すべく、終盤に流れる森山直太朗の『さくら』。
放送前から「ほとんどネタバレ」のコンセプトであり、結末は見えている……というより、あえて見せている。ここまで徹底されると、「今の視聴者はこれくらいわかりやすくて、安全・安心な物語のほうが好きなんだろ?」という確信犯的な仕掛けにしか見えなかった。
その仕掛け人は脚本家・遊川和彦。今作も過去と同様に「空気が読めないヒロイン」をベースに物語を組み立てているが、どうも様相が異なる。遊川は「女王の教室」「家政婦のミタ」「〇〇妻」「ハケン占い師アタル」らでミステリアスなヒロインを手がけてきたが、今作の桜は「純粋に夢を追う」「同期を大切にする」「祖父とFAXでやり取りする」隠し事なしのいい子。この明らかな変化が「書きたいから」というより、時代のムードに合わせた調整に見えるのだ。ただ、「あざとい」ではなく「面白い」と言わせ、視聴率も序盤こそ苦戦したものの中盤からは新作の首位争いに加わっている。遊川にしてみれば「してやったり」という心境ではないか。
しかし、ひたすらオリジナルにこだわり、視聴者を驚かせることの好きな脚本家が、ここまであけすけの物語を選んだことに一抹の寂しさを覚えてしまう。もちろん遊川だから現在の視聴者を満足させるクオリティで成立しているのだが、もともと連ドラは「先がわからない」「結末が読めない」ことが魅力のコンテンツ。近年は視聴者の気持ちに波風を立てない安全・安心な作品が大半を占めていることが、近未来の不安を募らせる。視聴者もそれを感じているからこそ、今夏「あなたの番です」の考察合戦があれだけ盛り上がったのではないか。
「わかりやすくなければ視聴者はリアルタイム視聴しない」「先が読めない物語は最初から見てもらえない」。この呪縛から抜け出せた作品が次の大ヒット作となるだろう。まもなく2019年が終わろうとしているが、「ハイリスク、ハイリターン」の姿勢で挑んだ作品は少なかった。業界として課題を持ち越したように見える。
~著者のつぶやき~
視聴者の高齢化が叫ばれるなか、20代の会社員にフィーチャーした物語は貴重。伸び盛りの若手俳優が競い合うように演じるシーンは、現在の連ドラに足りないエネルギーを感じる。こうしたわかりやすさなら大歓迎だ。
★「GALAC」2020年1月号掲載