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【ギャラクシー賞テレビ部門9月度月間賞】-「GALAC」2019年12月号

よるドラ
「だから私は推しました」
7月27日~9月14日放送/23:30~23:59/日本放送協会

SNSで「いいね」を“押し”てもらうのが生きがいだったアラサーのOL遠藤愛(桜井ユキ)が、あるきっかけから地下アイドルのハナ(白石聖)を“推す”ようになり、最終的にはストーカー化した彼女のファンの背中を“押し”てしまう。第1話で提示されたこの出来事の経緯を、取調室での供述という形で愛が刑事に語っていく。そしてその裏には、もうひとつの真実が隠されているという、サスペンス仕立ての構成が見事だった。
しかし、このサスペンス要素がなかったとしても、本作は十分に楽しめただろう。元地下アイドルの姫乃たまが考証を担当していることもあり、地下アイドルの活動実態やオタクあるあるなど、多くの視聴者にとって未知の世界の面白さがリアリティを持って描かれていたし、地下アイドルグループ・サニーサイドアップのメンバーも各々キャラクターが立っていて、レベルの高い楽曲も含め、思わずファンになってしまいそうなほど魅力的だった。
外からの「いいね」ではなく、自分のなかから沸きあがる情熱に従って動き始める愛自身の変化を、単に前向きなものとしてだけではなく、その危うさも含めて描いていたのもリアルだ。「推す」=「お金を落とす」ことでもあるという現実。だからこそ「推す」側と「推される」側の関係は、ささいなことでバランスを崩してしまう。そうした関係性のねじれを正面から描きつつも、オタクが推しを応援したいと願う気持ちそのものの熱量と純度は、きちんとドラマの中心に据えられていた。それはある場面で愛がハナに言う「ハナちゃんが大事にされてて、うれしいです」という何気ない台詞に集約されていたように思う。
この見事に練られた森下佳子の脚本を、若手演出家たちの挑戦的かつタイトな演出がさらに魅力的に仕上げていた。その集大成のような多幸感あふれるキレのいいラストシーンは忘れられない。30分×8回とは思えないほど、物語、キャラクター共に厚みのあるドラマだった。(岩根彰子)

NNNドキュメント’19
「大胡田家の風景~全盲の夫婦がみつけた家族のかたち~」
9月15日放送/25:05~25:34/読売テレビ放送

12歳のときに両目の視力を失いながらも、司法試験に合格し弁護士として活躍する大胡田誠さんと、同じく全盲の妻・亜矢子さんに密着した。障害を持つ登場人物による奮戦記=硬派な社会派作品とのイメージで見始めたが、実に明るく微笑ましい内容に見ているこちらのほうが元気づけられた。それはすべて、この夫婦のポジティブで楽天的な姿勢に由来する。起伏の少ない展開だが、そうに違いないと納得した。実際には幾多の労苦があるのだろうが、家族はそれらをいくらでも乗り越えることができる、とのメッセージが番組全体から伝わってきた。
そもそも障害を抱えながら5度目の挑戦で司法試験に合格し、社会的弱者のために尽くす誠さんの活動自体、頭が下がる。その彼は家庭ではどこにでもいる子煩悩な父親。娘と息子、そして親族の力を借りながら、ほかの家庭と変わらぬ暮らしを送る。そこで気づくのが亜矢子さんの存在だ。同じ障害を抱えるからこそわかるあうんの呼吸で夫を支え、子どもに愛情を注ぐ。
だからこそ妻の姿に引き込まれる。象徴的な場面は二つ。ベランダで洗濯物を干しているとき、亜矢子さんは靴下を落としてしまう。それがどこかわからぬ彼女は手探りを始めるが、息子がエアコンの室外機の裏に落ちていることを教えてくれる。ハラハラする場面だが、褒められて喜ぶ息子が母親に抱き着くところなんて、映画のようだった。
さらに亜矢子さんがガスコンロで玉子焼きを作る場面。考えただけで恐ろしいし、できるわけがないと思ってしまう。案の定、できあがったのは形がぐしゃぐしゃの玉子焼きもどき。危なっかしい手つきに見かねた娘が「やけどしても知らないぞ」と口走るが、亜矢子さんは「やけどが怖くて料理ができるか!」と、からりと言い放つ。この瞬間、こっちはストレートパンチを食らってしまった。
ちょっとへこんでしまった人も、これを見たらきっと何かいいものが見えてくるはず。夫婦と制作者に感謝したい。(旗本浩二)

