NewYork
若者の3分の2が毎日OTT視聴
コンテンツを映画館でも
ジャーナリスト
津山恵子
ディズニー・プラスもついに参入
ネットフリックス(Netflix)を始め、オンラインでドラマシリーズや映画を見るオーバー・ザ・トップ(OTT)サービスは、視聴者数の拡大が続く。2019年11月には、注目の「ディズニー・プラス(Disney+)」も始まった。若者は、テレビ放送ではなくOTTを主に利用していることも調査でわかった。また、ネットフリックスは、巨額の資金をつぎ込んだ映画を全米の映画館でも上映し始め、20年のアカデミー賞受賞を狙っている。
調査会社ボーハウス・アドバイザーズは19年9月末、OTT視聴に関する調査結果を発表した。デジタル・メディア・ワイヤー誌が催したイベント「フューチャー・オブ・テレビジョン」の席上で、関係者を驚かせた。
調査によると、18〜34歳の67%がオンラインビデオをパソコン、スマートフォン、タブレット、スマートTVで「毎日」見ているという。まさに3分の2にあたり、全年齢でも50%に達する。
コンテンツを見る端末も、18〜34歳では、テレビが主流ではない。テレビがメインの端末と答えたのは、わずか19%で、最も多いのはスマホ(29%)、パソコン(21%)である。これが全年齢層では、テレビ(43%)、スマホ(16%)、パソコン(15%)となり、テレビは依然として主流ではあるが、それでも全体の半分を切っている。
次に、OTT市場を見てみよう。調査では、74%のインターネットユーザーが、サービスを利用しているという。ネットフリックスは59%と6割に達する勢いで、Amazonプライム・ビデオ(41%)、Hulu(32%)が続く。
娯楽大手ウォルト・ディズニーは11月12日、ディズニー・プラスのサービスを米国、カナダ、オランダで始めた。すでにネットフリックスの一人勝ちにも見える市場だが、ディズニー・プラスは「地殻変動」を起こすとされる。ディズニーアニメや『スター・ウォーズ』などのヒット作に加え、ピクサー、マーベル・スタジオ、20世紀フォックス、ナショナル・ジオグラフィックのヒット作も加わる。
果たして消費者は、これまでに受けていたサービスのほかに、ディズニー・プラスを契約するのだろうか。注目の契約料は月額が6・99ドルと、ネットフリックスのベーシック8・99ドルよりも割安だ。さらに、ネットフリックスにはない年間契約があり、69・99ドルであるため月額は5・8ドルとさらに安くなる。
前出のボーハウスの調査によると、OTTサービス利用者で、有料で契約してもいいと思っているサービスの数は平均で「1・6」となっており、消費者は一つ以上の有料サービスを契約する用意があることになる。
アカデミー狙う『アイリッシュマン』
一方で、先行しているネットフリックスは、ディズニーの本領であった劇場映画に参入した。同社は11月1日から、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ出演のオリジナル映画『アイリッシュマン』の限定劇場公開を始めた。第2次世界大戦後、全米トラック運転組合のリーダー殺人に関わったヒットマンの人生を、ギャング映画では第一人者のスコセッシ監督が撮影した。
ネットフリックスは18年から、劇場で先行上映する映画を十数本手がけている。その背景は、映画の最高の栄誉であるアカデミー賞を受賞するには、映画館で上映するべきだと考える人が多いためだ。こうして、ネットフリックスは、アカデミー賞にノミネートされるに足る数の映画館で上映し、「オスカー像」を得るレースになんとか食い込もうとしてきている。
この努力もあって、19年のアカデミー賞では、政治的混乱が続くメキシコの住み込み家政婦の日常を描いた『ローマ』が10部門でノミネートされ、監督賞を含む3部門で勝者となった。
大作『アイリッシュマン』は、11月27日からオンライン配信を始めた。限定的な上映で、映画館で見られなかった人、特に米国外の利用者がこぞってオンラインで見ることを期待しての戦略だ。
ボーハウスの調査結果やネットフリックスの先行上映戦略は、筆者が知る若者のライフスタイルを見ると、見事に整合している。若者は、ケーブルテレビなどを契約してテレビ放送を見たりはしない。ドラマシリーズや映画の話題作は、ネットフリックスかAmazonプライム・ビデオにあるオリジナル作品で、テレビ番組のタイトルはこの数年、聞いたこともない。ただ、彼らは『スター・ウォーズ』や『アイリッシュマン』などは、劇場で真っ先に見たがる。話題に乗り遅れないようにするため、劇場公開日は知っている。
さてテレビ局はどうしたらいいのか。HBOがOTTサービスできちんと契約者を獲得しているところを見ると、いいコンテンツがあれば、オンラインで有料で見せることができる。もはや、世界展開するネットフリックスやディズニー・プラスのようになるのは困難ではあるが。
~著者プロフィール~
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には、共著『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。
★「GALAC」2020年1月号掲載