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ギャラクシー賞 テレビ部門 2019年5月度月間賞

NHKスペシャル「日本人と天皇」

430日放送/20002054/日本放送協会

51日の改元前後は、生前退位ゆえ全体に祝賀ムード一色で、日常から多様性とか多角的な分析の必要性を説いていたマスコミ精神はいったいどこに行ってしまったのかと思うほどだった。そんななか、皇位継承問題を正面から取り上げたNHKスペシャル「日本人と天皇」が異彩を放った。しかもあと4時間で令和元年というタイミングだ。

番組では吉田茂内閣で法制局長官を務めた入江俊郎氏の遺品から、1946年に女帝問題の再検討を訴えた三笠宮直筆の意見書を見つけ出し、「男系の男子が継承する」とした皇室典範に疑問を呈していたことを明らかにした。また、(新天皇を入れて)126人の天皇の約半数が側室の生んだ子であり、ここ400年で側室の子でないのは(当時)3人だけという意外な事実が小泉内閣の皇室典範改正諮問会議で示されたことまで伝えた。その会議の委員で元官房副長官の古川貞二郎氏が「(このままであれば)象徴天皇制は自然消滅する」とまで言っているのは衝撃的だ。一方、女性天皇・女系天皇が即位できるように改正しても、「マスコミが騒ぎすぎるから配偶者になる方がいるのか」と懸念する三笠宮のラジオ・インタビューも紹介した。皇位継承問題を考えるうえで、これらのあまり知られていない事実を明らかにした意義は極めて大きい。

かつて司馬遼太郎は新聞記者の職業上必要だが卑しむべき一つとして雷同性を挙げていたが、この改元騒動をマスコミの安易な同調と見る人がいた。523日の『論座』(朝日新聞社)で水島宏明氏は詳細に各局の報道を検証し「『ことほぐ』ムードに水を差すことを控える意識が送り手側の間で働いた」と分析し、63日付民間放送の機関紙で水島久光氏は「面倒なことは考えたくない逃避願望が透けて見える」「これを機会に『考えるテレビ』を取り戻せ」と訴えた。

現場のテレビマンたちは、横並び意識でつくる同じような番組はオリジナリティがないと叩き込まれたはずだ。数十年に一度だから、放送局の数だけ違う平成・令和特番があってほしかった。(福島俊彦)

 

水曜日のダウンタウン「新元号を当てるまで脱出できない生活」

58日放送/22002257TBSテレビ

  平成から令和へと元号が変わる、歴史上ただ一度しかないタイミング。これまでも数々の名企画を生み出してきた「水曜日のダウンタウン」が、乾坤一擲の大勝負に出た。その名も「新元号を当てるまで脱出できない生活」。同番組で初めて、1回の放送を1つの企画で構成した。実力派だがいまいち売れていない芸人・ななまがりが新元号発表前日に埼玉県某所に監禁され、新元号「令和」を当てるまで出てこられない。この絶対にやり直しの効かない企画を1組の芸人、1回のロケに賭けた胆力に驚嘆させられる。

無謀にも思える挑戦を支えているのが、論理的な企画の構成だ。監禁生活は、福本伸行のマンガ『カイジ』シリーズを思わせるルールのもとで進行する。5分に一度回答しながら、ミニゲームで貯めたお金で生活必需品や正解のためのヒントを購入する。視聴者の「お風呂かヒントか、自分なら……」という想像をよそに、二人がまず選んだのはタバコ。それぞれの値付けも絶妙にいやらしく、人間の業を見た気にもなる。

監禁5日目に1万円で購入したヒントは、回答に対して一定のルールで明滅する電球。仮説の設定と検証の繰り返しで明滅の法則を見出して正解にたどり着く終盤は、科学的手法というものを確立した人類の知性を称賛したくなる……とまで言うと大げさだが、「人間捨てたもんじゃない」と言いたくなる感動があった。

ゲームとしての面白さもさることながら、この番組で初めて「令和」という元号への率直な気持ちをテレビと共有できた気もした。二人が手探りで「安」の字が入るのではないか、「R」は頭文字にならないのではないか、と考える過程は、ほとんどの日本人の脳裏で一度は展開されたのではないか。R18年が来る可能性があるなんて、思った人がいるだろうか?

