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【座談会】2019年秋ドラマまとめ編

放懇公式ホームページオリジナルコンテンツ「座談会」第2弾

ギャラクシー賞マイベストTV賞プロジェクトメンバーが、
前回記事「2019年秋ドラマを語る!」で注目作として挙げたドラマを中心に感想を語りました。
2019年秋ドラマを総括します!

五輪と落語を融合させた「いだてん」に拍手

T:2019年も残すところわずか。前回の座談会で触れたドラマを中心に振り返ってみましょうか。まずは話題の中心となった「グランメゾン東京」(TBS系)から。
H:結局ハマってしまいましたね。ドラマのパワーをすごく感じました。
T:現実ではなかなか手が出ない高級フレンチを身近に感じさせてくれ、ドラマならではのマジックを見せてくれた。しかも料理を本格的かつ、美味しそうに描いてくれた演出も見事。チームでゴールを目指す姿も、とてもタイムリーだった。
H:前回の座談会では、よくも悪くもキムタクドラマと評したが、やっぱり絵になる。善悪がはっきりしているサクセスストーリーを、ここまですんなり視聴者に受け入れさせるのは、やっぱり彼のスター性が成せる業。さすがだった。
K:2019年を振り返るということでは「いだてん」(NHK)に触れたい。
T:駄作だと思っている方がいるようだが、決してそんなことはない。近代史を実名でここまで的確に、そして楽しく描いたドラマは他にない。
K:視聴率不振の風評もあるなか、全話見続けるというのは、視聴者としてもどこか耐久レースのようなところが正直あった。ただ、それを乗り越えた先にあったのは、視聴後によくある「ロス」(喪失感)ではなく、ドラマの出演者や制作者と一緒に一年間“ONE TEAM”で駆け抜けたような、ある種の達成感や充足感だった。そんな視聴後感はなかなか味わったことがなかった。
T:最初は場違いだと思われた落語も、「富久」で見事に五輪と融合した。このあたりの構成、そしてストーリーテリングのうまさは宮藤官九郎ならでは。井上剛、大根仁らのスピード感あふれる演出も素晴らしかった。
K:後半の「今の日本」に対する問いかけを田畑が熱く言い放つ場面や、日本が初参加したストックホルム大会は特に印象に残った名シーンだと思う。そしてNHK らしさで言えば、貴重な映像をたくさん見ることができたのもポイント。関東大震災で崩落した浅草の凌雲閣がカラリゼーションされた映像は衝撃的だった。VFXを多用し、過去のシーンに出演者をはめ込んだり、イメージ映像と落語の噺(富久)をかけ合わせたりと、普段の大河とはまた違った映像技術を駆使した演出も出色していた。このドラマは、見て損はなかった。

最終回、満足させたドラマと不満残すドラマ

T:他の作品はどうでしょうか?
I:前回の注目作であげた「モトカレマニア」(フジテレビ系)は妄想と暴走をポップに演出していてトリコになった。回が進むにつれて、恋愛を真正面から描くガチモードに。逡巡したあげく、やっぱり「好き」がなくちゃね、というユリカの佇まいは、恋愛にとどまらないメッセージになっていたと思う。
Y:同じく注目作であげた「時効警察はじめました」(テレビ朝日系)は、前作からのファンとして十分楽しめた。時の流れを感じさせつつも独特の世界観は変わらず、毎回多彩なゲストとストーリーで、舞台やショートフイルムをテレビで毎週見られるというような満足感があった。
M:「4分間のマリーゴールド」(TBS系)は釈然としなかった。手のひらを合わせることで、相手の最期が脳裏に浮かぶという、主人公の“才能”は必要なかったと感じた。姉弟として育った二人の恋愛や家族のあれこれ……、それだけのシンプルなストーリーのほうが入り込めたと思う。原作ものなので仕方ないとは思うものの、最後に“才能”が消滅した経緯もスッキリしなかった。登場人物の演技がみんな良かっただけに、少し残念。
H:13年ぶりの「結婚できない男」(フジテレビ系)も消化不良だったかな。結婚したらしたで、文句があるのだけれど、物語の終わりとして盛り上がりに欠けていたようにも思えた。同じく「同期のサクラ」(日本テレビ系)の最終話は駆け足過ぎた。1週間の中断も大きかったが、どちらも物語が外的な要因で屈折させられているのではないか?という近年ありがちな悪い傾向がそのまま出ていたように思う。改めて物語の終わらせ方の難しさをこの2作品で感じた。
I:そういう意味では、最後に感動させられたのは「俺の話は長い」(日本テレビ系)。姉と弟、義父と娘という微妙な関係の保ち方が、リアルに少し理想を足して描かれていて、参考になった。各話の小さなエピソードが最終話で回収されるのが心地よく、6年ぶりの就職試験に挑む満の姿に励まされた。町内を出ない世界でも、物語の深さが感じられた。
M:私も「俺の話は長い」。姉と弟、母と息子、叔父と姪、夫と妻……それぞれの関係が面白く描かれ、従来のホームドラマよりも言葉のテンポの良さが際立ち、全体のバランスの良さが光った。弁の立つ主人公は屁理屈ばかりで好感度が高いとは言いがたいのに、その言い立てる様は小気味よい。最終回を感動的に終わらせたのは少し意外だったけれど、後味はよかったかも。
Y:新しい試みが興味深かったという点では「ニッポンノワール」(日本テレビ系)も同じ。最終回ではドラマと放送時間をシンクロさせたリアルタイム展開を導入するなど、挑戦的な仕掛けが目をひいた。好きな時間に選択したコンテンツを視聴する動画配信との対比のなかで、どのように自局のドラマを継続的に放送時間に視聴してもらうかを工夫した試みが本格化していくことを予感させる作りだった。今後も地上波ドラマの制作手法でどのようなアイデアがでてくるのか、注目したい。