「V6の愛なんだ2019」
9月23日放送/20:00~22:57/TBSテレビ

この番組は、かつて人気を博した「学校へ行こう!」の後継特番として2017年から年1回のペースで放送されている。今年も看板企画「未成年の主張」はもちろん、ANAとJALによる全面協力のもとパイロットを目指す生徒と「高校生飛行機クイズ」を開催したり、お笑い芸人志望の生徒のために霜降り明星を学校に呼び、ツッコミを指導してもらったり、学生の間で噂になっている“すごい学生”を直撃取材したりと、V6が学生たちの“良き先輩”として時に一緒にはしゃぎ、笑い、驚き、時に真剣に耳を傾け助言をし、彼らの悩みや夢に寄り添っていた。
なかでも秀逸だったのが、岡田准一が高校のアトラクション部でアクションの指導をした「岡田塾」。普段は文化祭などで特撮ヒーロー系のアクションを披露している彼らだが、男子部員を増やすためにプロモーションの映像を撮ることに。岡田は、身体の使い方や距離感などアクションの真髄を丁寧に惜しみなく教えていく。特にカメラとの距離を意識して自分がどう映っているかを考えるという話には、アクションをやる側だけではなく、視聴者にとってもアクションの見方を広げてくれる話だった。また「攻撃一つひとつを暴力で終わらすのではなくて、芸術まで高めないと人は見てくれたり、スゲエって思ってくれたりしない」という言葉には、アクション俳優としての強い信念を感じた。いよいよ本番となると岡田は妥協を許さない。細かな修正点を指摘し20テイク以上繰り返していく。その際も決して怒鳴ったりしない。改善点を具体的に伝え、良かった点を褒めながら励ます。若者にやる気を出させ良いものを作っていくときの理想的な教え方を示しているようだった。
V6は温かさと包容力で常に学生たちの思いを肯定する。彼らと接した学生たちがみな、みるみるうちに顔つきが変わっていくのが印象的だ。「愛」だとか「夢」だとかというのは気恥ずかしいが、V6を通すとなぜか自然に心に響いてくる。笑って泣ける青春の煌めきを見事に映し出した番組だった。(戸部田 誠)

土曜ドラマ
「サギデカ」
8月31日~9月28日放送/21:00~21:49/日本放送協会 NHKエンタープライズ

「サギデカ」は、特殊詐欺などを扱う捜査二課の今宮夏蓮刑事を主人公にしたドラマである。その今宮には二つの大きな出会いがある。一人は詐欺グループのかけ子の加地という青年。もう一人はバイクを通じて知り合う廻谷という男だ。
加地は詐欺集団のトップ“首魁”を追い詰めるために、捜査に協力をすることになる。一方、今宮と廻谷の間には恋愛感情が芽生えるのかと思いきや、廻谷が詐欺集団のメソッドを作る“頭脳”として関わっていたことが発覚。また廻谷は新薬の認可に向けて動いており、政治家へのルートを確保するために裏社会とつながっているという側面もあった。詐欺で騙される高齢者の被害で得た資金をもとに、多くの人を助ける新薬の開発が成り立っていて、大きな善のためには小さき存在を見捨ててもいいのかということも問う結末となっていた。
取り調べをする際、今宮は廻谷に「あなたの話には人の顔が見えません」と告げる。一方の加地は詐欺集団に関わっていたときは、被害者の顔が見えていなかったし、自分自身にも顔がなかった。第1話で今宮が加地に初めて取り調べをするとき、彼は身分を証明する証拠を自宅にもどこにも残していなかったが、今宮が彼の故郷まで行き、彼が心の拠りどころのように毎日聞いていた曲から彼の名前を突き止める。今宮の熱意のある行動が彼の顔を取り戻したのだ。
今宮は、振り込め詐欺の被害者に寄り添いすぎたり、刑事であるのにいろいろな人に共感しすぎたりするところもあったが、その気持ちが加地のような存在を救ってもきた。一方、世の中には同じように接しても、廻谷のように心が1ミリも動かない者もいる。結局、廻谷の件は政治家によってもみ消され無罪放免となる。
夢物語や理想的な結末ではない現実的な結末に打ちひしがれはしたが、今宮が捜査二課からいわゆる“ショカツ”に異動になっても、廻谷の罪を明らかにしようと諦めない姿に希望を見出し、また続編の制作に期待したいと思った。(西森路代)

★「GALAC」2019年12月号掲載