新元号を発表した官房長官は「令和おじさん」として名を売り、次期首相候補と報道された。であれば、この企画で人間味と知性と「歯姫」と言い出す破壊力を見せたななまがりは「令和芸人」としてブレイクできるのではないか。いや、してほしい。(藤岡美玲)

 

NEWS23「三島由紀夫vs東大全共闘」

516日放送/23002356TBSテレビ

皇位が継承されておよそ二週間後、「NEWS23」はTBS社内に残っていた三島由紀夫と東大全共闘の討論の模様を放送した。

思想的には天皇主義者であるが戦後の天皇制を批判していた三島と学生運動の旗手たちの思想は正反対ながら、三島が「これは100円以上のカンパを出して集まってるそうですが、私は謀らずも諸君のカンパの資金集めに協力していることになる。できればその半分を私の『楯の会』につぎ込みたい」と言って学生たちを笑わせたかと思うと、学生側も、思わず三島のことを「三島先生」と呼んでしまう場面もあった。

こうした和やかさがあるのは、互いに敬意を持って認め合うところは認め合っているということの証明であり、また議論が持論を感情で押し付けあうものではなく、知性でもって対話していることの証拠のようにも思えた。

この模様は本として刊行されてはいるが、映像で見るとまた違う。映像の力が実感できたのは、全共闘最高の論客と言われる芥正彦の登場シーンだ。彼は長髪にモヘアのような素材のグレーのルーズなセーターを身につけ、けだるそうな雰囲気を出し、自らの赤ん坊を頭に乗せて三島に向かう。三島の冗談に笑う学生たちのようなシーンも含めて、文だけでは伝わらない空気がそこにはあった。

この放送では、その芥正彦がVTRで登場し、この討論を2019年のいま、振り返り「人間が人間を考える時代の最後だった気がする」と述べているのだが、VTRを見ていると、その言葉がまさにあてはまる討論であったと同時に、現在の右派と左派の討論で「人間が人間を考えるためにある」ものが実現可能なのだろうかと考えさせられる。

討論会での最後、三島も学生たちに「言霊をとにかく残して去っていくので、これは問題提起に過ぎない」と語っていたが、まさにこの番組でこの討論会を取り上げる意義と、ぴたりと重なるように思えた。(西森路代)

 

バリバラ「スケッチコメディー~障害者が職場にやってきた~」

516日、23日放送/20002030/日本放送協会

「バリバラ」はマイノリティ目線でマイノリティ自身を発信、マジョリティとの見えないバリアを笑いで打ち壊そうという情報バラエティ番組。2012年に「障害者のための」番組として放送開始、16年から「生きづらさを抱えるすべてのマイノリティー」(HPより)のための番組へと進化した。そのバリバラのスペシャル企画「スケッチコメディー~障害者が職場にやってきた~」は、障害者が実際に経験したことをもとに、採用面接から着任、新人歓迎会など、新人が職場に着地しようという段階を時系列的に7つのコントで構成したコメディだ。

障害者法定雇用率2.2%達成を目指す大阪の三流企業、バリバラ商事。フルタチ部長(古舘寛治)率いる職場にはダウン症、脊髄損傷による車椅子使用者、視覚障害、発達障害、高次脳機能障害・難聴をもつ新人がやってきた。この5人を登場人物と同じ障害をもつ当事者が演じる。健常者の必要以上の気遣いや思い込み、勘違い。新人の戸惑いやつまずきをきっかけに、不便さを理解するため車椅子やアイマスクを使ってみるフルタチ部長など、健常者社員が意識と業務をどう見直せば問題化せずに吸収できるか、その簡単な対処法を示し、各編最後は歌と踊りで「まとめ」。

コントはあくまでコメディに留まり、背景にある障害者雇用のゴールは採用数比率ではなく就労者の比率というメッセージをリアルの世界に落とし込むのは、コント前後に挟むスタジオでのレギュラー陣・出演者のトーク。

MCの義足スプリンター・大西瞳の「実際の職場は余裕がない……障害者側もどんどん言っていくことが大事」、障害者相談支援専門員を務める玉木幸則の「車椅子に1回乗っても、ずっと乗ってる人の気持ちはわからない……こういうとこが使いにくいという感覚がわかるだけ」など、まさにバリバラ商事の社是のひとつ「障害はだいたい社会の中にある」に収斂する。シリアスな問題を笑いに包み「食べやすいが、よく嚙んでくれ」という制作者の思いが伝わる。(細井尚子)