スカッとさせるところが強かった「ドクターX」

T:他にはどうですか?
I:もう一つあげるなら「G線上のあなたと私」(TBS系)。恋愛感情に「人間愛」でバリアを張る也映子、思いやりと恋する気持ちの間で揺れる理人。いろいろあるよね、と思いながら、不器用な2人の軌跡を楽しませてもらった。
N:ところどころに原作『シャーロック』らしさを散りばめていた月9「シャーロック」(フジテレビ系)は、事件解決を前に誉獅子雄(ディーン・フジオカ)がバイオリンを弾くシーンでの周囲を走馬燈のように取り巻く東京の風景のカメラワークが美しく全体的に満足。最終回で海に落ちるシーンはライヘンバッハの滝をイメージしたのかもしれないが、落ちる距離が短すぎたうえに沈んでいくという演出は少々陳腐だったかも。
T:BSからは「江戸前の旬2」(BSテレ東)をあげたい。前作の江戸前寿司のうんちくの面白さを踏襲しつつも、和食の世界にまで話が広がり食に対するこだわりが深まった。
H:食を扱うドラマが多かったのも今期の特徴ですね。「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)は周りでは評価がイマイチだったんですが……話題作としてはどうだったんでしょう。
T:腹の底から笑わせてくれる異色のコメディは前作同様だったけど、今回は男を好きになる男性の数が多すぎて、関係が複雑になってしまったのが残念。前作の魅力だった「切なさ」も半減していたように思う。
N:逆に今回の方が切なかった。主役の二人が違うシチュエーションで同じ物語を繰り返すという試みも、新たなご存じものとして楽しめた。
R:最後に視聴率トップの「ドクターX」(テレビ朝日系)についても触れておきたい。自分が育児真っただ中という事情もあるなかで、気軽に視聴できるのが良かった。今は単純にスカッとした気持ちで終わるドラマがなかなかないので。ただ、ちょっと博美(内田有紀)を出し過ぎかな。大門(米倉涼子)に被るようなキャラで、売り込みが強くて辟易するシーンもあった。また、娘は留学中なのだろうが、あなたはいつも紹介所にいて麻雀してビール飲んでいていいのか?など、細かいところが気になった。ただ、予定調和のなかで毎回工夫してドラマを作り続け、シリーズ6でこの作品を作り上げていることは評価できると思う。
T:そろそろ総括したいと思いますが、“意外な”「いだてん」熱の高さと10月期は「グラメゾン東京」が中心だったということですかね。
K:そうですね。2020年に向けて、「いだてん」の功績は大きいと思う。各大会で活躍したアスリートや大会のバックヤードで奮闘した人々の人間模様もしっかりと描かれており、彼らの物語から日本のスポーツ史を時代の社会背景とともに体系的に知れたということも大きかった。それは「ノーサイド・ゲーム」(TBS系)がラグビーW杯前に果たした役割と同じだと思う。
H:個人的にこんなにラグビーW杯が盛り上がると思ってなくて、W杯の後に「ノーサイド・ゲーム」やったら視聴率すごかったんじゃないかと、邪推してしまったが(笑)。
T:オリンピックイヤーのスタートとなる2020年1月期ドラマも注目作が多い。いきなり波乱となった大河もあるが、来年もいいドラマと出会えることを期待しましょう。

以上(2019年12月23日開催)
※関東地区で放送された番組を取り上げています