「13年ぶり」の批判こそ愛の深さ
「まだ結婚できない男」
(関西テレビ)
木村隆志
13年ぶりの続編、しかも多くの人々から支持された作品なら、仕掛ける側も、演じる側も、勇気と開き直りが求められる。
支持された作品だけに、変化させると「なぜ変えた?」、前作を踏襲すると「工夫が足りない」と言われるリスクが高く、さじ加減が難しい。事実、主人公・桑野信介(阿部寛)の相手役が変わったことへの批判的な声は少なくないが、これは懐古主義というより、せっかちな見方によるものだろう。人気漫画を実写化する際の批判にも似ていて、たとえば前期の「凪のお暇」も、序盤では「漫画とイメージが違う」という批判が多かったが、黒木華、高橋一生、中村倫也らの好演もあって、徐々に収まっていった。近年、連ドラの優劣を1話のみで結論づけてしまう人が増えているが、ひさびさの続編や人気漫画の実写化に関する批判は、愛情の裏返しという可能性が高い。当作で言えば、「前作を意識しすぎ」「かわいげがない」と言われたい放題の新ヒロインも、見続けるうちに旧ヒロインとは異なる魅力に気づいてもらえるはずだ。
13年という歳月の経過は、「主演俳優・阿部寛の変化と現在地を感じる」という楽しみも与えてくれる。ネット上には阿部の見た目が変わらないことを絶賛する声が目立つが、本質はそこではない。桑野の表情や振る舞いを見ていると、13年間の経過、とりわけ人間的な成長と成長できないところを感じさせられる。それは阿部の技量が増したからこそできることではないか。阿部が健在な限り、今回のように相手役の女優を入れ替えながら、数年ごとの続編も可能だろうし、もしかしたら「令和の寅さんにしちゃおう」という声があがるかもしれない。
一方、作り手たちは、13年の経過をディテールで表現している。クラシック鑑賞に指揮棒を持たせたり、部屋の金魚を巨大化させたり、コンビニで買う飲み物を変えたり、パグへの愛が増していたり。これらの努力と遊び心は、視聴者の笑いを誘うとともに、SNSの反応に直結しているし、「作品も視聴者と同じように歳月を重ねている」という一体感を芽生えさせた。
今秋は「時効警察」も12年ぶりに復活。重大事件の時効が廃止されたことで「続編不可能」と言われていただけにファンを喜ばせた。来春には7年ぶりに「半沢直樹」の続編が放送される。ただ続編の必然性にはバラつきがあり、狙い通りの成果をあげられるかはあやしい。その点、当作のような「13年過ぎた今こそ未婚というテーマがハマる」というお宝が眠っていないか。改めて探してみる価値はありそうだ。
~著者のつぶやき~
基本的に毎年放送されるシリーズものは、「ずっと放送している作品」であり、「続編」とは思っていない。「ドラえもん」「サザエさん」のイメージに近く、制作体制から大きく異なるだけにメディアは分けて報じるべきだろう。
★「GALAC」2019年12月号掲載